リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】劇団壱劇屋東名阪ツアー「新しい生活の提案」東京公演

どうも。イマイです。

締め切りとか義理とか人情とかに追われる日々はそれなりに辛いものです。でもそんな日々を一瞬だけでも忘れたりできるのが観劇趣味なんだなと最近思います*1

1.はじめに

さて,今日は上半期一番楽しみにしていた1日でした。6月24日(土)は本業のお誘いとか,業界的に顔を出しておきたいイベントがたくさんあったのですが,全て一番最初に決めていたこの予定のためにお断りしてやって参りました。私の推し劇団である劇団壱劇屋さんの東京公演であります。

壱劇屋さんと言えば,「世にも奇妙なエンターテイメント」を掲げ、パントマイム・ダンス・会話劇・コント・アクションなど、様々なジャンルを複雑に融合させた作風で,お客さんを楽しませることに全力で挑んでくる劇団さんです。そして,事前に盛り上げることであればおそらく私が存じ上げている劇団さんの範囲では間違いなく一番です。

例えば,3月25日(土)のチケット発売イベントとして,AmebaFRESH!で座長と劇団員が全身タイツを着用しながら,ひたすら物販用の缶バッチを作り続ける放送をしています。

 このイベントの間には,関西の主要劇場にチラシ置きに行っている劇団員さんの現在地をTwitterで公開しつづけ,運良く出会えるとその場でチラシがもらえるという試みも行っています。

 どこかでみたオッサンが写っていますが,お気になさらず。ともかく,この試みはファンからするとものすごく嬉しくて,たまらないイベントだったことは間違いありません。

そして,これ以外にもたくさんのイベントを仕掛けていらっしゃいますが,私的には以下のクラウドファンディングで,ちゃんとホテル泊まりの遠征費用,およびゲストさんのオファー用の費用として資金調達をして,見事達成しているところも素晴らしい取り組みだと思います。

motion-gallery.net

こんな風に前書きだけでたくさんの文字数を打ち込めるくらい,私は壱劇屋さんが大好きです。

さてこのままですと,なかなか本題に入れなさそうなので,劇場へと移動しましょう。今回の東京公演は大塚にある萬劇場です。入り口で劇団壱劇屋の幟も出迎えてくれます。

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 2.開演前まで

開場すると,コンパクトなスペースに物販がたくさん。缶バッジ,舞台写真,Tシャツ,台本,過去作のDVD,ボールペン,メモ帳,トートバッグと,目移りしてしまうほどの充実っぷりです。

壱劇屋さんといえば,舞台写真もものすごく綺麗なのです。

後の感想でも繰り返し申しあげますが,私は壱劇屋さんの魅力は,マイムやダンスを中心とした動の部分と,動によって強調される静の美しさにあると思っています。特に私の場合,壱劇屋さんの舞台はそのまま絵にして飾っておきたいようなシーンがいくつもあります。劇団員の河西沙織さんによる写真はその舞台の空気や迫力を的確に表現されている写真なので,ぜひ一度お手にとって頂ければと思います。

さて受付を済ませて,地下2階の劇場へ。途中地下1階の階段の手すり付近には,劇団員さんたちの幟もきちんと掲示されています。幟を横目にワクワクしながら劇場へ入ります。

今回,木曜日,金曜日の公演だけでなく,土曜日の公演に来場したお客様にも特製の「壱劇屋市役所生活課」のボールペンがプレゼントされています。このまま物販で売っても良いくらいのアイテムを無料でもらえるとは太っ腹であります。

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客席から舞台を眺めると,青色の照明が舞台を照らしています。青い照明は,1つごとが6つの小さな円で構成されていて,そして中央には本公演のチラシが一枚落ちています。この何かを示唆する暗さの中で開演時間が刻一刻と近づいてきます。

開演時間10分前の前説には劇団員の井立天さん*2,そして開演時間時の前説には,座長の大熊隆太郎さんが登場してきました。どの劇場でもお馴染みのスマートフォンの電源オフについてだけでなく,避難経路についても丁寧に説明が行われました。「自然と開演します」との言葉通り,大熊さんの退場後,すぐにBGMが大きくなり,客席の照明が暗くなりました。

3.あらすじ

今回のあらすじは下記の通りです。

男は一枚のチラシを拾った。
サラリーマンの絵が描かれたチラシだ。
目が赤く髪はボサボサ。
無数のカードを差し出されている。

「会社と家を往復する毎日。
掃除して洗濯して日が暮れる。
義務だから向かう学校。
このような生活からの変更を申し込まれる場合は、
生活課へご相談ください。」

男はこの奇妙なチラシに導かれ市役所に。
たらい回しをこれでもかと受け、
男は役所の奥深くへ。
そこには無数のカードを差し出してくる職員たちが。
いつの間にか男の目は赤く、髪はボサボサになっていた。
https://stage.corich.jp/stage/80883 より引用)

