【観劇ログ】劇想からまわりえっちゃん からまわりブルー「純白、もはや穢れ」
どうも。イマイです。
突然,10年前の失敗を思い出して夜中にもだえ苦しむことが2ヶ月にいっぺんぐらいは襲ってきます。大人になったら治るかと思いきや,あんまり変わってません。
さて本日は,関西小劇場好き+オススメ頂いたことで2月に観劇した劇想からまわりえっちゃんの舞台にやってきました。
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観劇後,サントラCDをヘビーローテーションする勢いで気に入ってしまった*1レベルでして,次回作を楽しみにしていました。そして本日,東京早稲田のTheater Optionまでやってまいりました。
(なお今回は諸事情により,ピンクカバさんチームだけしか観られませんでした。紫式部さんチームの様子も誰かログを書いてくれると嬉しいなあとか何とか)
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1.はじめに
開場時間少し過ぎた辺りで劇場到着。ビルの地下へと向かう途中に受付がございます。受付は紫式部さんチームご出演の福富宝さんでした。3000円を支払って会場に入ると,だいぶ小さな劇場でした。私が行ったことのある劇場のイメージを掘り起こすと,新宿のシアターミラクルと同じくらいか,少し小さい感じがするくらいでした。
燈体がおかれている以外は,セットは暗幕が後ろに引かれているだけでほとんど素の状態に近い形の舞台組みでした*2。さて,席に座ってしばらくすると,青沼リョウスケさんがサ○リオピューロランドのスポンサードでもあるかのようなマイメロのサンダルを披露しながらおもむろに登場。舞台上でアナウンスを始めます。
少し真面目になりましたので,パンフレットのキャスト紹介をマジメに書いてみました。是非ご覧下さいとのこと。キャストの名前とか前書きの分を読みながら,ふむふむと思っていると,これまでは大嘘を書いていたのだということ。事前に設定を読み込んで楽しもうとする人たちを全力でおいていく辺りは,呆れるという感情よりも,「そんなこと実現できるんだ…」と何だか憧れてしまいました。
前作でもおなじみの前説,「メッセージを全力で邪魔するギャグ」の説明とともに,今回は生演奏での歌も作品に取り入れられるとの説明がありました。そして今回の生演奏を担当する杉本恵祐さんがギターをもって舞台上に登場します。
軽めのジャブに相当するコントが進んだ後,観客の皆さんも歌に反応して邪魔して下さいとのことなので,まさかの開演前に手拍子とコールの練習大会が始まりました。即席の練習ではありますが,不思議な一体感が生まれる客席。「上手い上手い,凄いですよ」との青沼さんの言葉。
そうこうしているうちに開演時間がやってきました。千穐楽前ですので,ネタばれ防止の改行連打をしておきたいと思います。
2.あらすじ
僕には好きな人がいます。今日はあの人の結婚式です。本当に愛しているならば、あの人の幸せが、笑顔が、生まれるのなら相手が僕でなくても構わない。なんて思えない。
それが真実の愛ならば、定義を取り戻そう。愛で空を落とそうか。
メインディッシュのフォアグラに買ってきた納豆のせた。これは狼煙。ジハード!ジハード!ジハードの合図
( https://stage.corich.jp/stage/86951 より引用 )
3.序盤の様子
開演すると,結婚式でおなじみのメンデルスゾーンの「結婚行進曲」が演者さんのハミングで奏でられます。著作権が切れているので,流し放題のBGMなのに,♪ふふふふーん,とハミングで表現する辺りは奇妙な感じで,既に吹き出しそうな勢いです。
それはさておき,舞台上では神父が,男市とエリコにたいし,結婚の誓いを求める定番の展開が進んでいきます。そこに茶々を入れるのはヤンキー風の衣装をまとった「ボス」。この展開だと,新婦を連れ去るコース…かと思いきや,連れ去ったのはまさかの男市。式場から逃げ出し,バイクで激走する中,新婦が必死の形相で追っかけてきます。新婦に「待っていてくれ」と告げて,町を激走する二人。
式場から逃走したボスと男市。子どもの頃から,ファイファイファイターズの仲間として遊び回っていた二人。子どもの頃を思い出しながら,小さな小さな町の思い出となっている場所を巡ります。
まず二人が訪れたのは,とある家。他人の家だから勝手に入ったらまずいよと止める男市の静止も聞かず,さっさと家に入っていくボス。子育て中の女性が出てきて,あなた誰?!とパニック状態に,しかし男市と女性は顔見知りのようです。それもそのはず,女性の名前はめぐみ,かつて好意を抱き合っていた二人でした。
