【観劇ログ】ジョーカーハウス「百華妖乱」
こんにちは。イマイです。
暑い夏がやってきまして,寝苦しさにふと目覚めることの多い日々,いかがお過ごしでしょうか。新作公演は欠かさず拝見しております,伊藤えん魔さん率いるジョーカーハウスを観に,池袋はシアターKASSAIまでやってまいりました。
恥ずかしながら,私はジョーカーハウスの開演時間をよく間違えておりまして,前回も前々回も開演時間を間違えて,ギリギリもしくは遅刻で飛び込むことがあり,何やってんだろうと落ち込むことが続いていました。
今回の劇場入り口で出迎えてくださったのはこちらの掲示。これなら間違えることもありません。早速写真に撮って,スケジュールを確認しました。
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1.はじめに
ジョーカーハウスさんといえば,物販ラインナップが充実している劇団さんです。今回もパンフレット,過去公演DVDに加えて,公演ブロマイドセット4パターン,2ショットチェキ券,初日公演撮って出しDVD,1番くじとラインナップの豊富さは随一だと思います。
早速,過去公演DVDと初日公演撮って出しDVD,2ショットチェキ券を買い求めた上で,1番くじを引いてみました。
5等で一番下ですが,ランダムでもらったチェキは,全員集合のチェキでなかなかに貴重なショットだと感じました*1。
さて,この物販で私が買わないと決めているものがあります。それがパンフレットです。なぜなら,このパンフレットは開演直前に,役者さんが手売りに来るのであります。そう,こんな風に。
土曜日の11時公演は,佐々木穂香さんと,時雨もかさんのペア,14時30分の公演は,橋本真衣乃さんと佐々木穂香さんのペアでした。ちなみに橋本さんが今日がお誕生日とのこと。めでたい。
この客席への販売も,キャストさんによってだいぶ色が違っています。作品世界を大切にする方もいれば,そんなこと知ったこっちゃないと笑いを取りに行く方もいて,開演前に早めに到着した時の楽しみになっています。
舞台上に目を向けると,舞台後方が高くなっていて,真ん中に階段が取り付けられているだけ,ジョーカーハウス特有の簡素な舞台が見えます。写真でも伺えるように,天井からは青のスポットが3本と白のスポットが4つ,舞台上を照らしています。和物のBGMが流れる中,開演時間を待ちました。
それでは,ネタバレ防止の改行連打を致します。
2.あらすじ
物語のあらすじは下記の通りです。
維新開国の時代の狭間、
世は混沌としていた。絢爛な文明開花を謳歌する浮き世に紛れ、
その若者、弥太郎は日陰で貧しく生きていた。
しかし、弥太郎には別の世界が見えていた。
それは「人の世に潜む妖魔の存在が見える能力」だった。
出会う者はおろか、旧知の者の中ですら妖魔はいた。人の世に紛れこむ魔界を見る事は弥太郎を絶望させた。
ある時、 妖しの妖術を操る術者:幻心尼が現れる。
幻心尼は「人としての何か」を渡せば、
その力を封印できると持ちかける。
代価は肉体の指先、腕、足、または声、耳、眼…。自棄になっていた弥太郎は言われるまま「言葉」を渡す。
その瞬間から、見えていた魔の世界は一旦その光景を消す。
だが、言葉を失った弥太郎は、うまく話せなくなり、
それが原因で奉公先を追い出され、路頭にまよう。時を同じくして、世は幕府側と倒幕派が血で血を争っていた。
また、得体のしれない妖魔らが京に出没し災いをまき散らす有様。
京都の治安を守る新撰組だったが、
副長:土方歳三らもあまりに混乱する都の警備に翻弄される。偶然、斬り合いに巻き込まれる弥太郎。
しかしなんと、斬られて死んだはずの侍が再び生き返る。
「死人返り」となったもののけから弥太郎を助けたのは茨木半兵衛。
巷で「その正体は鬼」と噂されるあやしの侍だった…。新撰組副長の土方歳三は時代を憂いて奔走。
やがて土方は隠遁して暮らす茨木半兵衛と出会う。
土方は半兵衛の人格に傾倒、助力を申し出る。鬼の力を持ちながら、
人の心を持つ半兵衛は、
かつての仲間である鬼を斬るため剣をとる…
はたして回りは人か魔か? 誰が魔なのか、人なのか?動乱、戦の時代。
人と妖魔の壮絶な闘いがはじまる!!
