リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】オパンポン創造社「さようなら」東京公演

どうも。イマイです。

新年度の業務量がもの凄いこともありまして,先の観劇スケジュールを立てるのも滞っていて,観に行きたいお芝居が満席という悲しさを味わうほどでございます。そんな中,Twitterをいつもの通り巡回してみていたところ,私が小劇場にハマるきっかけを作ったSP水曜劇場の武信さんがこんなツイートを投稿されていました。

 その後も繰り返しプッシュされて,チャンスがあったら観たいなあと思っていました。気になってオパンポン創造社の公演ページをみて,あ,東京来るんだと気がつくくらいアンテナ感度が低かったのですが,「関西小劇場の団体で東京公演を打つ劇団はほぼほぼ面白い」と自分が勝手に提唱している法則に基づき,演劇パスでチケットを購入致しました。

というわけで,本日は池袋のシアターKASSAIへやってまいりました。

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1.開演前

シアターKASSAIの入り口では,演劇パスを見せて会場内へと進みます。

青白い照明の下,後方に団が組まれている以外はほぼそのままの素舞台です。パイプ椅子が下手後ろに二つ横並びになっています。中央を挟んで上手後方に三つが横並び,その前方にはひとつ飛びで二つおかれています。

再演が繰り返されてきた作品ですが,それでも初めて観る方には新鮮に観てもらいたいので,いつも通りネタバレ防止の改行連打です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.あらすじ

Corichに掲載された公式ウェブサイトの情報によれば,あらすじは下記の通りです。

淡路島の小さな工場で働く純粋な人々の物語。彼等、彼女等が生み出す甘美な絵空事が全てを巻き込み錯綜する。

「2000万?あのおっさんがそんな持ってるはずないやろ」
「脱税して貯めてたみたいなんです」
「…ほんで?」
「だから、盗られても警察に言えないんです」

https://opanpon.stage.corich.jp/stage/79751 より引用)

暗転した舞台が明るくなると,車に乗り込んだ作業服姿の宮崎(川添公二さん)が不機嫌そうな態度を前面に出しています。そこへ戻ってきた作業服姿の柴田(野村有志さん)がオドオドと言葉を返します。二人は末田(一瀬尚代さん)とチェン(伊藤駿九郎さん)を追っているようです。

 しばらく宮崎の罵声飛び交う場面が続き,場面は末田とチェンの二人,そしてタクシー運転手の登場するシーンへと切り替わります。淡路島から東京へと逃げようとする二人。気弱な末田と天然キャラで風俗大好きなチェンの二人は,タクシーで大阪まで行くか東京まで行くかで揉め続けます。運転手は急な行き先変更にもケロッと対応し続け,全く意に介さない感じ。

そうこうするうちに暗転。白い幕が下ろされ,キャスト紹介のオープニング映像が流れます。

舞台は冒頭よりも時間軸が前に切り替わり,小さな工場の夕方のシーンへ。粗暴な宮崎が柴田をパチスロからスナックへと飲みに誘う場面。チェンを宮崎が誘うのですが,これまたその場にいた人間が引くような性的に赤裸々な理由で,誘いを断ります。その場に現れた末田は誘われてもいないのに飲み会を断り,宮崎が感情的に工場の事務所を出て行き,柴田が慌てて追いかけます。

残された末田がチェンの真意を確認するも,性的に赤裸々な理由で閉口するような状況が続きます。宮崎のなじみのスナックにシーンは切り替わり,ママ(美香本響さん)のいる前で宮崎はBOΦWYのMarionetteを熱唱し,誘いを断った二人に対して,ひたすらオラつきます。

そんな酒場の喧噪とは無縁な末田とチェンは帰途につきながら,雑談をしつづけ,酒場では朝まで二人が時間をつぶしつづけ,翌朝には工場で社長(殿村ゆたかさん)の号令でラジオ体操に全員が参加する・・・。そういった小さな町の小さな世界の日常が展開されていきます。

