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リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】クロムモリブデン「空と雲とバラバラの奥さま」

どうも。イマイです。

4月から本務のお仕事が忙しくなる事態がありました。これで観劇趣味もお休みかと思いきや,むしろ楽しみにして頑張れるので一層観劇に力が入るという好循環が続いています。そういえば観劇趣味に一番必要なのは公演日に予定を入れないマネジメント能力だったなと思い返しております*1

さて,本日は1年ぶりのご無沙汰であるクロムモリブデンさんです。実はDMをちゃんと頂いていたはずなのですが,観劇趣味の友人の観に行った報告をSNSで見つけるまで公演を忘れていました。お恥ずかしい限りです。でも幸いなことに予定を調整したら,観に行けそうな日程だったので,早速その場で予約を入れました。

いつもは赤坂RED THEATERで公演を行っているクロムモリブデンさんですが,今回は吉祥寺シアターでの公演。中央線を乗り継ぎまして,吉祥寺までやって参りました。

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(トップページからお越しの方は「続きを読む」リンクをクリックしてください。)

 クロムモリブデンさんはそれほど数多く拝見していないのですが,印象に残るのはカオスや混沌さとともに,何故か思い返してしまう印象に残る演出です。今回はどのような作品になるのでしょうか。

なお千穐楽前ですので,恒例となりましたネタバレ防止の改行連打を入れておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語のあらすじは以下の通りです。

森の奥のそのまた奥に奥様の細道がありました。嫁ぎ嫁いだ花嫁が嫁いで驚愕!
二人の旦那がお出迎え、他にも奥様いるじゃない、お妾さんもいるじゃない、
姑さんも沢山いれば、女中も奴隷もてんこ盛り。
バイトのような花嫁は、派遣妻になれるのか!正妻になれるのか!
別れる時は分裂してもらいます!
頭かくしてツノかくさず!
ブキミなコトブキ!ウキウキコトブキ!
何故人は嫁ぐのか!
何故人は嫁を目指すのか!  

既にあらすじの段階で,ツッコミどころが満載の言葉が沢山立ち並びます。わくわくしながら,劇場内に入ると,舞台上は上手と下手にそれぞれ通路が1つ,真ん中に木の切り株を思わせるような台が1つ。その周りを唐辛子の畑と立ち木が取り囲んでいます。

ノイズを含んだBGMを聞きながら,開演を待ちます。開演アナウンスとともに暗転し,物語は始まります。

暗転後には,中央に立つ1人の男。名前は山野中。そこにひとりの村人が駆け込んできます。男の名前は岩瀬川彦。人を殺めてしまったと慌てふためきます。ヤマメ取りのために川に毒を流したのだが,誤って虎蔵がそれを飲んでしまったのだ,どうしたらよいと山野に泣きつきます。

山野はここで知恵を貸して,川彦が川の水をここで飲んで意識を失うフリをしてしまえばどうか,そして虎蔵が悔やんで自害したことにすればよい,山野がそれを代わりに証言するから心配ないとアドバイスします。川彦はそのまま従い川の水を飲み,隠蔽作戦が始まります。

所は変わって,岩瀬家のシーンへ。森村家から請け負った唐辛子挽きの仕事をろくに取りかからない岩瀬海彦と岩瀬フナが会話をしています。海彦はフナに向かって現在の結婚制度に対する不満をぶちまけ,自分は妻として,家事をする人,遊んでくれる人,子供を産んでくれる人,相談に乗ってくれる人の4人を迎えたいとムチャクチャな提案をします。

こういう甲斐性なしのところへ,森村家が仕事の様子を観にやってきます。当然のごとく森村家の夫人であるコンからは仕事を打ち切られ,海彦が好意を寄せていたテンからは結婚を断られと踏んだり蹴ったりの状況となります。そこへ川彦を背負った山野が帰ってきます。マッケンナというの無免許医師の診断と山野の証言で,虎蔵に全ての罪が着せられ,その賠償としてコンと猿蔵が召使いに,テンが海彦と川彦の夫人として嫁ぐことになります。

一見するとムチャクチャな世界の中,召使い兎丸と犬吉と夫人であるくま子,うずめ,ねこの3名が加わり,窮乏していた岩瀬家は一転,村の一大勢力(といっても岩瀬家以外は全て村の外に出てしまったので,比べるところもなくなってしまうわけですが)となります。

ここに中盤からは,ドキュメンタリー撮影班の牛島と馬波が入り込み,半年前の事件の証拠映像を撮影しているということが分かります。さあこうなると物語はますます混沌の度合いを深めていくことになります。

 

こんな風に個性的なキャラクターが演じる日常は,不思議な安定感を持っています。ほとんどギャグを喋らないのに,思わず可笑しくなってしまうやりとりです。

そして思想が明らかになる中で,徐々に破綻していく世界もまた印象的です。例えば4名の夫人の中から誰と今日はつきあうのかを選ぶシーンは,京劇風の音楽とともに華やかなシーンとしてほぼ同じやり取りが数度繰り返されるのですが,海彦が徐々に飽きて不機嫌になっていき,シーンの印象は段々変わっていきます。実はこのときも夫人たちは徐々に感情を変化させていっており,最後のシーンでは決定的な破綻を見せます。

観劇後まず感じたのは,舞台上の展開がおかしいと感じたこちらこそ異常なのではと思う怖さでした。観劇から時間が経って思い返してみると,あの舞台の視点はいわゆる「神の視点」ではなく山野の視点ではないかということを考えています。山野という最初に殺人を犯した人間を通して,観ている世界だからこそ異常さが強調されていたのではないかとも思います。ラストシーンでは,状況描写が曖昧になり一種のトランス状態になっていくのですが,山野は最後に追い詰められてしまい,正常に世界を見つめることができなくなっていた,だからこそ結末が曖昧に見えるのではないかと思ったのです。

観劇ログを書くために台本を見返しているのですが,演出の青木さんが巻末で「森村家の復讐劇」でもあると書いていて,まさにその通りだとも思いました。例えば,セリフではコンが今の唐辛子が研究できる状態を受け入れているような素振りを見せているのですが,結局は川彦を殺すことを選択しています。復讐に燃える様子は特にテンが顕著ではあるのですが,あの復讐劇は完成したのでしょうか。台本を見る限りでは,おそらくは完成していたと思われるのですが。

それから,役者さんそれぞれに魅力たっぷりな舞台でもありました。特に阿部丈二さんはキャラメルボックスの舞台で何度か拝見している方だったのですが,演技のキレっぷりや異常な人間の描写はとても印象に残りましたし,憎たらしい愚かな役どころが強調されていたように思いました。

奇妙でそれでいて印象に残る世界が拝見できてとても楽しかったです。

stage.corich.jp

*1:なお,ちゃんとお休みも取っていますので,倒れることはないと思います。