リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】匿名劇壇 第九回本公演「レモンキャンディ」

どうも。イマイです。

関西小劇場を色々拝見するようになりましたが,まだまだ名前が挙がる劇団さんでも,未見の劇団さんは数多いです。

1.はじめに

関西遠征するにしても,お目当ての劇団さんを何回も見たいという気持ちが働くので,新規開拓を億劫がることも増えてきました。そんな中,東京公演を打ってくださる劇団さんはできたら多く見ておきたいなと思う次第です。

と,偉そうなことを申し上げておりますが,本日の観劇は完全に邪な目的です。既に6月の壱劇屋さんを東京で見ることが確定している中で,壱劇屋さんのPRに注目していたところ,こんな企画のお知らせを見かけました。

ichigekiya.jugem.jp

異なる3劇団の半券を集めると未公開の作品ブックレットがもらえる…。読んでみたいという気持ちが半分,これをきっかけに,名前を見かけながら観劇のきっかけがなかった2劇団を見に行けるのじゃないかという気持ちが半分でした。

そんな中,スケジュールを調整してみたらどうやら3つとも見に行けるかも知れないと思って,本日は王子の花まる学習会王子小劇場までやって参りました。

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2.セットについて

受付を済ませてロビーに入ると物販が充実しています。匿名劇壇の作演出の福谷さんはOMS戯曲賞大賞を昨年受賞していて,その戯曲も物販で売られていました。物販でパンフレットと台本を買い求めて,客席へと向かいます。

客席に座ると,目の前には円盤状の舞台が30度ほど傾いて(下手側が高くなっていて,上手側が低くなっています),その上に丸テーブルが置かれ,8つの椅子が取り囲んでいます。そして,手すりが上手と下の両方に取り付けられています。円盤の周りには,つららのような高い壁が放射状に広がり,青から紫の照明が薄暗く舞台を照らしています。

入場した瞬間,このセットぐみだけでワクワクしてきました。その期待を様々な曲をリミックスしたBGMが盛り上げてくれます。開演時間になって,まるでテーマパークのジェットコースターに乗る前に流れるような,明るい開演アナウンスが流れます。

では千穐楽前ですので,ネタバレ防止の改行連打をおまじないとしていたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.あらすじ

あらすじは以下の通りです。

ここは落下する飛行船。
上空1000000000kmで、ついに故障した飛行船。
地面に到着するまでが、あと七日間の飛行船。
四人の女と四人の男。
何をして過ごそうか。

( https://stage.corich.jp/stage/81041 より引用 )

開演アナウンスが流れた後,舞台が暗転します。暗転中,悲痛な叫び声が長く聞こえ,視界が暗順応しきったあたりで,舞台が明るくなり,全ての登場人物が舞台上にナナメになって存在しています。

高度10億キロから落下する飛行船*1の閉鎖空間の中で,男性4名,女性4名がもう止められない落下の最中,あれやこれやと時間を過ごすという物語です。

パニックになる者,冷静を装う者,どちらなのか分からない感じのくせ者と様々な登場人物が舞台上に登場します。物語の最初は,テーブルの上の唐揚げに「レモンをかけて良い?」と聞きながら,既にレモン汁をかけていることを咎めて,それはおかしいと主張する曇天という男性に,「でもレモンは嫌いじゃなかったんでしょ」快晴という男性が返し,曇天が「そういう問題ではない,自由に関する問題だ」と言い出して揉め始めるところから始まります。

そんなことどうでも良いじゃないかと思いながらも,言葉の応酬をするなかで,その奇妙な構図についつい笑いがこみ上げてきます。

さて,そうする内に舞台の上手でうずくまっていた大学院生の女性の夜霧が話し出します。気絶していたことから何も分かっていないようで,事態が全く飲み込めていません。高度10億キロなんておかしい,なぜここは無重力ではないのかと,素朴に思う疑問も,それを主張するのが夜霧以外には誰もいません。それどころか,「宇宙」や「無重力」という言葉の意味さえ分からないという人物ばかりで,冒頭から上手くいかないコミュニケーションが連続していきます。

なお,物語の始まりは落下開始から既に数時間が経過して,夜霧はその間気絶していたという設定になっています。登場人物達は既に状況を受け入れていたり,そこまでの状況説明はだいたい終わった後となっています。そのためか情報はかなり断片的に伝わってきます。観客も夜霧と同じ状況に置かれています。多くの「?」を抱えながら,夜霧は疑問は他の登場人物にぶつけていきます。私は物語の冒頭,夜霧に注目しながら,夜霧というマトモな人物対それ以外の訳が分からない人々という構図で眺めていました。