 

では,後日でもネタバレが嫌だという方のために,恒例の改行連打を行います。改行連々打です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開演直後は,カードを使ったパフォーマンスから始まります。太っ腹なことに,開演パフォーマンスも公式映像としてYouTubeにアップロードされています。

www.youtube.com

「噛む,おいしい,飲む,ベジタリアン」など,様々な「生活」をめぐる要素が,言葉とダンスによって表現されていきます。なお,東京公演では行為を始める前に「結婚」,「勤労」などのカードが提示され,それぞれのキャラクターが何を表現しようとしているのかが分かりやすくなっていました。

ほどなくして,今回主役の小田切乗助がスーツ姿で登場し,舞台中央に落ちていた「新しい生活の提案」のチラシを拾います。そして,西野,小早川,藤森,岡崎,安部,高松が様々な「生活」の要素を提示していき,小田切はそれらの生活に取り込まれていきます。

歩き続けるマイム*3の後,場面は変わり,市役所のシーンへと移動します。市役所の中では慌ただしく人が移動し,とりあえず小田切は受付で生活課の場所を尋ねます。案内された場所で待っていると,何故か順番飛ばしをされ,順番が回ってきたと思ったら,また別の窓口へと誘導されます。いわゆるたらい回しにされてしまっているのです。

この間も,たらい回しの様子がマイムで表現されていて,上の階への移動を5人ほどで上方に指を指しながら表現していたり,座っている演者が一方を指さしている所めがけて,訪問者がダッシュしたりと数多くの目を引くシーンが出てきます。

そうこうしているうちに,市役所の最果てにある部署にたどり着いた小田切の目の前には,カードを配りゲームに興じている3人の女性が現れました。見ると,ババ抜き,七並べ,神経衰弱,インディアンポーカーなどが混在した謎のゲームに興じています。小田切はゲームの切れ間に,生活課の場所を3人に聞きます。

ゲームに興じていたテーブルは天板がこちらに向けられ,カードで矢印が作られます。ここでももはや意地悪のレベルに到達するような最後のたらい回しが行われた後,ようやく小田切は生活課の受付まで到達します。「ご記入下さい」の合図と共に,個人情報をフォームへ書き込んでいく小田切,何と生年月日が私と1日違いの小田切*4,年収が450万円の小田切は,ようやく対応を受けることになります。

普段どんな生活をしているかを生活課の職員は尋ねてきます。「18時30分」,「帰宅」,「その第一声は?」との問いに「ただいま」,「帰ったよ」,「無言」の発声,そしてカードが提示されます。

ようやく本編に入ってきました。そうです。このカードを小田切が選択していくことで物語が次々と進行していきます。小田切の現状は,帰宅後,「無言」で「無人」で「ご飯」をまず食べる生活でした。しかし,職員が強制的に「帰ったらまず」の問いに「わたし」のカードを引かせます。

そのカードを引いたことに小田切が照れていると,先ほど応対した職員はいつの間にか嫁に変わっていました。市役所はいつのまにか小田切の自宅へ切り替わり,気まずい静寂の雰囲気の中,晩ご飯のシーンが進んでいきます。あまりにも冷え切った夫婦生活に疲れ切った小田切の現状が提示された後,職員は様々な生活の提案をしていきます。

  1. 「居住の提案」(選択肢:建築,引越し,流浪,自作)
  2. 「労働の提案」(選択肢:転職,職転,解雇,起業)
  3. 「結婚の提案」(選択肢:離婚,愛人,新妻,現状)

田切は生活課から提案されたさまざまなカードの中から,「自作」,「職転」,「新妻」を選びます。小田切がカードを選択するといつの間にか職員は消え,新妻がその場に姿を現します。いよいよ小田切の「新しい生活」が始まりました。小田切は果たして幸せな生活を送ることができるのでしょうか。その結末はぜひ本編をご覧になって下さいませ。

4.感想

この舞台は,後ろから俯瞰してみるか,前の方でそれぞれの役者さんに注目してみるかで見え方がだいぶ異なり,好みもだいぶ変わってくるのだと思いますが,私は断然前の方でそれぞれの役者さんに注目してみるのが好きでした。

ここでその魅力について説明するために,土曜日夜のアフターイベントで「ワンシーン再現撮影会」で撮影した写真を参考資料として提示したいと思います。

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この写真で,中央部に照らされているスポットライトにご注目ください。これは中盤のシーンのダンスシーンの再現ですが,色とりどりの照明が多数舞台に降り注いでいます。このきらびやかな照明に照らされた役者さんは,胸が切なくなるレベルでカッコイイのです。