( https://stage.corich.jp/stage/92724 より引用)
あらすじだけで,序盤の所は説明されているかと思いますが,舞台の序盤について少し触れておきたいと思います。
開演すると,暗転から,少し暗い程度に明かりがつきます。下手側に障子が1つ出され,般若面や顔を隠したキャストが地べたを這い回りながら舞台を一周していきます。その中に巻き込まれているのは弥太郎。
場面は新撰組を何者か追いかけるシーンに切り替わります。それを脇から見ていたのは弥太郎。「また斬り合いが始まる,でもオイラには関わりがない…」と呟きながら,雨の町を歩いて行きます。
魔界が見えてしまう弥太郎,それに絶望し,幻心尼に「言葉」と引き換えに,見える力をなくしてもらいます。吃音となった弥太郎。売りたいものがあればまた呼べと告げて幻心尼は姿を消します。
新撰組は追っていた藤堂平助をようやく捉え,斬り合いが始まります。狂気に支配され,前後を見失っている藤堂。苦戦する新撰組の前に,小坊主と市女笠のような笠をかぶった麗しき人物が現れます。土方はその人物に対するや「羅生門の鬼だ」と叫びます。
小坊主の助けを借りて,鬼は藤堂を切り捨てます。死人が蘇るのではとおびえる土方たちに,「心配は無用,妖魔は人に切られればなかなか死なぬが,鬼に,魔に切られれば果てる」と鬼は告げます。
「お前たちは何者だ!」
市女笠をかぶった鬼と,網代笠をかぶった小坊主がそれぞれ笠をかざして一言。
(一同ズコッー。)
と冒頭10分間経過の段階で,ギャグが挿入され,暗く重々しい世界が和らぎます。ただしすぐに軌道修正され,ハードボイルドな空間が引き続き展開されていきます。
土方を筆頭とする新撰組と,鬼たちの結びつき,江戸末期の京都で繰り広げられる魔界と侍の闘い,その結末はぜひ劇場で見届けて下さい。
3.感想
- 伊藤えん魔さんの描く,ハードボイルドな空間がたっぷり味わえる本作品は,暗い舞台で,不気味さが漂う空間でした。それでも重苦しさだけが印象に残る舞台ではなく,途中に挟まれた笑いや見せ所のおかげで,飽きるどころか,見とれているままに1時間50分が過ぎておりました。
- 幕末ファンタジーということもあって,言葉の難解さは若干あるのですが,その難解さがラストシーンでグッとくるポイントを呼んでいるので,ぜひ本作は2バージョン,複数見て頂きたい作品だと思います。
- 今回,2バージョンの違いはあり,結末やキャストが異なる箇所はあるのですが,おそらくここ最近のジョーカーハウスさんの作品の中で,最も2バージョンのキャスト入れ替えが少ない作品です。キャスト数も総勢16名。前回公演が25名ですから,こちらも少なくなっています。そのためか,それぞれのキャストさんの演技が洗練されていて,そして見せ所もたくさんあって,充実感の高い舞台だと感じました。
- ジョーカーハウスはセットが何もないので、役者さんの動きとスポットがダイレクトに目に飛び込んでくるのですが、田守さんと又吉さんの二度目の取引のシーンが、このまま写真にとって飾っておきたいくらい綺麗でした。青の照明に照らされて,役者二人が向き合って会話しているだけなのに,迫力があって引き込まれて,終わってほしくないとさえ思いました。
- 最後の幕府と長州藩の対決シーンでは,キャスト総動員で対決の動きを表現していますが,狭い舞台なのに様々な対決パターンが拝見できて,舞台が立体的に見えていました。私はもう一度舞台を見た上で,映像で何度も楽しみたいと思います。
4.キャストさんひとこと紹介
勢いに乗って両バージョンの役に合わせてキャストさんをご紹介いたします。役名は(羅刹/般若)の順です。
- (茨木半兵衛/茨木半兵衛)小澤瑞季さん。60fpsでないと全ての動きがキャッチできないと思うほど,指先の動きから,見得の切り方まで細かな動きに溢れている方です。立ち居振る舞いから,台詞までカッコ良さ全開。今回の衣装の袖が,動きや殺陣と一緒にはためいているのがとても綺麗で2回目以降はそこばかり注目していました。
- (弥太郎/弥太郎)田守悠花さん。今回は設定上,台詞が少ない役どころですが,奇っ怪で仄暗い世界に,飛び込んでしまった普通の人間としてか弱さを振りまきながら,エンディングのキリッと目を見開いて,朗々と短歌を読み上げる姿は,芯の強さを感じさせます。
- (土方歳三/土方歳三)大石祥生さん。渋いローボイスの男前。新撰組の羽織だけでなく黒いブーツがカッコ良く,ギャグとシリアスの切り替えを含め,たぶんセリフ量は本作品中,1番の多さだと思うのですが,迷いのない台詞回しや演技,そして大柄な身体から繰り出されるアクションを安心して楽しんでおりました。
- (仁王丸/仁王丸)橋本真衣乃さん。ほんわかした感じなのに,実は強キャラ設定という,ジョーカーハウスのギャップ部分を担う飛び道具。今回も口数は少なく,力持ちで表情を見せない鬼という役どころでしたが,淡々と繰り出す台詞に仁王丸の素朴さと優しさがにじみ出ていたように思います。お誕生日おめでとうございます。
