【観劇ログ】劇団フェリーちゃん第四の航海『MimitoMetoAo〜ミミとメとアオ〜』(海バージョン)
ども。イマイです。
本業絶賛繁忙期で泣きながら仕事しております。
観劇はちょいちょいやっているのですが,観劇の行き帰りに仕事をしないと回らないくらいの繁忙期でして,すっかり観劇ログをお休みしておりました。楽しみにしていた方,ごめんなさい。
ただ,今日見てきた劇団フェリーちゃんの作品はネタバレ含めて感想を書きたくなったので,休止中だったのですが,ブログを再起動したいと思います。
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開演前
劇団フェリーちゃんは昨年から私の本名の方でマジコラボをして小劇場での研修という夢を叶えてくれたすてきな劇団でして,何なら本公演の二週間後にはそのネタを中心にフォーラムまでやっちゃうくらい,普通の距離感ではない劇団さんであります。
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前回本公演もシアター・ミラクルという小劇場を舞台に殺陣はやるわ,客席から登場はやるわ,壁を崩壊させるわ(何,お淑やかな主宰と穏やかな劇団員のキャラからは想像がつかないようなチャレンジをしてくるカンパニーです。
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王子小劇場で公演すると聞いた時には正直驚きましたが,果敢に挑むところがまたステキなところであります。そんなこんなを考えるうちに王子小劇場へと到着し,名物の地下二階への階段降りをしていました。キャストさんに招かれるまま,客席へと向かっていきます。
(ここでネタバレ防止の改行連打を入れておきます)
まず劇場に入って驚いたのが通常のドア側客席,奥側舞台ではなく,奥側が客席,手前が舞台という構成です。なので,舞台を通って客席に向かうという非日常が味わえます。
なんなら前説しているこの三人の後ろからお客さんが入場してくるという状態でして,これだけでも,何か違うなという感じがいたします。
前説の三人もどっしり落ち着く,バタバタと落ち着きがない,その中間とバランスがとれていて,キャラクターを崩すことなく,秩序だっています。
舞台の上手には木箱と帆船の縄ばしごが貼られ,下手には写真のような岩で作られた玉座が備えられています。
開演時には折り畳まれた式次第を読み上げるような形で前説が行われていて,テーマパークのアトラクションに向かうような錯覚すら覚えるほどでした。
あらすじ
劇団の公式ブログによればあらすじは下記の通りです。
ラングラント侯国が派遣した探検隊は,長い航海の末に,未知の友人島"アトレカウティム"を発見する。島を支配する女帝トラクリエは,娘のシチョメを儀式の生贄にしようとしていた。残酷な儀式を止めさせようとする探検家たち,しかしその真の目的は…
歌うミミ,踊るメ,そしてアオい花が咲き乱れる美しい古代帝国を舞台に と空と大地とヒトとが紡ぎ出す,圧倒的なファンタジー。
物語はぜひ劇場で見届けてくださいませ。
感想
- 今回の作品,作演のなにわえさんに言ったら?の顔をされていたので,おそらくはこれがテーマではないかと思うのですが,本作は「裏切り」が裏テーマなのかと思うほど,全ての人物が意図して,もしくは意図せず,時には無邪気に裏切っていく作品でした*1。しかも「裏切り」は,ある種の醜さとか泥臭さ,人間くささが付きまとうものだと思うのですが,本作はそれらを描きつつも美術作品であるかのような美しさがありました。
- 人間の葛藤とか慟哭を描くのは演劇としてよくあるものだと思うのですが,少なくとも私の「メ」でみた限りは,裏切りという行為ですら絵の中の一コマとして,客観視できるようなファンタジーに昇華されていたように思うのです。
- そう思えるほどにあの舞台は,名称の複雑さを始めとした世界観がしっかりできあがっていて,キャラクターは人間でありながらまるで違う生き物であるかのような感情の動きで,そして演出もストレートプレイというだけではない様々な要素が盛り込まれていて,どこにもなさそうな非日常が描かれていたように思います。泣けるとか,笑えるとかではまた表現できない,それでいてあれこれ言葉をこねくり回したくなる魅力が本作にはあります。
- 王子小劇場の中二階をもうまく使っていて,高さをうまく出している演出にうなりました。私個人はアートラがケツァルに肩車されながらシチョメに壁越しに話しているシーンが容易にはたどり着けない距離感がでていてとても好きです。
