リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】 #人恋歌 メイシアタープロデュース SHOW劇場vol. 11 メイシアター × 劇団壱劇屋「人恋歌~晶子と鉄幹」

どうも。イマイです。

新年最初の観劇です。今年も舞台をたくさん観たいと思います。新年1つめの観劇は,いきなり関西からスタートです。本日は,壱劇屋さんのメイシアタープロデュース公演「人恋歌〜晶子と鉄幹」にやってまいりました。

関西小劇場を見始めてちょっと経ちますが,まだまだ伺ったことのない劇場ばかりでして,今回の吹田市メイシアターもそうした劇場の一つでした。劇場がいつもと違うこともあったのと,他の劇団さんの演目との関係もあって,ちょっと尻込みしていました。

しかし,そこはPRにおいて一日の長がある壱劇屋さんです。迷っているところに,第一場から第六場までの稽古場映像をYouTubeで公開するという太っ腹な情報公開が来ました。与謝野晶子を扱った芝居だから静かな感じで始まるのかなと思いきや,動に次ぐ動で構成されていて,これは面白そうだと興味を惹かれた次第です。

www.youtube.com

その上に映像化なしとの報が届けば,これは確実に1回は観ておかなければと,新幹線と人恋歌のチケット予約に踏み切った次第です。(トップページからご覧の方は「続きを読む」をクリックしてください)

無事吹田に到着し,さあ劇場まで…と思っても初めての劇場では, 道順も分からずに不安なことが多いですが,壱劇屋さんのブログには初めての劇場でも困らないように,道案内までバッチリ書かれています。割と多くの劇団さんが実施されていますが,こういう細やかな気配りも壱劇屋さんの魅力です。

ichigekiya.jugem.jp

この道順通りで迷うことなく,メイシアターまでたどり着くことができました。

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会場は大中小のホールが取り混ぜられた配置。一瞬どこが小ホールか分からなくなりますが,ちょっと探すとお馴染みの幟と美麗なポスターパネルが出迎えてくれました。

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受付でチケットを受け取り,物販で台本とブロマイドを買い求めた後,客席入り口でチケットもぎりを済ませてホールの中に入ると,舞台を含めて客席まで扇形の会場が広がっています。舞台上も弧の形でその弧に沿って階段一段分ほどのステップが組まれ,舞台中央に向かって坂になっています。舞台後方ではまた下手側から上手側に向かって上り坂になっている段があり,また傾きが逆の段もあり,小さな空間の中に様々な傾斜が付けられています。

では,千穐楽前なので,ネタバレ防止の改行を連打したいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

あらすじは下記の通りです。いつもの壱劇屋さんに観られるファンタジーとか不条理的な世界からは少し離れて明治の実際に生きた人物をモチーフにしたお話です*1

広大なロシア平原をシベリア鉄道が走っている。
夫・与謝野寛を追ってパリへ向かう晶子。
私はなぜ彼の元に向かっているのか?
子供たちを置いて、仕事を置いて…。
自身の半生が走馬灯のように彼女の脳裏に浮かび、
汽車はやがて大阪から東京へ向かう車中へと繋がる。
勘当同然の身で出奔したこと。
才能を見出され、歌人として交流を持った文士たち。
苦しい生活のこと。
戦争の足音。
凋落する詩歌結社。
夫の裏切りと自暴自棄。
母である前に、ひとりの女性として生きるには?
豪雪の中をひた走る汽車のように、
歌と恋を燃料にして晶子の旅は続く。 ( http://stage.corich.jp/stage/78501 より)

パリへ向かうシベリア鉄道の中で「晶子の記憶」が引き出されていきます。シベリア鉄道の客車と東京を「晶子の記憶」が行き来する中で,何故シベリア鉄道に飛び乗ったのかが明かされていきます。時間の前後関係が行き来しながら,少しずつ全貌が明かされていく様に,いつの間にか今敏監督の「千年女優」を重ねていました。

キャストの数からして,登場してくる人物は割と多いのですが,そこは「晶子の記憶」の中だからか,河本もよなどは本当にあっさりと描かれていて(よほど良くない記憶だったのでしょうか),世話をしていた石川啄木などは魅力的に描かれるという違いがあって,メリハリがしっかりとつけられています。