シーンは代わり,メモリーの中の場面。町外れのベンチに座っているのは,町で粋がる「晃さん」と「がーこ」の二人。良い感じの雰囲気になっている二人です。晃さんはとにかくこの町が大好きで,タウンページを常に持ち歩き,町の外へは一歩も出ないような人物。仲よさそうなデレデレのシーンが続くかと思いきや,女優になるとがーこは隣町へと行ってしまいます。悲しみに暮れる晃さん。意外と男の恋はもろいものです。
場面は変わって結婚式場。披露宴で新郎が不在の中,新婦が必死の形相で場つなぎをしています。まさかのウクレレ弾き語りで12曲目,場つなぎのために母とエリコは,やむを得ず仕方なく,無理矢理と言うかむしろ喜んで,ギャグをして繋ぎますが,新郎はまだ帰ってきません。
商いの中心,銀座通りにボスと男市の二人がやってきます。今まで演劇のお約束上,見えてはいけないはずの後ろの3人が実体となってしゃしゃり出てきます。妖精気取りの「リップ」ちゃんに,ギターで弾き語りする「ピーター」,そして明らかに不審人物で警察が来たら真っ先に連行されそうな「わきっぺ男爵」こと町長の3人です。
BGMの演奏料として,3人は1000円をボスへと要求します。抵抗するかと思いきや,すんなり支払うボス。これでようやく登場人物が全員そろいました。男市の思い出と共に,小さな町をかけずり回る二人。なぜか銀河鉄道に乗った幻影が現れて,思い出のよりしろを要求してきます。もうワケがワカラナイヨ。
それでも物語はギャグのノイズをまき散らしながら,徐々にクライマックスを迎えていきます。めぐみと男市はなぜ結ばれなかったのか,男市の残したポエムの正体,なぜこの町へと男市は帰ってきたのか,そしてリップちゃんと男爵はなぜ喫茶店のベンチになっていたのか。数々の謎が提示されます。男市とエリコは無事,結婚の誓いをかわすことができるのか,その結末は是非劇場で目撃して下さい。
4.感想
- 好き嫌いはあるかもしれないですが,プロレスとか,鍛練を重ねてきた方々が全力で挑むおふざけが大好きな私に取っては,遠慮なく笑い飛ばせる幸せの空間でした。
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今回もよい感じに物語とか,お芝居のお約束をぶっ壊しながら,結婚前夜のあー,もう!という心のざわめきを,言葉と動きとよい感じの生歌でかき混ぜて,四回ぐらいコテでひっくり返した感じがありました。
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青沼さんが描く人の幼さは,前作も感じたのですが,こんな感じだろうというステレオタイプがほとんどないというか,嘘が全くなくて好きです。幼いからこそ騒ぐし,自分勝手だし,関係ないときに関係ないことを口走るし,何だったら急に走り出したりもするしと,物語の都合上というお約束を華麗にスルーしている辺りは凄いなと思います。
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メッセージをシャイなので全力でギャグで邪魔するスタイルは今回も健在。前半にギャグを詰め込みすぎて,ナイフ,ランプが鞄から落ちる勢いでした。全員が一回は舞台上に頭のネジを落としてきていて,ドングリよりもネジの方が落ちているんではと思うほどです。混沌につぐ混沌の連続で,うわーと思う方もいるかも知れません。でもこの混沌が心地よく感じるのがまた不思議でした。
- 混沌があるからこそ,後半の静寂はまた印象的です。ギャップ萌え。男市の本当は触れられたくない過去,めぐみが声にならない声で読み上げていたポエムが何だったのかは是非台本をご覧下さいませ。
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なぜあのキャラは男市というその他大勢に見える名前だったのか。クライマックスで男市というその他大勢からボスが拾い出してくれたという台詞は,煮え切らない主人公の本心なのか,それとも幻なのか,メッセージをあれこれ終演後に考える楽しさが舞台上にはあります。
5.キャストさんへのひと言コメント
勢いに乗ってきたので,このままキャストさんの役名とお名前を紹介しつつ,コメントを書いて見たいと思います(役名は当日パンフに準拠します)。
- エリコ役のフジタマコトさん。エリコガンダムとして巨大化したりしていますが,たぶん一番作品の中では常識に近い人。ラストシーンはひたすら哀れですが,たぶん十中八九あなたのせいじゃない感じが良いです。ウクレレや落語まで披露する多彩な感じで,初日特有のドングリやアクセサリーの落下にも動じない多彩で物語を破綻させないようにする大切な役どころの方です。
- ボス役の岸本武享さん。ちゃらくて,意地っ張りでバイトは仕事じゃ無いと言いながら,クリーニング屋ではちょっと真面目に仕事する憎めない友達。最初は破天荒で粗雑に見えますが,徐々に男市の煮え切らないところを際立たせる大切な役になっています。クライマックスでエリコガンダムとラストのもみ合う格闘シーンは見どころたっぷりです。
