リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】劇団ショウダウン「黒船」

どうも。イマイです。

雨が降ったり仕事に追われたりすると気持ちが落ち込むこともあるのですが,演劇を見に行けると思うと頑張れるので,私も現金なものだと思います。

さて,今回の観劇は劇団ショウダウンさんです。1月に「錆色の瞳,黄金の海」を見てから,今年は劇団ショウダウンさんの年だと勝手に決めています。他の舞台で好きになったものは沢山ありますが,後で関連動画を見返して,公演が終わっても何度も再生しているのは劇団ショウダウンさんと壱劇屋さんくらいのものです。

www.youtube.com

その上,劇団ショウダウンさんに至っては,池袋演劇祭でのCMがあまりにもカッコ良く買い求めた台本で該当箇所のコピーを取り,映像を見ながら台詞を覚えて,仕事で辛くなったら暗唱して気晴らしするレベルまで好きです(何

こういう他愛もない枕話の間にも「木々の恵みは等しくどんな生き物にも与えられ,太陽の光は何も区別することなく全ての営みを照らし挙げ,優しい月の光と夜の静寂は…」と思わず台詞を混ぜて文章を書きたくなる感じですが,皆様いかがお過ごしでしょうか。

さてさて,冗談はさておき,池袋はシアター・グリーンBASE THEATERにやって参りました。

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上の写真でも黄色い紙で書かれていますが,平日マチネ割,リピーター割だけでなく,豊島区割という豊島区の住民の方に対する割引までばっちり網羅されております。そして,終演予定時刻までちゃんと書かれているので,この後の予定も立てやすくて大変嬉しいご配慮です(意外とこの辺を開示されていない劇団さんは割とありますので…)。

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 これだけ思い入れが強い劇団ショウダウンさんですが,正直,今回はどんな感じになるのかなと不安に思っていました。これまで私の見てきた作品の中で,中心に立っていた林遊眠さんが「黒船」の方には出演されず,「ウインドミルバレー最後の三日間」の一人芝居の方にだけ出演されることが決まっていたからです。

またそのような状況に再演ものではなく,新作をもってきています。これは,ずいぶん意欲的かつチャレンジングな試みだとの考えが頭をよぎりました。楽しむ側がそんなことを考えるのは野暮だとは思いながらも。

そんなこんなで時間が過ぎ,開場の時間となりました。

席に着席し,フライヤーやアンケートなどを一通り見た後は,受付正面の物販コーナーへ。内容を拝見すると,かなり今回は充実した物販のラインナップとなっています。

showdown.jugem.jp

あれもこれも…とあっという間に買い込んでいました。個人的にはトートバックがとても好きなので,一つと言わずいくつでもと言いたくなりましたが,それ以外の物販品も買い込んでいたのと,欲しい方に行き渡らないのもと思ったので,ここは千穐楽までグッと我慢してみます。

さて,そうこうしている間に開演3分前。制作の鉾木さんが諸注意を会場へと説明し,時間通りに開演となりました。

千穐楽はまだ先なので,ネタバレ防止の改行を連打します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の「黒船」のフライヤーには次のような言葉が書かれています。

西方教会歴627年、その強大な帝国は領土北方に広がる大山脈越えに踏み切った。 前人未到の山脈を越え、北方の敵国に攻め込むために。皇帝自ら指揮を執り、二万騎の騎士を従えて開始された堂々たる進軍の傍ら、帝国はもう一つの作戦行動を実行に移す。  

大陸の東を囲む大海に船団を浮かべ,海からの侵攻を可能にするために。

ウインドミルバレー最後の三日間」の舞台である架空世界アシュガルドを共有した物語で,ウインドミルバレーでの出来事とほぼ同時期のアナザーストーリーともいえる物語です。

ただ当日パンフにもあるとおり,この2つは別々のお話しであり,単独で楽しめるものとなっています。

開場直後は北欧の音楽が流れていた空間に,勇ましい音楽が流れ,剣同士のぶつかり合う音が鳴り響く中,一人の男が高らかに語ります。

その姿,まるで雷神のごとく。西方教会暦627年,我が誉れあるラルフ帝国海軍最新鋭,黒船騎士団は帝国北方に広がる群島国家,その中心に存在する呪われた国,ヤイバに対しての進軍を開始したのでありました!

 声の主はベイリン。アカデミーの学者で,帝国の歴史編纂学者です。それに続いて,

我が輩の思いをきいてくださらんか!?