こうした物語の細やかな書き込みとともに,壱劇屋さんならではボディーパフォーマンス,音響,照明などが組み合わされていき,フライヤーと重なるような鮮やかな部隊が展開されていきます。シーンごとに挟まるパフォーマンスはちょうど,シベリア鉄道の客車の中で晶子が記憶をスキップさせながら思い出している構造と重なっているのではないかと感じました。

傾斜が付けられた前面の台は,あるときは腰掛け,またあるときは街道と多彩に入れ替わります。キャストが足踏みをしながら数珠つなぎで舞台裏までつながっていることで,小さな舞台がとても大きな空間の一部であるかのような錯覚すら覚えました。よくよく考えてみると,この弧は舞台裏まで続く線路であったのかもしれません。

Twitter上で他の方も仰っていましたが,晶子がクライマックス近くで,ひとりで独白するシーンはシーンの静かさも相まって,強く強く印象に残りました。そして最後のシーン,晶子が全ての登場人物とすれ違いながら上手に向かって歩いて行くところは,実は台本を確認すると定義されていない演出です。このシーンは,そこまで出てきた人物がどれも個性的なキャラだったことを確認できる時間で,SQUARE AREAでも観られる,壱劇屋さんのサービス精神や丁寧さだと思っています。この丁寧さこそ壱劇屋さんの魅力だったと改めて感じた次第です。

どのキャストさんも素晴らしいのですが,晶子を演じる西分綾香さんは,まさにこの舞台の主役としてふさわしい八面六臂の大活躍でした。男と普通に渡り合う芯の強さもあり,病に倒れやつれることもあり,それでいて鉄幹に一途な女性を多彩に演じ分けていらっしゃいました。物語の大半を占める「晶子の記憶」の中では,辛かったことも楽しかったことも,詩人の晶子らしく言葉豊かに表現されていて,それを舞台上に表現しようとするのは並大抵の苦労では無かったと思うのですが,観ているときにはそんなことを感じさせず,自然に演じられていたことはさすが壱劇屋のTwitter番長の西分さんだと思いました。

安達綾子さん演じる斎藤夫人は,まさにTHE上流階級というタイプの品の良いお嬢様の役です。私が拝見した壱劇屋さんの舞台では,安達さんはどこか庶民的な役どころが多かったので,そのイメージがついていたのですが,今回の舞台を拝見して,役者さんって役どころに応じて千変万化の演じ分けができる方達なのだと,その凄さに圧倒されました。美しくて高貴な感じの安達さんは是非他の作品でも拝見したいなと思うほどでした。

この舞台を一言で言うと,新しい壱劇屋さんの引き出しをまた魅せて頂けた舞台だと思いました。疾走感とか,ボディーパフォーマンスとか,そこに至るまでの緩急の付け方とかはまさに壱劇屋さんなのですが,さらに一チャンネル違うものが加わった感じです。くすぐりを封印しても*2,魅せ続ける深さを観せて頂いたような気がします。

Corich!舞台芸術舞台芸術アワードで,見事2016年度第一位を獲得した壱劇屋さんは,今年もたくさん楽しませてくれるに違いないそう考えた,今年最初の観劇でした。

stage.corich.jp

2017/01/21 22:44追記:そういえば,平塚らいてうは昨年Spiralmoonさんの「荒野ではない」で主人公だったなあと思い出しました。人恋歌のらいてうは最初からある種合理的な論戦を挑む人物として描かれていますが,「荒野ではない」のらいてうは自分の意志ではありながら仲間に促されてほぼやむなくという感じを受けたので,この時代の人物は本当に色々な見方ができるのだなと改めて思いました。

【観劇ログ】SPIRAL MOON第35回公演「荒野ではない」 - リブラリウスと趣味の記録

そういえば,言及し忘れていましたが,湯浅さんのらいてうは最後に出てきただけなのに,その存在感たるや目を見張るものがありました。それからTwitterでの湯浅先生の人恋歌講座は観劇前に大変参考になりました。

 

*1:そういえば,役者さんの名前をもじって役名がついていない(西分さん→西野さんなど)のも新鮮な感じがします。

*2:中盤のもよとたつが焼き芋をかじりながら「歌作んないと気が済まない」というシーンまで,目立った箇所はなかったように思います