リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】theatre PEOPLE PURPLE 2019夏公演 「STRANGE CLAN」 ~ストレンジ クラン~

どうも。イマイです。

観劇ログの書き方を忘れるほど,色々な仕事に追われておりましたが,やっぱり観劇ログを書かないといろいろ気になって仕方がありませんので,時間の合間を縫いながら書くことに致しました。よろしくお願いいたします。

今回は,玉一 祐樹美さんのお誘いを頂きまして,theatre PEOPLE PURPLEさんを観に来ました。どこかで名前をお見かけした方がご出演とのことで,よくよく調べて見たら関西拠点の劇団で,2006年の池袋演劇祭で大賞を受賞した劇団さんでした*1

劇場は池袋のあるすぽっと。300名が入る少し大きめの劇場です。演者きっかけでそれ以外は事前知識なしで拝見する初めての劇団です。初めての出会いに不安と期待を入り交じらせつつ,開場時間を待ちました。

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 1.開演前

先ず会場に入って圧倒されたのがこちらのセット。終演後に撮影許可が出たので,遠慮なく撮影しました。立派な洋館の雰囲気はこれだけでテンションが上がってきます。撮影禁止と思ってメモを必死に取っていたのですが,書き出す項目がたくさんありすぎて頭を抱えていたほどの詳細なディティールがそこには存在していました。

もちろん素舞台も楽しいのですが,セット組みがしっかり組まれている作品はこれだけで安心できる何かがあります。

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2.物語

公式ウェブサイトによると,物語のあらすじは下記の通りです。

第二次世界大戦中、ロンドン郊外。
森の中にひっそりと佇んでいる屋敷に
とある一族が住んでいた。
その一族に召使いとして

雇われることになったオリヴィア。

彼女は恐ろしくなり

屋敷からの脱走を試みるが、

しかし、この屋敷ではなんだか
【奇妙なこと】ばかり起こる。
どんなに逃げても

森の中から出ることができない。

たどり着くのは屋敷の門の前…。
ひょんなことから、彼女はその一族の秘密を知ってしまうことになるが…。

(公式ウェブサイト https://www.theatrepeoplepurple.com/strangeclanより転記)

千穐楽が終わった後ですが,再演時に見る方のためにネタバレ防止の改行連打をしておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語は洋館の広間で,数人がロボットダンスをするところから始まります。操り人形が舞っているかのように錯覚する時間の後,誰もいなくなった洋館のドアを1人の男性,ルークがノックします。

老婆がそのドアを意地悪して開けないようにする仕草は,重々しい雰囲気ながらとてもコミカルで冒頭から客席には笑いがこぼれていました。

屋敷の主人である女性が一晩泊めることを勧め,老婆がそれをとがめるという構図が描かれつつ,ルークは嵐の中,一晩泊めてもらうことに成功します。ルークは広間の片隅に置かれていたハードカバーの本を手に取り,中を読み始めます。

そこに書かれていたのはこの屋敷とかつて住んでいた家族の物語でした。

物語は屋敷に住んでいたアトウッド家,町に住む泥棒と詐欺で暮らすノーラン家,そして街中,森の4つのシーンで構成されています。ルークが本を読み解く度に家族の物語が明らかになっていきます。

イリアム博士が開発したヒューマン・リバイバルプロジェクトと銘打たれた,戦争によって生み出された人間を生き返らせる技術。これは,心臓だけを蘇らせることはできず,新鮮な血液の接種を常に必要とする不完全な技術でした。

人間と友達になりたかったブランドン・アトウッドとノア・アトウッド,それを必死に止めようとするウィリアム博士とバーバラ,ブランドンとノアに出会って友達になろうとした孤児オリヴィアが物語の中心を担います。人間を信じようとしたブランドンとノアの純粋さ,それに共感し悪意を持たずに近づいたオリヴィアの無垢な感情,それを悪用しようとするノーラン家の愚かさや滑稽さが何層にも重なって厚い物語を形成しています。それに物語の要所要所でジョークやギャグ*2が小気味よく挟み込まれて,気がつけばあっという間に物語は終盤となっていました。

最初から破綻が予期されている物語の結末はどうなったかは,ぜひ劇場で目撃してくださいませ。

3.感想

  • 初めての劇団さんだったので,実はちょっと警戒しているところがあったのですが,開始数分,訪問者の返事を聞く前にバタンと閉めたドアのやりとりからあたりから,その警戒は解けて作品に入り込んでいました。
  • 物語がガッチリしているからこそ,キャラクター同士のやり取りがとても生き生きしていて,終盤の破綻では感情移入していました。だからこそ,人間側に憎しみを抱くような感情が私には芽生えていて,悲しいという感情よりも,何か義憤に近いような感情がそこにはありました。ただ物語の構造としては,人間側も異種を排除しようとする義憤に駆られて,アトウッド家を殴打したわけです。これはあくまでも,バーバラの視点から見た物語ということに気づいたときには,少しドキッとする複雑さがそこにはありました。
  • 子役が本当に効果的な登場の仕方をしていました。ブランドン・アトウッドは邪気なくただただ違う存在として生きているからこそ,物語から退場するときの寂しさは他のキャラとは違った強い喪失感がありました。
  • ノーラン家は愚鈍というか,愚かな人間の象徴として描かれていて,憎めないやりとりはしながらも,終盤はアトウッド家を破綻に導く扇動を行っていて,その愚かさを嘲笑したら良いのか,扇動に対して怒りをぶつけたら良いのか戸惑う位置づけでした。ただ,おそらくはアトウッド家を破綻させたのは,綿密に練られた悪意ではなく,一つ一つは小さな悪意だったのだろうなと,シーン一つ一つを思い返しながら考えています。
  • あと,全体に挟み込まれているギャグが私はとても好きです。マジメな物語に挟み込まれるからこそ,集中が持続しますし,物語の筋を際立たせてくれています。玉一さんに伺ったところによれば,毎回このギャグは練り直されるとのことで,劇団さんの力の入れようが分かって驚いた次第です。
  • アトウッド家のメンバーは劇中,「私たちには,誰かを殺すとき死にゆく際に出会いたかった人ともう一度会わせることができる」との言葉を口にしていました。もちろんその言葉通りに受け取ることもできますが,私はウィリアム博士が5人を正気にとどめようとした狂言ではとも考えています*3。アトウッド家のメンバーは全員死ななくても良かったかもしれないのですが,もしあの物語がそのまま続いていたのであれば,違った形での破綻があり得たのかなとも思っています。
  • そしてもうひとつウィリアム博士の妻の話が出てくるところ,赤ん坊の話は語られないままでした。物語の展開としては,蘇った人間に怒りの感情を持たせなかった理由として示唆されているかと思いますが,ウィリアム博士が語らなかった内容に思いを馳せるだけでももう一つの物語ができるような予感があります。
  • お誘い頂いた玉一さんは,頭の回転が速いけれども容姿は優れず,学歴も得られなかった田舎の出の娘を好演されていて,愚かで滑稽なノーラン家でも,恐ろしい行動を起こせてしまうのだという怖さを際立たせていました。

とても本格的な作品で,たっぷりと楽しめた2時間でした。まだまだ見たことのない劇団があることはとても幸せなことです。出会いにただただ感謝です。

www.theatrepeoplepurple.com

*1:なお,2014年から4年間の充電期間に入っていたとのことで私が小劇場を本格的に見始めた時期とずれていました…

*2:関西小劇場を私が大好きな理由です

*3:なぜなら死んだ人間が失った人に出会えたという描写はされていないので