そして一見すると,同じシーンが繰り返されます。ただし末田とチェンの雑談は少しずつ変化していきます。末田は噂話になっている社長の脱税で貯めた貯金の話をチェンに切り出し,チェンは社長宅に忍び込んでその隠し金2000万円の存在を確かめます。

シーンが少しずつ短くなりながら,どんどんループしていくシーン。音楽もどんどん早回しになって,永久に繰り返されるかに錯覚するような繰り返しが続き見アス。

何十回目かのループが終わった後,末田とチェンはある決意をします。宮崎と柴田の飲み会へ自ら参加し,社長の隠し金を盗み出したい,ついては社長をスナックに誘って時間稼ぎをして欲しい・・・。

永久に繰り返されるような錯覚すら覚える毎日の中,自分を変えたいと考えた末田,借金を変えそうと企む宮崎,ほぼ何も考えずに楽観的に企みに参加するチェン,宮崎のツケを返済してもらおうと意気込むママ,そこに巻き込まれる柴田,スケベで金に執着する社長,このどこかにある日常は企みの決行と共に崩壊し,そして何かを生み出そうとします。

その結末は,ぜひ舞台上で目撃して頂ければと思います。

3.感想

  • 観終わったときは,もちろん満足だったのですが,アフタートークでの野村さんの話を伺っている間,そして帰り道に劇の内容を思い返している間,じわりじわりとその魅力が思い出される不思議な作品でした。
  • 号泣とか,憤怒とかそういう派手な感じはないのですが,1人1人のキャラクターが関西の淡路島という舞台で,日々生きているリアリティが凄く,今回,他の舞台で拝見した役者さんが複数いたにもかかわらず,何か実際の場面をそのまま切り取ったかのような錯覚に陥るところが何度もありました。
  • 自分を変えたいと切望して何度も「変わりたい」と口に出しているキャラクターが結局は自分を変えられず,むしろ事態を受け入れているキャラクターが,飄々と自分を変えて行ってしまう様は皮肉がとても効いていて,自分を変えられたキャラクターだけが最後のシーンで登場してきているのも,振り返ってみるとじわりと怖いものすら感じる位でした。
  • 私自身は,あのキャラクター達と似たような感情をずっーと抱いていた時期が長くて,最近その辺をよいしょっと乗り越えてしまったところがあるので,両方の気持ちが観てて恥ずかしくなるほど共感していました。自分は必死に努力していて変わろうとしているのだけれど,外からみると全く変わっていない,変わっていると認識されていない状態が続くのは,ムチャクチャ辛いです。ただ,変わってしまった後から観れば,努力の甲斐なく,他人から見れば何も変わっていないということもたくさんあるわけで,その点は楽観視できて自分を突き放せる人の方が強いのだなと思います。(まあチェンとかは道化を演じているようで,たぶんあの裏には壮絶に人に騙されたり嘲笑された経験があって,あそこまで強くなれたのかも知れませんが…)
  • 裸芸が始まったり,頭髪ネタで謎の沈黙が続くという飛び道具はあるのですが,全体を通してみると,ある種の「変身願望」がある人とか,大人の対応を毎日余儀なくされている人たちにはグサリグサリと刺さる物語かなと思いました。
  • アフタートークでは,演出の野村さんから,色々なエピソードが披露されていて,これだけのロングラン公演にもかかわらず,まだ本ステージでも改良点を加えている話や,観客のフォーカスを集めるために工夫を凝らしている話が披露されていて,そのあたりが個々のキャラクターが生き生きとしている要因なのかなと改めて感じた次第です。

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日本のどこかにありそうな閉塞感と,それに対する試行錯誤について,説教くさくなく向き合える,そんな作品でした。

というわけで,初めての劇団さんなのですが,またひとつ不思議な魅力を持つ劇団さんに出会うことができました。小劇場の観劇趣味もこれで8年目に突入するのですが,まだまだ新しい発見が続いています。

opanpon.stage.corich.jp