リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】劇団フェリーちゃん旗揚げ公演「Ma les me Role~マルムロール」

どうも。イマイです。

マチネとソワレを違う劇団のお芝居で入れてしまったので,観劇ログを書く量が2倍になりました。でもとても幸せです。

1.前書き

さて,今日の夜はずっと前から予定を空けていました。劇団フェリーちゃん。昨年の10月に始動発表のブログがUPされ,今日この日,19時半の公演が旗揚げ公演の初日でした。

劇団フェリーちゃんは下記の鳥の首企画さんとのコラボイベントを始め,稽古会というボイストレーニング付きの台本読み合わせイベント,ツイキャスなど色々な広報手段で盛んにアピールしている劇団さんです。(稽古会は私も2回ほど参加させて頂きました)

librarius-theater.hatenablog.com

いよいよ,旗揚げ公演となりました。ひとりの観客が我が事のようにというのはおかしな表現かも知れませんが,初めての劇団さんの新奇性に対するワクワクとともに,色々な感情を抱えながら,マチネでのクロムモリブデンさんからはしごして,歌舞伎町の賑わいを横目で見ながら,新宿眼科画廊へとやって参りました。

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2.開演前のひととき

今回の座席は自由席。受付を済ませると整理券が配られます。この整理券がトランプのカードになっています(私はスペードの4でした)。普通はPOP用紙にマジック書きしていることが多いように思います。トランプの方がたぶん価格は高いはずなので,劇団さんのセンスや配慮を感じて嬉しくなりました。

開場して中に入ると,縦に細長い会場が目に入ります。ギャラリースペースの三方に平台がおかれて椅子が置かれていたり,かと思えばお風呂の椅子にクッションを置いた通称「スーパーエキセントリック(以下凄そうな表現が2つくらいランダムではいる)シート」など,高さをあちこち変えていて,お客さんの見やすさに配慮しているんだなーとここもまた嬉しくなりました。

さて,中に入ると劇団主宰のなにわえわみさんと水沢まな美さんがギャラリー部分でお客さんの出迎えをやっています。本番直前にもかかわらず,お客さんとの掛け合いやこんな撮影タイムまで。お二人ともサービス精神の塊のような方です。

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(ちなみに撮影OK,SNSへのUPもOKとのことでしたので,載せてみました。)

お客さんを出迎えながら,舞台周りに配置されている美術の説明*1,物販のブロマイド販売,なにわえさんが全力でハイになっている所を,水沢さんがスルーして心をぽっきり折るなど,絶妙な掛け合いの中であっという間に30分が経過しました。しきりに客席の黒い線から外側には足を出さないで下さいとアナウンスしていたのが記憶に残っています。開演後,その理由はハッキリと分かりました。そういえば,開演間際に撮影OKの手札の後ろにある絵については,さりげなく外しに来ていましたが,これも終演後1日経ってその理由が分かりました。

この時点でなにわえさんの頭のねじは1ダース単位ですっ飛んでいる感じでしたので,本編の方は体力が持つのだろうかと心配するほどでした*2

では千穐楽前なので,恒例となりましたネタバレ防止の改行連打を致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.物語のあらすじ

物語のあらすじは下記の通り。

旅立ちを告げる鐘の音が響く。
祈りの歌がこだまする。

Ho le ha re due
私は それに 再び すがる
Ma les me Role
それでも その 私は 廻る

王国に蔓延する結晶病は、原因不明の死の病。
発症した人々の身体は、末端から徐々に結晶と化し、やがて粉々に碎け散る。

頭を抱える王女たちは、どんな願いも叶うという、伝説のイシを求め旅に出る。

貴方と私の幸せを求めたその先で、
しのぎを削る各々のまこと。

そうこれはただ、

めぐる命の物語。(http://stage.corich.jp/stage/81288 より引用)

暗転から舞台が明るくなると,ギャラリー部分に互い違いに3列に並んで,役者さんがずらっと勢揃いしています。手を伸ばすどころか,肘を出しただけでもあたりそうな距離に役者さんの顔があります。息づかいも聞こえてきそうなほどに近い距離で,砂浜に波が打ち寄せる音の口まねが全員で行われています。

海辺と思われる場所に,一人の女性と男性が向き合います。願いが叶うイシ,それを巡る物語であることを教えてくれます。そこから場面が切り替わり,ある城内でのやりとり,結晶病という謎の病が流行っていることが分かります。どのキャラクターも一見すると明るく振る舞い,自分の役目を果たそうとする人々が見えます。

登場人物が一通り出揃ったところで,結晶病が流行ってしまった原因,そして結晶病を撲滅しようとする王国の人々の闘いに物語は移っていきます。そこに突然謎の吟遊詩人が現れます。あまりにも奇っ怪で突拍子もなく,突然歌い出してしかも歌が上手い吟遊詩人。彼女の導きに応じて,王国の女剣士は願いが叶うイシが眠っているという島へと船を出航させます。