- 見る人によって感想が異なりそうな作品ですが,私はとにかく好きです。カーテンコールキャンセル,客席での面会なしを含め,キャストさん全員で世界を維持しようとしている所はそれだけで嬉しくなります。
- 劇団フェリーちゃんは若くて勢いがあるというだけの魅力ではない魅力があります。例えばカテゴライズを頑なに拒否する尖ったところや,闇の描き方が繊細なところが挙げられるのですが,本作ではそれが模索から提示へと変わりつつあるのかなと思った次第です。
- でも何よりも,何か言葉にならないけど圧倒されたとか,魅せられたとか,そんなことを口にしたくなる感じの魅力があって,そんな非日常が目の前で見えるというのはすてきな体験だと思います。今日はそんな体験をしました。
キャストさんをひと言紹介
- アズル役の伊藤瑛佑さん。立ちはだかるものへと銃口をすかさず向けるダークさは凄みがあり,サブストーリーを思わず考えたくなるような,背景の厚みを感じました。普段お持ちの穏和さを完全に消していて,怖さすら感じた次第です。
- シーニィ役の義積雄大さん。母親の幻影を追い続ける不安定さと,それを隠すために威勢を張る滑稽さ,そしてキブルに結局は銃口を向けてしまう弱さが同居した哀しい役どころでした。
- キブル役の福丸繚さん。飄々とした影のない役回しは,本作の数少ない癒しどころで,殺陣の動きのキレも含めて全体的に魅力たっぷりの役でした。
- ランソー役の瀧澤由舞さん。パンフレットでも触れられているように台本からは想像が付かない印象に残るキャラクターです*2。でもだからこそ感情や本音が隠されていて,物語の狂言回しになる重要な役割が不自然にならずに展開されていました。
- マーヴィ役の岩崎あゆみさん。おそらく本公演では初の根っからの悪女役*3。存在感や貫禄があって,崩壊するときの叫びが堂に入っている感じで,また前作とも印象の変わる魅力がありました。
- ニール役の秋月優季さん。マーヴィの前で気弱で影が薄い…と思いきや中盤から思いっきりアオの薬(おそらくは麻薬)中毒になって,あれよあれよという間に狂っていく役どころでした。予定調和的な物語の雰囲気を一気に変える怖さのあるキャラクターです。
- トリクラエ役の柚木成美さん。高貴な貴族を演じたらさすがな方で,特に終盤のミミとの対峙は,劇団フェリーちゃんのこの場でなければ出せない感情のぶつかりと迫力を感じます。
- シチョメ役の池永里穂子さん。王女ながら,怖いという感情を言葉で説明できないほどに閉じられた貴族の世界で暮らしていたことが伺えるキャラクター。物語の中では数少ない生き残ったキャラクターで誰も裏切っていないようですが,彼女もまたトリクラエを見捨てているという裏切りがあると気づいてまたゾッとしました。
- コアトル役の原田達也さん。最初から最後まで謎がたくさん残るキャラクター。おそらく島の崩壊まで見通していた千里眼の持ち主と勝手に妄想しております。落ち着いたローボイスでさらりと恐ろしいことを口にするので,この世界がまともなのか,それとも最初から狂っているのかが曖昧になる怖さがありました。
- メンク役の萩原愛子さん。シチョメを守りたいという想定しやすい感情の持ち主ながら,シチョメがそれを素朴に引き裂いていってしまう哀しい運命の持ち主。島の中ではおそらく最もまともな良識派ながら,最後はトリクラエの命令をきっちり裏切っていきました。
- アートラ役の石塚正俊さん。「王女を助けたい」という感情だけで突っ走る,空気の読めない島の住人。でも空気を読まないことが一番この島ではまともな感情を持ち続けられるという皮肉があったのもまた面白く。シチョメに向かって壁の向こうに呼びかける所から,肩車に乗って語りかける一連のシーンがなんだかとてもカッコ良いのです。
- ケツァル役の山本リョウさん。姉を殺されながらもアートラの願いを叶えることで精神バランスを保つ,この物語の数少ないまともな一般人。肩車の時にアートラのことをちょいちょい上目遣いで気にしているのがとても愛らしく感じました。
- ミミ(シペトテク)役のなにわえわみさん。人外か幻かさえ曖昧ではあるのですが,この世界の奇っ怪さと,本作のおどろおどろしさを際立たせる怪奇派の演技と,美しいソプラノボイスは一見の価値ありです。唯一無二の存在です。
- メ(フフ)役の北村真帆さん。オープニングの踊りからの感情を炸裂させていく一連のシーンに心をグッと掴まれました。本作がそこらへんの作品とは違うぞと予感させるに相応しいパフォーマンスでした。
というわけで,久しぶりにブログをどうしても書きたくなる作品でした。11月4日(月)まで王子小劇場で上演中です。