舞台上では物語が進むにつれ,ホスト,アイドルマニアで漫画家,アイドル,フィクション症候群の患者,スタントマン,宗教家,娼婦という多種多様な職業が勢揃いしていきます。どれも登場時に強烈なインパクトを残し,吹き出すタイプのリアクションを残すキャラが多く,声を上げて笑うシーンも多く出てきます*2

全方位からツッコミどころの設定で大騒ぎが続き,夜霧は意を決して窓から外に飛び降ります。しかし,外に出たところで同じ速度で落下しているので,実は意味がなかったというオチがつきます*3

そうこうしているうちに時間が経過し,残された7日間は6日間へと減ってしまい,シーンはまた別の登場人物にスポットを当てていきます。さて,この登場人物達は最後はどうなるのか…それは劇場でご覧になって頂ければと思います。

4.感想など

今回,初めて匿名劇壇さんを拝見したのですが,状況説明が最低限で,異常な事態を感じたままにぶつけ合っているからか,各々の台詞が印象に残りました。特に「終わろうが終わるまいが祈るから,祈りなんだよ」がお気に入りです。台本を読み返してみると,同じフレーズが間を置いて繰り返されている所もリズムがついているように見えて興味深かったです。登場人物もそれぞれに癖があって観劇後に個々の背景を想像してもう一度楽しめる作品だと思います。物販で台本購入がオススメです。

物語の感想ばかり続けてしまいますが,キャストの皆さんも魅力的な方ばかりでした。全て初めましての方と思いきや,石畑達哉さんと,東千紗都さんはどちらも壱劇屋さんのMash UP プロジェクトで拝見していました。石畑さんの脳まで筋肉が詰まっていそうなスタントマンの暑苦しさとビビり加減は目を惹くものがありましたし,東さんの素直になれないアイドルのキャラクターは終盤の歌唱シーンでは特に可愛く見えました。それから,アイドルマニアの砂嵐は,何度もアイドルグループ「しゃかいもんだいっ!」の曲を熱唱せざるを得ないのですが,砂嵐役の杉原公輔さんは,奇妙な歌詞をアカペラで熱唱されていて,最初は爆笑していましたが,終盤の方はとてもカッコ良いキャラでした。あそこまで応援できるのは凄いぜ。

さて,終演後のアフタートークは,以前「梨の礫の梨」で拝見したiakuの横山拓也さんが登場するとのことでしたので,そのまま伺って参りました。福谷さんが本作品は「頑張ってサービスした作品」だったとか,最初に夜霧が飛び降りた時には本当は下から風を当てて髪を逆立てる予定だったとか,セックスシーンの描写についてとか,よそ見をする気も起こらないくらい興味深い話が沢山ありました。その中でも,福谷さんが遠慮がちに余白の多さについて語っていらっしゃいましたが,私はこの余白の多さがとても好きです。

劇場を見た瞬間面白かったーというお芝居も好きなのですが,ああでもないこうでもないと考えながら思い出して噛みしめるお芝居も私は大好きです。こうやってブログを書きながら,それぞれの登場人物のセリフを思い出すのは楽しい時間です。

以上,Twitterの140文字ではなく長文で取り急ぎ表現してみました。アフタートークで福谷さんが仰っていたまとまった文章が読みたいというリクエストにはお応えできたでしょうか…。不安しかありませんが,表現しないで仕舞い込んでおくのももったいないので,こうやって公開したいと思います。

とにもかくにも,ちょっと忙しい時期だったのですが,無理して王子小劇場まで伺って良かったです。またこうやって新しい魅力を持った劇団さんに出会えて幸せであります。

 

stage.corich.jp

*1:本来,これだけの高度があれば宇宙空間に飛び出してしまうはずで,奇妙な設定なのですが重大な伏線になっています。

*2:このあたりがアフタートークで福谷さんが仰っていたサービスと言うところなのでしょうか。

*3:実はここ窓だと思ったら窓ではなくて,普通にただの小部屋だったというシュールなシーンだと最後まで思っていました。なので,ラストシーンで同じ場所が開けられて「地面が近づいている!」と聞いて,えっ?そこ本当に窓だったの?と思ってしまいました。