その話を聞きつけた,親方率いる盗賊4人衆。海賊船で乗り付け,王国の船を追いかけ攻撃し沈めて乗っ取ろうとします。しかし突然現れた岩に海賊船が衝突,王国の船もボロボロの状態で島へと漂着します。吟遊詩人に連れられ王国の女剣士は,いよいよ願いが叶うイシが眠るという洞窟へと入っていきます。しかしながら,そこで出会ったイシとはとんでもない条件を突きつけてくるイシであって…。

4.みどころ

この後,舞台は洞窟のシーンと王宮のシーンが入れ替わりつつ,少しずつ物語は進行していきます。しかし結末まで決して一本筋では進んでいきません。一人一人のキャラクターが本音や言えない過去をそれぞれ抱えています。例えば結晶病の特効薬を作ろうとするレイは特効薬を完成させて事態を打開しようとしますが,実際には完成させることができず,事態を悪化させていきます。女王であるシェリーは,気高く振る舞おうとするけれども若いが故に民から信頼されないことに極度のコンプレックスを抱いています。

誰もがそれなりに後ろめたい何かを持っていて,狂気や影を抱えています。こう書いてしまうと,ただただ暗いお芝居のように思えてしまうのですが,それでも格好良く見得を切り,小さなスペースで派手な殺陣を展開しているために,物語と役者さんの動きの双方で奥行きのある深さを感じるお芝居になっています。

14の役が登場するお芝居では,ほぼ説明台詞や一言二言をいってほとんど印象に残らないキャラクターというのが登場してもおかしくないはずなのですが,本作品はブロマイドで一枚一枚キャラの顔を見ながら,このキャラこんなキャラだったよなと思い出せるほど,どのキャラクターも印象に残るエピソードを持っているのです。

この舞台の最大の特徴は,新宿眼科画廊という劇場に合わせたお芝居であるところだと思います。殺陣では壁を蹴っ飛ばしてターンしてみたり(ちょうど蹴っ飛ばすあたりが上の写真の絵が掛けてあるあたりでした。),殺陣の剣先がそれこそ観客の目と鼻の先を通過してみたりと,計算して作られているだろうなと思わせる動きの良さでした。開演前にここの線から外側に出ないで下さいとの指示があるのも納得でした。

それ以外にも,ハンドスプリングとか器械体操に近い動きをどの役者さんも全力で取り組んでいます。倒れ込むときとかは,怪我してしまうのではと思うほど大きな音が連続で鳴ってくる感じで全力さで舞台に立ち向かっているのだなと感嘆した次第です。

随所で入る,ピアノのBGM,生歌は,物語の緊迫感を少し和らげてくれつつ,破綻へと向かう物語を予感させる材料にもなっていたように思います。もう1度見た時にはこのあたりを確認しておきたいところです。