と飛び込んできたのは,1000人隊の黒鷲烏号の船長かつ1000人隊の隊長,ラッシュその人であったのです。黒船騎士団は,北の大国リストリアへの進軍の足がかりとすべく,沿岸の島々を攻略し,そしてヤイバと呼ばれる群島国家の中心に到達したのでありました。

このベイリンとラッシュの2名こそが,闘いの目撃者であり,歴史を語る人物です。西方教会暦の何年何月であるかが,一見するとしつこいくらいに語られます。しかしそれこそが,いつ何がどの順番で起きたのか,その文脈を正確に記録するために必要な要素であり,歴史家が大切にしている作法そのものであるのです。本業の方では多少なりとも歴史を相手にする仕事をしているので,そこに思わず注目していました。

勇ましく行軍する黒船騎士団の総勢は10,000人規模の大部隊,その騎士団の活躍は騎士団長シオル,黒山羊号船長コーマック,黒船騎士団付きの軍師フィッシュ,黒船騎士団付きの女占い師セオドラに,ベイリンとラッシュのわずか6名のやりとりによって表現されていきます。

ヤイバの要塞についに到達した黒船騎士団。しかし,その騎士団の先遣隊はわずか1人のヤイバの騎士によって全滅を余儀なくされます。ほぼ初めての敗北を味わい敗走する黒船騎士団。進軍か撤退か,襲いかかる不測の事態に立ち向かおうとする騎士団は,男性キャストがメインを固めるこの公演だからこそ,迫力を持って眼前に現れるのです。

冒頭からの暗い舞台の中,指揮する騎士団長の本意は何か秘密を抱えているような予感を感じさせます。その予感は思い過ごしではなく,この行軍はただの進軍の足がかりを築くものではなかったのです。騎士団の正統性は何か,大義とは何か。物語が進むにつれて明らかになるヤイバの目的。なぜ戦術としては致命的なほどに無茶な戦術をとるのか,ヤイバは何を守っているのか,

そうした謎に満ちた全てのパーツは一人の歴史編纂学者の「記録」によって,一つ一つ明かされていくのです。その謎の正体はぜひ劇場で目撃して頂ければと思います。

 

冒頭を除いてはほぼ時間軸の流れが崩されることなく,展開されていきます。精細に描写されるシーンもあれば,割とあっさりと描かれるシーンもあります。こうしたファンタジーで良く用いられる,登場人物以外の第三者,通称「神の視点」もこの舞台では用いられていません。冒頭でも強調したとおり,この物語はベイリンとラッシュの「記録」に基づいているのです。

そこが私は凄く誠実だと思いました。物語の順番を変えることや「神の視点」を導入すること自体を否定するものではありませんが,歴史編纂学者というキャラクターを登場させる以上,彼も知らなかった歴史を描くのは彼の存在を否定することに繋がります。そして彼の営みを尊重するのであれば,その順番を変えることは適切な行為ではないでしょう。

公演が終わった瞬間,自分の感情として充実感や高揚感とは異なった感情とは別に,安心感のようなものが存在していたのですが,それは歴史や「記録」に対するリスペクトがあったからではないかと思っています。劇の感想としてはそれはどうなん?という気がしないでもないですが,嘘を書いても仕方が無いので,私もちゃんと記録しておきます。

 

さて,演劇公演として改めて振り返ると,冒頭で表明していた不安は杞憂だったことが分かりました。むしろ劇団ショウダウンさんの新しい魅力がまた一つ提示されたのではないかと思いました。豊富な語彙によって描かれる重厚な物語は,男性キャストの力強さや迫力によってさらに増幅され,客席まで届いてきました。

ラストシーンは抑止力という,今にも通じるテーマが出てきました。しかし,そのテーマに落着することなく,「考え続けることが学者の仕事である」という言葉でつないだところは,何か希望や暖かさのようなものをそこに感じました*1

幸いにも「黒船」は,1回だけでなくあと3回は目撃する予定なので,何度も眺めることでこのアシュガルドの世界に浸りたいと思います。

キャストさん一人一人はまだ見分けがつかない初めましての方ばかりなので,思いっきり間違った見方をしているかもしれませんが,1人分書き始めたので,全員分書いてしまいます(あと3回見る中でここだけは加筆するかもしれません:7月2日追記しました)。

