【観劇ログ】劇団壱劇屋「独鬼〜hitorioni〜」
どうも。イマイです。
先月,劇団壱劇屋さんの「【勝手に】秋の演劇まつり」の第一弾であるシャドウトラフィックに馳せ参じたわけですが,早くも第二弾がやってまいりました。
もう来ることは心に決めていたので,後は何回観るかの算段をしながら襲い来る仕事をバッサバッサと切り捨てていくだけでした。切り捨て御免。いくつか情けで切り捨てるのを見逃しつつ(ただやり残しただけ),大阪は日本橋のシアトリカル應典院までやってまいりました。
1.前振り
今回は,應典院近くのグルメスポットを劇団代表の大熊隆太郎さん自ら紹介されています。
独鬼を見に来たらこれを参考にしなよ!特に遠征の方!これを参考にしなよ!
— 大熊隆太郎 (@Okuma_Ryutaro) 2016年10月29日
強制はしないよ! pic.twitter.com/QhJbfNgYbC
東京にいると,こういう情報はスルーしがちなのですが,今回は大阪遠征と言うこともあってフルに活用させて頂きまして,黒門市場というところへ行って参りました。ちょっと奮発して,無事美味しいものにありつけました。(幾ら應典院は来慣れているとはいえ)知らない場所だとこういう情報はどうしても入手しづらいですし,こういう細やかな気配りが嬉しい限りです。
今回は劇団壱劇屋さんの番外公演,ノンバーバルの公演です。前作のノンバーバル公演は,Corich!舞台芸術アワードで10位にランクインした人気作です。見逃したことを後悔するのは普通に起こりえることですが,何かとんでもないことをやらかしてしまったような気さえする見逃しでした。演劇祭り向けの東京遠征チラシ配りが相当のきっかけにはなりましたが,それでなくても遠征を検討していたかもしれないシリーズです。
その上,今回は何と,予定されている公演全てのチケットが当日を待たずに売り切れるという快挙を成し遂げた公演と言うことで(そのため月曜日の朝に急遽追加公演が決定しました),期待は高まります。今回は30日の13:00の回を皮切りに,16:30,20:00,それから31日の追加公演である11:00と14:00の回,合計5回を観ることになりました*1。
このログは30日の3公演を観た段階で書いていますので,もし残りの2回で何か気がついたら追記したいと思います*2。
では,千穐楽前ですので,ネタバレ防止の改行連打を入れます。
2.あらすじ,ストーリー
物語のあらすじはこちら。
【あらすじ】
死なない鬼はずっと独りで生きていた。
何千年、何万年、途方もなく続く年月。
普通に生きることに憧れる鬼は、ある女の一生を隣で過ごすことになる。
途方もなく続くうちのたったの五十年。
五十年が終わるとき、鬼は何を想うのか。
そんな死なない鬼の終わらない一生のお話。
舞台上では, ノンバーバルのアクションパフォーマンスが70分展開されます。そのため,一切の台詞が存在しない演劇です(叫び声とかうめき声のような言葉にならない声は発せられます)。台詞がない代わりに,音楽やアクション,顔の表情といった他の要素で物語を表現していきます。
おそらく文化的な文脈の違いからそのままでは上手く行かないかもしれませんが,日本語が全く分からない外国人の方でも十分に楽しめるような作品ではないかと思います。
物語の中心キャラクターは死なない鬼。何千年も何万年もただひとり,生き続ける孤独な存在です。表情は顔から失われてしまっていて,感情を表現することさえ忘れてしまうような長い時間をひとりで過ごしています。
人間達からはその不死ゆえに疎まれ,祠の中に閉じ込められるような扱いを受け,ただただ孤立しています。そんな中,祠にひとりの女性が訪れ,祠に手を合わせます。鬼は祠の中からただただ眺めるばかり。女と共に男がやがて訪れるようになり,ふたりは子どもを授かります。
しかし,野盗の集団が集落をおそい,赤ん坊を抱えながら女は祠の前まで逃げてきます。女は祠の扉を開け,赤ん坊を隠そうとします。女は祠の中で長い年月たたずんでいた鬼と出会うことになりますが,驚きもせず覚悟の表情で女は鬼に赤ん坊を託します。
結局,野盗の集団に夫婦は殺されてしまいます。鬼も野盗の集団に切りつけられますが,感情無く野盗の首をはね飛ばします。野盗が死ぬ間際に紐飾りを持って這いずり回ります。
この赤ん坊と鬼の出会いが物語の大きな柱を形作り,感情を表現することを鬼は少しずつ思い出して行くのです。たとえ心から笑えるようになるのが,赤ん坊が天寿を全うしてしまう時であっても。
3.ここが魅力!