5.役者さん紹介

いろいろ語ることが多くなってきたので,全ての役者さんを思い出しながら,お一人ずつコメントを書いてみたいと思います。

  1. ユキサカを演じたなにわえわみさん。縦横無尽,緩急入り乱れた,自由奔放な役どころ。突然歌い出すわ,子供から老婆まで自在にスイッチが切り替わるわ,空気は読まないわと,人間離れしているなあと思っていたら,案の定人間ではなかったと分かってラストシーンに妙に納得した次第です。
  2. シェリー=ラングラントを演じた水沢まな美さん。王国を立て直そうと立ち回る献身さが強い役どころです。今回,クライマックスで,「父親になりたかった」というセリフがあったのですが,思わず涙が出てしまいました。 いつもはコメディエンヌや敵役で拝見することが多かったので,水沢さんの演技で泣いたのはこれが初めてかも知れません。
  3. アンデルセン=ラングラントを演じた奥津慶彦さん。レイのいうことを真に受けすぎて,事態をさらに悪化させる善良そうな愚者の貴族を,身に纏っている雰囲気から言い回しまで細部に至るまで表現されていたように思います。あれじゃレイはムカついて仕方なかっただろうなーと思います。
  4. プラチナ・アルナンダを演じた半仁田みゆきさん。とにかく剣裁きから,台詞回し,立ち居振る舞いに至るまで全てがカッコイイ方で,登場から最後まで,初回はずっと注目しておりました。国の安定を求めるがあまり,シェリーの命をイシへと捧げなさいと言うあたりは,さらっと言っているけれど相当辛かったんだろうなーと思います。だってブロマイドには女王と一緒に移っているわけですからね*3
  5. レイ・バースタンを演じた合田孝人さん。声の通る方で,舞台の端からでもはっきりとセリフが聞き取れて,低音が心地よい方でした。悪役面なので最後の最後まで物語の黒幕かと疑っていましたが,彼自身もジーニャを守りたい一心だったんだろうなと考えると,途端に人間くさくなって,涙がこみ上げてしまいます。
  6. ロベルト・ディリーを演じた伊藤瑛佑さん。鳥の首企画コラボ企画以来,拝見するのは二度目の役者さんです。ハンナのことを思い,「良い死に方」という悪ふざけにたいした文句を言うことなくつきあっているさまは,物語の展開を考えるとホッと一息できる優しさがありました。
  7. ハンナ・ディリーを演じた田口祥子さん。こちらも鳥の首企画コラボ企画以来,拝見するのは二度目の役者さんです。ポジティブに次ぐポジティブな行動の雨あられで,割と真面目なシーンの多いこのお芝居の中でもクスッと笑えるシーンに多く関わっています。でもああしないとハンナは精神バランスを崩していたんだろうなと勝手な推測をしています。終盤のシーンでBGMでピアノを演奏されているので,そちらにも注目。名曲です。
  8. ジーニャを演じた岩崎あゆみさん。この物語の悲劇の始まりにして,一番の被害者。辛い思いをして思わず結晶病の毒薬を持ち出すという暴挙に出ています。その一方,その後はレイの行く末を案じており,人間っぽいところが随所に出てくる役どころではないかと思いました。極悪人ではなく,やむにやまれぬ事情で行為に及んでしまった…と言うところも善悪では片付けられない複雑で立体的な物語の展開を豊かにしている気がします。
  9. ダイニ*4ーを演じた岡田勇輔さん。海賊の親方として豪快さを前面に出す雰囲気をまとった方で,声も良く通っていてアクションも迫力満点の方でした。後で調べたら本公演のアクション担当の方だと知って納得。あの壁蹴りの殺陣は最高でした。本編ではいざとなったらサーチルを盾にするとか言っていましたが,あれはあくまでも威厳を保つためであって,本心だったのかなあと思いを馳せております。(あのあたりから全キャラに影があるなあと言うことが判明し出すので,おそらくそれはないのでしょうが)
  10. ガーネッタを演じた汀さん。ダイニーを心の底から慕っていたのだろうなと思うほどの後半の錯乱ぶりは見事でした。特にダイニーが絶命したあたりの叫び声はそれまでわざと抑えていたのではないかと思えるほどの迫力であって,鬼気迫るものがありました。殺陣の数も結構多い印象に残る役どころでした。たぶんガーネッタとトピーラとは海賊に入ったきっかけとかそれまでの経緯が違うんだろうなと思うほどのすれ違いっぷりだったので,サブストーリーを考える余地もある魅力的な役でした。
  11. サーチルを演じたいろはさん。前半は機敏な動きで殺陣をこなしながら,海賊の中のマスコットキャラ的な可愛らしい存在でした。後半になるとガーネッタとダイニーに対する後悔の念が前面に出てくるので,ちょうどかわいらしさとのギャップが哀しさを引き立てていて,この物語の悲劇の象徴でもあるかなと思います(願いが叶うイシが無ければ生き返ることがなく,そして苦しむことがなかったわけなので…)。
  12. トピーラを演じたヤマモトリカさん。ガーネッタの激情とサーチルの落ち込みに挟まれて板挟みの役ですが,ダイニーの命よりもトピーラを生き返らせる方を選択したほど,サーチルとの絆が強いんだなと思います。そのために海賊は空中分解してしまうのですが…。豹変していく海賊達の中で僅かな正気を保つ台詞回しをしながら,もちろん殺陣では大活躍という難しい役どころだと思いますが,最後に引き金をプラチナ(5月1日訂正:ガーネッタですね…)に向かって引いたときには強い覚悟や迫力を感じました。
  13. ノーシスを演じたヒガシナオキさん。不老不死の役どころに合わせた生気の無いメイクやどことなく諦観した台詞回しや動きをしていて,不気味でもありました。でもラストシーンのステラの独白に対してうなだれるあたりは,諦観し全てに対して感情の動きを殺していた中で,最後のところでステラという相手に対しては懺悔や後悔の心を強く持っていたのだと印象づけられる所でした。殺陣も海賊チームや剣士とともに最多に近い登場回数で,八面六臂の大活躍をされています。
  14. ステラを演じた柚木成美さん。物語の中で前半と後半でそれほど豹変しない役どころでありながら,たぶん心の動きは一番大きい役なのではと思います。感情の起伏とかをセリフでは表現しづらい難しい役なのですが,それでもクライマックスの石をめぐるシーンは,それまでの人魚達の重い過去を乗り越えていく力強いシーンだったと思います。

5.おわりに

観劇から1日経った今でも興奮冷めやらぬ状況です。エネルギーに溢れ,全力でパフォーマンスをする素晴らしい劇団の旗揚げ公演を目撃することができたと思っています。ここまで第1回目でハードルを上げたら第2回目は大変なのではとも思いますが,そのときをきちんと目撃できるよう,予定をちゃんと開けられるような生活を心がけたいと思います。素晴らしい作品を有り難うございました!

stage.corich.jp

 

追記:

日曜日の公演を見に行った際に受付で嬉しいことが。お声がけいただき嬉しい限りですし,ブログのことを覚えていて下さって大変嬉しかったです。この場を借りて感謝申しあげます。

 

*1:実は掲示してあるアルファベットだけでマルムロールという言葉が作れるようになっています

*2:全くの杞憂どころか,むしろ本編の方が全力でした。

*3:詳細は劇場物販でご確認を

*4:ニの部分がプログラムでは漢字の二になっていましたがたぶんカタカナだと思うので,修正しています。