- 男市役の本田和大さん。結婚式を挙げに町に戻ってきたのに何で戻ってきたのを忘れるうっかりさん。物語の序盤では舞台の観客の立場に近いような振り回されっぷり。どこまでが素でどこからが役なのかが分からないくらい,突然舞台に上げられた感じでしたが,これが終盤の男市の心の闇が出てくる辺りと凄くコントラストがついていて,木に書かれたポエムが読み上げられるところの表情は何だかゾッとしたほどでした。
- めぐみ役の玉一祐樹美さん。男市が昔好きだった同級生。ひたすら「自身に自信がない」発言を繰り返す奥手な性格ながら,最後はきちんと男市の過去をほじくり返していく切れ者。母親役とメーテル役では,ハキハキとテンポよく物語を妨害していきながら,木に書かれたポエムの声にならない声の表現では思わずハッとさせられるほど印象的な演技をする方です。あと伴奏なしのアカペラであのおなじみの曲を2曲,初日なのにブレ一つなく歌いこなす辺りは,さすがだと思います。
- 晃さん役の青沼リョウスケさん。町から出られない粋がるチンピラ。中学生がそのまま大きくなったという感じのちゃらつき加減ですが,卑屈さとかが感じられない辺りはある意味幸せなキャラクターなのかもしれません。突拍子もない言葉が印象に残りますが,動きのキレは目を見張るところで,舞台上の前と後ろの空間を自由自在に使っていた,演者青沼さんの魅力が今回は印象に残りました。
- がーこ役の舩戸美優喜さん。晃さんに惹かれる夢見る19歳。この物語の中では,一番演劇的な役どころでありながら,やっぱりお約束はぶちこわしていく感じの役でした。終盤の台詞「花嫁さん,これあげる。かわいそうだから。」とともにヒョウ柄のジャンパーをエリコに渡す辺りではエリコよりも大人に見えていました。
- わきっぺ男爵役のムトウコウヨウさん。Mr. 飛び道具,じゃなかったふざけた格好をしながらも町のことをきちんと考えている町長。他の劇団さんだったら間違いなくStopがかかるような破天荒振りですが,今回は語り部も兼ねている役だったせいか,マトモに見えていた気がします(普段の行動のはじけっぷりに比べてという所ではありましょうが)。町長がピーターのギャラで狼狽する辺りは凄くリアルな感じがして,そこもマトモに見えた要因かも知れません。2回目を見る方は,男市とエリコの会話シーンでのイス役でどのような表情を見せていたのかを確認するために下手側に座ることをオススメします(何
- リップ役の榎本栞さん。妖精リップちゃん。その固有名詞で説明を完了させたくなるくらい,突拍子もないネジの外れた,それでいて一貫している可愛らしい役どころでした。あんだけ練習した「リップちゃんは私」の合いの手を強烈にDisっていくあたりは,からまわりえっちゃんらしいと思う次第です。 まーでも確かに「ほらね,そっくりな猿が私を指さしてる」という歌詞はまさに観客そのものだからDisではないのかぁ。
- ピーター役の杉本惠祐さん。プロのバンドマン。サントラも物販で売っています。からまわりえっちゃんの魅力はギャグと,それとはおもいっきり対照的な本気な音楽にもあると勝手に思っているのですが,その印象に違わない非常に印象的な歌で作品を彩っていました。サントラは早速iTunesに取り込んで聞きました。「藝術と君の存在に対する対価は支払われるべきだ」という台詞は,関係者ではないのですが,何だか無性に胸に突き刺さる台詞です。
6.おわりに
気がついたら,5000文字オーバーで感想を書いていました。あれ?気がついたら語っているという不思議な感じです。開演前に「学芸会を観る親のような優しい目で」と青沼さんは仰っていました。作品中では確かに「しょーもない」とか「アホかー」と笑い飛ばしていて,確かに「優しい目」で観ていたはずなのですが,終わってから記憶に残っているパーツをかき集めるとあれこれ考えたくなる,そんな不思議な魅力がある劇団さんという印象は今回も変わりませんでした。
次回作は,佐藤佐吉大演劇祭2018 in 北区「尊厳の仕草は弔いの朝に〜1・2・3ショットマンレイ〜」です。今から次回作もとても楽しみにしています。
追伸1:ところで,物販で買い求めたピンクカバさんチームの台本なのですが,中を開けてみたら,どうやら2セット入っていた模様です。これはギャグなのか,マジな入れ間違いなのか判断に苦しむところですが,とりあえずお預かりしておきつつ,必要があれば次回作の物販で多く支払えるようズボンのベルト付近に1000円を仕込んでおきたいと思います。
追伸2:今回,玉一さんから,からまわりえっちゃんのBlogに掲載されていた「終のすみか」の書を頂戴しました。研究室に飾って大切にしたいと思います。