- (佐久間象山/佐久間象山)佐々木志乃さん。変幻自在の怪奇派。作品を追うごとに,変化の振り幅と安定感が増してくる役者さんで,シーンの違うところで別の役どころを演じていても,この方だと意識することなく,シーンを楽しんでいることに気がつきます。それだけ,台詞が表情豊かだと思います。
- (沖田総司/近藤勇)佐々木穂香さん。イケメン。前説での的確なツッコミや話の膨らませ方の見事さだけでなく,キレのある殺陣,凜々しい声と,魅力一杯の男前でした。最後,田中新兵衛を切るシーンで,中腰で姿勢をキープするところで,足が全くぶれないところ,そして目が見えなくなったところで,土方の声がした方へ素早く顔を向けたところは必見です。
- (幻心尼/呼び名道人)又吉宏美さん。本作品では,コメディから癖のある悪役まで,多種多彩な役柄を演じていらっしゃいました。前述しましたが,幻心尼で弥太郎と二度目の取引をしているシーン,セリフをやりとりしているだけなのに,何故かうっとりと見とれてしまう魅力があって,この物語のタイトルにもある妖しさを兼ね備えた方なのではと感じた次第です。
- (伊勢丹/松坂)瑠香さん。登場時から自己紹介をするだけで笑いが起きるお城のお姫様二人。伊勢丹は笑いをかっさらっていく一方で,実は物語の黒幕に関わっている箇所。瑠香さんの伊勢丹は無邪気であるが故の極悪さが強調されているように感じました。
- (近藤勇/沖田総司)荒木凪瑳さん。ジョーカーハウス初登場。アルトボイスと眼力が印象的な方でした。般若Verの沖田総司の咳き込むところ,儚さは男性だったらおそらくは出ないような魅力がありました。このクールなキャラがギャグシーンで鼓を叩いたりするので,ギャップで爆笑するのがまた良いところで。
- (松平容保/幻心尼)新城理奈さん。こちらもジョーカーハウス初登場。般若verの幻心尼は,淡々と平常心を装って演じている分,内に隠れた狂気がかえって見えてきて恐ろしい印象を持ちました。羅刹verの松平では,割と素で伊勢丹を叩いていたのがツボに入りました。
- (小菊/小菊)時雨もかさん。ジョーカーハウス初登場にして何と初舞台とのこと。相撲の行司と,クライマックスで酒呑童子に斬り殺される役で,140cm台という小さな身体ながら,他のキャストの迫力にも負けない存在感がありました。
- (葛野/葛野)熊倉優良さん。身体能力の高さは必見です。本役の倒立前転だけでなく,田中新兵衛として殺陣を繰り出すあたり,殺陣のスピードが速く,他のシーンで可愛らしく子どもを演じているときとのギャップに驚いてしまうほどです。
- (松坂/伊勢丹)薬袋りおさん。登場時から自己紹介をするだけで笑いが起きるお城のお姫様二人。薬袋さんの伊勢丹はどこか妖艶さがあり,あやかしと通常の境界線が曖昧な感じがして,無邪気そうに見える瑠香さんとのコントラストがとても印象的でした。
- (呼び名道人/永倉新八)北原学さん。半兵衛の心を熱く動かす「ならば」おじさん。呼び名道人の本役での怪しさも魅力的ですが,半兵衛の回想シーンに出てきた医者役では,声量たっぷりに半兵衛に人として生きることを説くシーンは,感情を揺さぶられる迫力がありました。
- (永倉新八/松平容保)大山莅人さん。永倉新八として,低音の声で新撰組のシーンを彩るところ,そしてラストシーンで土方と語るシーンを含め,シーンに安定感を生む大切な役どころを担当されていました。L字に彩られた顔の化粧もとても印象的でした。
- (役小角/役小角)長谷川健さん。関西の伊藤えん魔プロデュースではお馴染みのキャストさんですが,ジョーカーハウスは初登場。今回初めて悪役を担当されたとのことですが,目つきから台詞回しまで,同情の余地ない知力が高い悪役っぷりは,思わず憎たらしくなるほどの印象を与えてくれました。個人的にはやっとお目にかかれた(←関西に観に行きなさい)のがとても嬉しかったです。
- (孝明天皇/孝明天皇)藤野友祐さん。ジョーカーハウス初登場。虚け者である様子が台詞回しで表現されています。本編中はとても頼りない感じが前面に出ていますが,ラストシーンの鬼の集団に飲み込まれていくさまは,たいへん哀れに見えます。別役では沖田総司に耳をそぎ落とされるなど,本編中では踏んだり蹴ったりの役どころが多い方です…。
カンパニーの方達のチームワークの良さが伝わってくるのが,ジョーカーハウスというカンパニーの良いところだと勝手に思っていますが,本作でもそれは健在でした。
気がつけば既にこれで既に8作品目ですが,今回も飽きることなく,また次回作を見届けたいと思いました。そんな不思議なカンパニーがジョーカーハウスさんです。
追伸:
終演後には撮ると決めていたキャストさんとのチェキ撮影会。ご満悦の表情ですね。
*1:なお,2回目の観劇でブロマイドセット4パターンも買い求めました