いつもだと文章でつらつら書くのですが,見づらいことと,遠征先で遅くなって明日の追加公演に寝坊することはしたくないので,箇条書きで失礼いたします。
- 鬼が夢の中以外ではほとんど笑わないことに気がつきました。ともに過ごしてきた女性を失ってから、ようやく感情が解き放たれたようで、だからこそ最後の幸せそうな顔も余計に哀しくみえました。
- 二面舞台なら二回は観ないとと思ったら左右でまた違う景色が見えるので二面×左右で四回は観ないといけないことが分かりました。
- ノンバーバルと言うことで,第1回目の観劇で早速台本を買ったのに、中を見たら可能性が収束してしまいそうで、なかなか見られませんでした。普通のお芝居ならこういうことはまず起きないので,新鮮な経験でした。
- 舞台を拝見した瞬間に,音楽のPVみたいという言葉が思い浮かんだのですが,パフォーマンスが進むにつれて,ダンスでもなく,PVでもなく,殺陣パフォーマンスでもなく,これを言葉でどう表現したらよいのか,悩んでしまうほどでした。それほどまでに壱劇屋さんならではの独自性とか,先進性がちりばめられています。
- おそらくあらすじを全く入れていなくても十分に楽しめる作品です。むしろ文脈などを考えずに自分の頭の中で構築されたストーリーに沿って楽しむということもできてしまう解釈の余地があります。
- キャストの方が多数出演されているので,おそらく2,3回観ただけでは全ての方のアクションは網羅できないのでは無いかと思います。でも舞台上で注目が集まる場所と違うところでも,細かい演技をきちんとキャストさんはされていて,複数回観るときには,注目のポイントを変えてみてみるという見方も可能になっています。
- キャストさんはどの方も素晴らしいのですが,限られた時間で特筆すると,竹村さん,大熊さん,河原さん,真壁さん,石原さんが印象に残りました。
- 竹村さんは言うまでも無く,最後の大立ち回りを含めて終始動きっぱなしの役であって,すっかり見せられっぱなしでした。
- 大熊さんは,立ち居振る舞いや姿勢の全てが芯が通っていて,意外と和物のチャンバラとか真面目にやっても面白いのではと思うくらいカッコ良い感じでした。
- 河原さんはハンドスプリングをはじめ,舞台上でのアクションが際立っていて,最近はコミカルな役どころを多く拝見していたので印象がだいぶ変わった方のひとりです。
- 真壁さんは男の子役が本当に凜々しくて,既に他の舞台で何度も拝見しているのに最初は分からないくらいなじんでいました。サークル上に駆け回る際に身体がナナメっている感じが際立っていて良かったです。
- 石原さんは私が関西小劇場をDVDでいろいろ拝見している段階で,あちこちに登場している大スターの方で間近で拝見できて大変嬉しかったです。(たぶん間近に観るのは「れみぜやん」以来でした)鬼に突き飛ばされたときの倒れっぷりと受け身は迫力があってかつ説得力ある美しさでした。
- 音響の超低音がガンガン聞こえてくるのは壱劇屋さんならでは。ただ万事が万事大音量では無く,ON/OFFの切り替えがハッキリしているので,飽きることはまずないです。
- 舞台と客席が近いので,刀を振り回したりキャストが走り回る度に風が起こります。DVDではこれだけは再現できないので,存分に味わって帰りたいです。
- 舞台効果の白い雪も本当に効果的なところで登場します。舞台上にさらなる遠近感が生まれ,自分もそのシーンに立ち会っているかのような錯覚すら覚えます。
ノンバーバルで表現することは,決して制限では無くて,想像力を膨らませ,全てのシーンを印象深くすることが出来る表現手法の一つなのだと実感しました。壱劇屋さんはスタイリッシュで様々なことに挑戦されている劇団さんですが,まだこんな違う引き出しを持っているのかと,今回の公演でもただただ圧倒されました。こういう出会いがあるから観劇趣味というのはどこまで経っても止められないのです。