  • ベイリン役の古川剛充さんは,たぶん台詞の分量は全キャスト中でトップクラスだと思うのですが,他のキャラの荒々しさとは異なる品性とか知性が感じられて,ああ学者ってこんな感じだなと想像していました。7月2日のアフタートークで台詞の分量が実際に多いという話をされていましたが,ひょうきんにやりとりしながら,客演の方なのに劇団ショウダウンさんのことを引き立てていらっしゃっていて良い方&座組なのだなと思いました。
  • ラッシュ役の金哲義さんは,男性キャストの中でも声量が一番で迫力たっぷりの方で印象に残りました。だからこそギャグを入れたときの落差が大きくて何度も笑ってしまいました。7月2日に真っ正面で拝見して,荒々しさの中の優しさが垣間見えてやはり笑ってしまいました。
  • コーマック役の中鶴間太陽さんは,身のこなしがスゴいと思ったら時代劇とかチャンバラで著名なSTAR★JACKSの方でした。スラリとした出で立ちなのにビビりという設定も落差があって楽しんでおりました。
  • シオル役の升田祐次さんは,冒頭のシーンから騎士団長の気むずかしさや厳しさがハッキリと分かる凄みがありました。もう少し人間味があってもおかしくないのではと思いましたが,おそらくベイリンから見るとただただ怖い印象の人物だったのかなと思います。だってこれはベイリンの記録なのだから仕方ないのです。
  • フィシュ役の中路輝さんは,中盤までこいつが本当の悪役だろと勘違いしていました。作戦会議をしているときはどことなくコミカルな印象を持っているのですが,全般に悪巧みをしている感じがプンプンしていて,良い感じに終盤のどんでん返しにビックリするための伏線が張られていたと思いました。でも終盤の顔色の悪さはたぶん徹夜して,状況を打開する方法を考えていたのだろうなーと。
  • セオドラ役の野村香奈さんは,怪しさ満点で,もし密偵が1名だったとしたら(1名と思い込むように作ってあるのですが)間違いなくこの人物だろうと思いました。ベイリンとはあまりやりとりがなかったのか描写が少ないのですが,たぶん歴史学と占星学は相性が悪かったのでしょうね(←適当
  • ジイカ役の竹内敦子さんは,新しく劇団員になった方。道案内の少年の割とやりたい放題な感じが出ていました。重くなりがちな「黒船」の世界の清涼剤でした。コメディポジションではあるのですが,シリアス方面の演技も今度拝見してみたいです。
  • ヤコウ役の國枝千尋さんは,中性的なお顔や感情を荒立てない台詞回しもあってか,どことなく神秘的なイメージがあって,物語で親方扱いされるカリスマ性を立ち居振る舞いで出されているように思いました。
  • キルマ役の練間沙さんは,台本で探したところ19ページの決闘のシーンおよび20ページの闘いでしか登場せず,おそらく台詞は一言もない役なので,これこそベイリンが記録できなかった歴史なのでしょう,ああ罪な歴史編纂学者。7月2日に確認したら,シオルに何度も駆け寄る伝令のモブ役を何度もこなされていました。意外と走り回っている役ではないかと推察します。声の凜々しさはしかと記憶いたしました。
  • エイメン役の植木歩生子さんは,ベイリンに終始デレない監視者としての役柄が印象的ですが,実はただ不器用で自分とは異なる能力を持つベイリンに何かアプローチしてみたかったのかなと想像させる立ち居振る舞いで,魅力的なキャラだったと思います。
  • クイン役の宮島めぐみさんは,役柄としてもモブであっても次のシーンへつなぐ役割を持っている方で,一見目立たないのですが,物語の展開には不可欠な役だったと思います。(だって後の人たちは面倒くさかったり語り出す人ばかりなのですから)どのシーンか忘れてしまいましたが,決闘の決着を宣言するシーンで,声が凜と響いていました。これまでの作品で拝見したときの印象と違っていて,こんな魅力もあったのかと気づかされたことを覚えています。

それから,舞台芸術の所にも記録しておきたいところがあります。

舞台セットはシンプルなのですが,上手と下手にある紐の暖簾が人が隠れたり,登場するときのアクセントになっていて,後で紹介する照明とも相まって印象的なシーンを数多くつくっています。

照明は冒頭の暗さから,時には青,時には赤でそれぞれのシーンを彩っていきます。これまで拝見した劇団ショウダウンさんの芝居の中では,色々な効果は抑えめの方かなという印象がありますが,美しいという印象には代わりありません*2

音響についても,殺陣の振りに合わせた音が組み合わされ,そして情感を盛り上げる所では絶妙のタイミングで登場してきました。カッコいい音楽も劇団ショウダウンさんの魅力です。なお,時にベイリンの台詞が聞こえにくいところがあったのですが,私の座っている席が影響したのかもしれないので,次回は別の所に座って色々試してみたいと思います。(7月2日,最前列ですとこの印象はほとんど無くなりました。劇場の音環境というのは複雑なのだなと思います…)

そして,劇団ショウダウンさん制作の鉾木さんをはじめ,受付等で出迎えてくださる皆さまのおもてなしはとても安心します。心地よい空間を有り難うございます。こうした方々を「記録」できるのもブログの良いところだと思います。

さて,明日は林遊眠さんの一人芝居「ウインドミルバレー最後の三日間」を目撃します。映像ではちょっとだけ拝見したのですが,舞台では初めてです。こちらも本当に楽しみです。というわけで,今日はこの辺で。

追伸:アフタートークでのナツメクニオさんの発言の中で,「ウインドミルバレー最後の三日間」の台本とCDを購入して,「やってみた」動画を作っても良いとの発言がありました。今のお仕事的にそちらに力を注ぐのは危険で,方々から「仕事しろ」と言われかねないのですし,そもそも素人がやったら大炎上必死で,リスク満載のプロジェクトですが,興味は思い切りあります(おい)。もし学生さんからのリクエストとかがあったなら,うっかりやってみても良いかもですね(え)。

*1:ナツメクニオさんに伺ったところ,この物語を抑止力というところで留めたくなかったとのことです。

*2:もしかするとそれはあくまでも素人目にはそうであって,裏ではかなりのプランが組まれていたら,ただただ申し訳ないです…