リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】SPIRAL MOON第35回公演「荒野ではない」

ども。イマイです。

気がつけば今年もあっという間に年末になってしまいました。10月末に怒濤の関西遠征を行ったとは言え,11月も気がつけばもう月末でした。今回は,通算3回目の観劇となりますSPIRAL MOONさんの新作を観に東京下北沢の下北沢「劇」小劇場までやって参りました。

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 SPIRAL MOONさんは私が観劇している他の劇団さんと違って,普段からSNSがすごいとかUstreamで過去作品をバンバン流すとかそういう派手さは無いのですが,舞台を観終わるごとに,質実剛健というか,1つ1つを丁寧に丁寧に作っていることが印象に残るユニットさんです。

そういえば6月末に前回公演を伺った際もこの下北沢「劇」小劇場でした。今回もあるかなと思って,開場後に席を確保したあとにある場所へ。

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今回もお手洗いにアロマキャンドルがちゃんと置かれていました。そして周囲にはキレイな飾りまで。お客さんの中でトイレを使わない方は見過ごしてしまいそうな小さな配慮なのですが,こうした細やかな配慮がとても嬉しいです。

客席に座ると舞台後方に大きな壁があり,その前には4枚の障子戸が組まれています。その前には足の低い座卓と,原稿用紙とペン。そして印象的なことに,1つの鳥かごがポツンとおかれています。

stage.corich.jp

さて,このブログを書いている段階で残すところあと千穐楽だけという段階ですが,ネタバレ防止のために改行の連打をしたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライヤーに書かれているあらすじは下記の通りです。

むかし,海賊になりたい少女がいた。

少女は生きて,恋をして,書き,子を産み,育て,死んだ。

少女は,ことばをつむぐ場所を用意した。「青鞜」と名づけられたその雑誌に,多くの女性が集まった。嘲笑され,痛罵され,石を投げられながら,息をするように,ことばを書いた。

—虐げられ,搾取される者は,ことばを知らねばならぬのよ,わたしはここにいる,わたしはここにいるって,言ってごらん,弱くて情けなくて寂しいものは,そうしなきゃ,生きることを許されない。

やがて冒険の果て,それぞれの生の軌跡が離れていくまえの,これは群像劇。むかし,海賊になりたい少女がいた。

この「青鞜」という雑誌の名前とともに,特定の人物が連想される方もいらっしゃるでしょう。この物語の主人公は平塚らいてうこと,平塚明(はる)です。

私自身は恥ずかしながら,平塚らいてうの功績はほんの少ししか存じ上げていなかったので,調べ物をして補足をしながら,ログを進めていきたいと思います。

開演すると,机の上にあった鳥かごはなくなり,一人の女性が現れます。この女性こそが平塚明であり,どうも何かを思い出しているようなそぶりをします*1。そうこうするうちに,自伝で語っていた昔と今が交錯し,舞台はタイムスリップし,「青鞜」が発行されていた第一次世界大戦直前の日本へと移ります。

その後,青鞜社の事務所で様々な登場人物が出会い,試行錯誤し,激動の時代にもがいていた様子が「群像劇」として描かれていきます。明が自伝を執筆する中で拾い上げられた記憶の断片がつなぎ合わされて行くように,物語は進行していきます。

序盤からとにかく印象的なのは,セリフのリズム,そして語順です。また平塚らいてう著作に現れるフレーズも所々で取り入れられているようで,詩的な表現がたくさん現れます。

今きちんと覚えているのは,「私とあなたの間に森がある」「言葉でしか残らない」というフレーズだけですが,他にも100年先の人に伝わるようにとか,どれもこれも台本を手に入れて*2,読み返したいレベルの美しいやり取りが数多く行われていました。

その他にも「私はおなかが空いた」を「おなかが,空いた,私」と順番を変えてリズミカルに掛け合う様はまるで歌を歌っているような感覚すら覚えました。このシーンだけでもDVDで拝見したいと強く思った次第です。こうした冒頭の二人の掛け合いから,セリフや演技の巧みさもあって,一気に舞台上の演技へと引き込まれていきます。

戦前の日本を舞台とする演劇では,完全に当時の口調を再現すると不自然すぎる一方,現代的なやり取りを入れすぎると途端に興ざめする恐れが出てくると思われますが,本作においてはそうした破綻はみじんも無く,さすがSPIRAL MOONさんだと勝手に思った次第です。

おそらく,ラストシーンも含めて色々な解釈ができる舞台なのでは無いかと思います。ただ私には,平塚らいてうを含めて,あの舞台に立っている全員が少しずつ世間に刃向かいつつも等身大の人間に見えました。

丁寧に丁寧に進められていく物語の中で,明たちが弾圧を受け,決して余裕は無い状態の中でも,雑誌を発行する目的の中で一致団結していく様が数多く描かれます。でも,決して海賊の英雄譚が朗々と語り継がれていくのではなく,それぞれの人物が自分たちの大切にしたいと思ったモノを必死で守ろうとした結果が少しずつ舞台上へと積み上がっていきます。

90分のお芝居で, 大号泣も大爆笑も存在しない世界なのですが,それでもここのシーンが大切に作られていることから,どのシーンも目を離すことのできない注目すべきシーンでした。派手なことをしなくても,ここまで演劇はきれいに,そして心に迫るものができるのだと再確認した次第です。

話によれば,次回公演は7月14日からとのこと。これだけ丁寧な作りのお芝居をまた観に行けたらと思い,今からちょっと予定を空けておこうと思ったのでした。

SPIRAL MOON 35th 公演「荒野ではない」

*1:おそらく1970年の最晩年に自伝の口述筆記をしていた頃ではないかと思います。

*2:当日は販売されていませんでしたが