こうした魅力を存分に味わうために,前の方で見ることでより強く魅力を感じることができている気がしております。

さて,壱劇屋さんの魅力として,ダンスやマイムによる動の魅力がたくさん語られます。もちろん,今回のステップモーションや,側転やタイミングを合わせた数多くの動きは,これだけを観に来るだけの価値があるものです。

しかし私としてはもう一つ,こうして写真として切り出したときの静の魅力を強く主張したいです。思い切り動きまくっていた役者さんたちが,一瞬止まった時に見せる立ち居振る舞いのカッコ良さは,動の魅力を存分に発揮できる壱劇屋さんだからこそ見える静の魅力だと思います。

そういえば,今回の演目には多くの二項対立が用意されていました。例えば静寂と喧噪です。爆音のBGMに乗りながら舞台を所狭しと駆け回るオープニングや,NEWDAYの朝のシーンは喧噪そのものですが,冷え切った妻との会話のシーン,弟と借金の話をするシーンは逆に静寂に包まれた空間となっています。それ以外にもシリアスなシーンとコメディのシーンがサンドイッチされています。考えてみればラストシーンの選択肢も「新」と「旧」のカードでした。こうしたところでメリハリがつけられているためか,,上演時間の110分は瞬く間に過ぎていきました。

私が一番好きなシーンは,クライマックスの小田切が牢にとらわれるまでの盛り上がりです。特に大きな赤ん坊が泣き出して,役所の職員に捕まるあたりの音楽とも相まって,なぜか何度も見ているはずのこのシーンで毎回涙が出てきています。待ちに待った新しい世界に対して希望と不安を抱える赤ちゃんが,今まさに生まれ来る瞬間,というシチュエーションに対して,私が感じる切なさと重なっているのかも知れません。上手く言えていないですけれど。

それから,「世にも奇妙なエンターテインメント」という言葉に代表されるように,最初の入り口は入りやすいのに,気がつけばとても不思議な世界へと巻き込まれているストーリーの魅力があります。ここは「市役所なのかレストランなのか」というセリフに象徴されるように,終盤ではあまりに混沌として小田切の目の前にはシミュレーションなのか,現実なのかが分からないシーンが数多く登場します。ラストの「新」と「旧」も,あれは現状の妻なのか,職員なのか最後までその答えは分かりませんが,この余白を考えるのも奇妙な世界の楽しみ方だと思います。

そして何よりもキャストさんたちが,全員ものすごい身体能力を持っていて,普通だったら難しいと思われる動きも難なくこなしている所も魅力です。他の団体さんが真似しようと思っても簡単には真似ができないと思います。そして,どのキャストさんも舞台上では八面六臂の大活躍でして,みんながメインキャストだという所*5も魅力だと思います。

いろいろな言葉をつかって表現してきましたが,「スタイリッシュ」という言葉が一番ピッタリな気がします。要するにカッコ良くて,センスが良くて,見とれてしまう人たちなのです。もちろん,これはキャストさんだけでは構築される世界ではなく,作演出の大熊さん,音響の椎名晃嗣さん,照明の小野健さんという壱劇屋さんではお馴染みのスタッフの皆さんに支えられているからこそ,成立している世界だと思います。

宣伝告知の盛り上げと同じく,こういう見惚れてしまうような素晴らしいパフォーマンスを毎回提示してきてくれるからこそ私は壱劇屋さんが大好きなのです。

そうそう,すっかり言い忘れておりましたが,毎回のゲストさんもこの舞台を引っかき回す素晴らしさを持っています。どの回も腹を抱えて大笑いできるものばかりでした。サンプルで私のツイートを貼り付けておきますが,このシーンばかりはお腹が痛くなるレベルで爆笑していることが多いです。ぜひこれは劇場で一度ご確認下さい。

5.キャストさんへ御礼コメント

 勢いに乗りまして,今回ご出演の皆さまを紹介申しあげたいと思います。(以下,物販の台本の奥付に掲載されている順です。お名前の所にはそれぞれの方のTwitterアカウントへのリンクを張っておきます)

  1. 田切役の竹村晋太朗さん。全てのシーンで一度も袖に退くことなく,出ずっぱりの主役です。速度を変えた徒歩や走りのマイムを含め,ただただ圧巻の素晴らしさです。スーツを逆にしても,あれだけ巧みに動けるのは凄いの一言です。クラッシャー級のゲストさんとの絡みでも,世界を崩壊させないまま,きちんと笑いを取っていく辺りは流石だと思います。
  2. 元嫁役の安達綾子さん。冷えた食卓のシーンの怖さと,その後にくる新妻と話す近所の奥さん役の朗らかさのギャップはとても印象的でした。相手をにらみつける眼力の強さは,単に怖いというだけでなく,引き込まれる魅力があります。前の節でも書きましたが,ラストシーンは職員なのか,妻なのかは未だに解決できていない問題です。
  3. 新妻役の高安智美さん。生活課の矢印が正しい方向に向いた後の変顔に毎回やられております。とても可愛らしい方で,確かにあの新妻だったら小田切のテンションも上がるのは仕方ないと思いました。終盤の通称「ライオンキング」のシーンで見せるダンスのキレの良さも注目です。
  4. グローバルな妻役の藤島望さん。とにかく本役の英語で話すシーンが巧みで,グッと注目してしまいます。個人的にはオープニングの市役所で白い照明に照らされている様子はモブ役ながらハッとさせられる品の良さや美しさがあり,正雄との借金のシーンで小田切にらみつけているあたりは凄い迫力を持っています。
  5. 西野役の西分綾香さん。今回の話の中で一番ミステリアスな役で,切り替えが一番難しい(でも軽々と切り替わっている)役だと思います。気の優しい子なんだけれど宗教にはまっていてということだけでは説明できないような,何か神秘さを感じました。職員役の時のハッとするような明瞭な発声は流石です。
  6. 小早川・赤子・業者役の小林嵩平さん。噂に聞くとおりの発汗量と声量を持つ方。中盤の岡崎が語るシーンでトラスの鉄棒を掴んで逆上がりの回転をした後,その場でペダルをこぐマイムをしている箇所,そして縦向きの鉄棒を掴んで水平方向に伸びをして,そのまま歩くマイムに入るところなど,身体能力の高さは素晴らしいなーと思いました。
  7. 岡崎役の岡村圭輔さん。「人恋歌」の時もハッとさせられたのですが,客席後方まで響き渡る声量の大きさ,明瞭さは随一の方です。小田切に向かって岡崎が社会の尊さを語るシーンは,怪しさ全開なのですが,岡村さんの低音ボイスによってなぜか強い説得力を感じました。この声のカッコ良さはぜひ劇場で聞いていただきたいです。
  8. 正雄役の丸山真輝さん。今回一番露出度が高く,そして一番ボコボコにされているかわいそうな役どころ。人が悪くなさそうなのに借金を重ねてしまうダメな弟が等身大で的確に表現されていたように思います。また中盤からはずっと全身タイツの服装で出続けていて,明らかに不自然で奇妙なのですが,何故かなじんでしまう不思議さがあります。これが壱劇屋の劇団員さんのなせる技でしょうか。
  9. 夜積極的な嫁役のゲストさん。このブログ執筆時点では,スイッチ総研の光瀬指絵さん,アガリスクエンターテイメントの塩原俊之さん,大阪バンガー帝国の大塚宣幸さんをそれぞれ拝見しています。光瀬さんは初日の難しい空気の元,セクシー路線と思いきややたら演技指導が細かくなかなか行為に至らせてくれない嫁,塩原さんは何故か千葉ロッテに造詣がやたら深く,謎のキャラクターをお手製の工作で作り上げてきてしまう嫁,大塚さんはバミリのテープをはがす暴挙にまで至った上に,口の中に残る竹輪を主役に食べさせて危うく舞台を壊しかける(そして大爆笑をかっさらっていく)嫁など個性派集団でした。3回とも危うくお腹がつりかけるレベルで笑わせていただきました。最高です。

こうやって勢いでキャストさん紹介を書き連ねてみましたが,あの多様で複雑な世界を8名+ゲストさんだけで描いていることに改めて驚愕しています。やっぱり凄いや,壱劇屋さん。

6.おわりに

今日の日のために、色んな人に迷惑かけてますが,人生でトップクラスに幸せな観劇日でした。壱劇屋さんの皆さんは最高です。生きてて良かったです。またこんな日が迎えられるように、明日からの生活も頑張ります。

不思議なことに最後のこの項まで,言葉がスラスラ出てきました。それだけ自信を持って面白かったと言える素晴らしい舞台です。

stage.corich.jp

*1:こう見えても仕事のことは割と休日にも考え込むタイプです。

*2:今回は裏方なので物静かにされていますが,ものすごく動ける方でかつイケメンの方です。

*3:これもカッコイイのです!

*4:特に意図はないそうですが,東京公演で初めて聞いた時にはひたすら驚いて動揺いたしました。

*5:つまりは劇団さんとしてのまとまりがあるわけですが。