【観劇ログ】第漆回疾駆猿公演『INTRABORDER』 斜陽編
こんにちは。イマイです。
観劇強化月間ということで,今週は週末にも観劇の予定を入れております。
本日は劇団フェリーちゃんのなにわえわみさんにお誘い頂き,疾駆猿(シックザール)さんという初めての団体さんを観に,池袋のシアターKASSAIまでやってきました。
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1.はじめに
受付開始少し前に会場に到着。シアターKASSAIの右のドア側に受付机が設置される他パターンではなく,左のドアと右のドアの間にある,カウンターで受付が行われていました。終演後は時間が限られているとのことで,ブロマイドの物販が事前に行われています*1。
開場時間になって,整理券と引き換えに会場に入ると,見慣れたシアターKASSAIの舞台が見えてきました。舞台上のセットは次のようになっていました。
- ランタン型など,さまざまなデザインのランプが天井から吊られています。このランプは開演前は8個見えますが,後述する仕切りが外された後は15個のランプが見えるようになります。
- 舞台前面真ん中には,円形の緑色の大きな台が1つ,左右にその台に乗る用の階段をかねた台が2つ置かれています
- 下手方向から上手方向,手前から奥に向かって斜めの黒い幕に覆われた壁があります。
- BGMは昭和20~30年代の歌謡曲が中心に流れており,昭和日本の雰囲気を出しています。
では,千穐楽前ですのでネタバレ防止の改行連打をしておきます。
2.あらすじ
劇団公式ブログによれば,本作品のあらすじは下記の通りです。
1960年の日本。
隆盛を極めた映画業界は日本映画史上最高製作本数を迎える。しかし、テレビの急速な普及により、その産業に翳りも見え始めるのだ。
映画製作の為、多くの物語が原作として扱われ、傑作・名作・B級・駄作が次々と生み出されていく。大量消費社会の黎明であった。
そのような社会の流れの中で生きる作家・考疑 徹(コウギトオル)。短編から長編を書き続ける彼は、現実との違和感や精神不安を抱えながらも執筆活動に勤しんでいた。彼は作品の題材を探すフィールドワークの中で、多くの人々と出会い、様々な影響を受けていく。
ある日、彼は見知らぬ店の中にいた。店主らしき人物が彼に尋ねる。「どのようなランプをご所望ですか?」考疑が、幽かな灯りを頼りに辿り着く先は、一体何処なのか…。
この世はすべて、影に過ぎない。
( https://ameblo.jp/schicksal-blog/entry-12367491820.html より引用)
物語は,ランプの沢山置かれた店から始まります。真っ暗な中から店主が人類が発明した最も優れた物は火であるという話を語り始めます。そこへ一人の作家「考疑徹」(こうぎとおる)が迷い込んできます。徹はなぜその場にきたのかが分からない模様。
店主は徹になぜここに来たのかを思い出さなければいけないと告げて,その場にあった本を手に取り,徹の記憶を再生します。時代は1940年代の戦争体制の日本へと飛んでいきます。
徹は何故,店にやってきたのか,そして記憶の中で徹はどんな人生を歩んでいたのか…。その物語はぜひ劇場で見届けて下さいませ。
3.感想
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出演者は本編のみだと23名,エピソードごとの追加キャストさん3名を入れると総勢26名とかなりの人数に渡っているのですが,どの役者さんも非常に魅力的な方でした。ともすれば,一瞬で破綻してしまいそうな,昭和日本の世界観,ランプ堂の世界観を誰一人破綻させないどころか,魅力的に彩っていました。
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冒頭から店主がストーリーテラーとして,作家の思い出を明らかにしていくのですが,これもテンポ良く行われていて,アクセントになっていて,二時間全く飽きずに世界に夢中になっていました。
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ひと言で言うなら,入水で心中するも死にきれずに殺してもらった作家の走馬燈を二時間で体験する作品です(←身も蓋もない)。
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この徹という役は,色恋沙汰には割と緩く,離婚して,再婚したのに二人と不倫して最後は死にきれなかったから担当者に殺してもらったという,「うーん,何だかんだ評価しようとしても,結局の所ただのクズでは」という言葉が頭をよぎってしまうくらい,人間の弱さが前面に出ている作家です。
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ただ救いがあるとすれば,この走馬燈で登場する人物の中に,悪人は誰もいないという所でした。作家の思い出の中では,誰しもがそれなりの理を持っていて,多少の自我やわがままを持っているのだけれども,作家の記憶の中では,だれ一人悪人として描かれていません。作家はそれぞれの人にしてあげられなかった過去を悔いていたのだなと思いました。
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作家は自分が思っているよりも,ずっと成功した人物だったのでしょう。だからこそ色々な女性が言い寄ってくるし,あれだけ破天荒であっても,完全には見捨てられないで済んでいるような気がします。
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同窓会のシーンでは,8歳の子どもが君の作品を読んで楽しんでいるとの台詞があり,たぶん児童向けとか、映画テレビ向けの仕事をしていたのでしょう。筆は進んでなくても食べていけたのだろうから、たぶん多作な人ではあったのだろうと思います。ただ作家は自分の作品自体の価値よりも,他者の比較とか,周りの影響でしか評価できず,だからこそ周りが変わっていくことで,評価軸がぶれ続けて苦しんでいったのだろうなと。
- ここまで書いて,あの作品では全てのキャラクター,キャストが魅力的でなければいけないのだと気がつきました。なぜなら作家の思い出は実際にはどうであっても美しくなければいけなかったのですから。
- 作家が亡くなってからの現場検証のシーンは,あの世界の中で唯一,作家の視点ではないシーンです。あのシーンだけ,探偵と編集者が優しいやりとりではなく,割と冷静,敢えて言うなら冷酷なやりとりをしています。私はこのシーンが少し怖く感じたのですが,作家の思い出ではなく,あそこだけ現実なのだと気がついたら,さらに恐ろしくなりました。
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舞台上にある斜めのレールで区切られているのも,物語の一面性や,見えないということを象徴しているのかなと思いました。斜めのレールは,途中仕切り板などが入って美術館の壁にも電車の窓にもなって,様々に切り替わるシーンをイメージするのに助けになりました。
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歌謡曲がBGMで描かれながら,ランプ堂のシーンとか時代を遡るところは,曲調が変わったのも世界をちゃんと区切っている感じがあって,私的にはとても盛り上がっていました。
- お誘い頂いたなにわえわみさんは,結ばれないと分かっている恋に夢中になり,最後は若旦那と心中するという,料理屋の舞いも含め,一途な恋に生きる役どころでとても新鮮でした。
2時間の長さを感じさせない,丁寧に丁寧に作られた物語でした。全パターン見られないのが,悔しいですが,この作品を目撃できたことを嬉しく思いました。オススメです。
(以下はおまけのCMなのでご興味のある方だけご確認頂ければ幸いです。)
4.おまけ:CM
今回の挟み込みチラシには劇団フェリーちゃんの次回公演「マクダバ・タリーク」の公演チラシが挟み込まれています。9月13日(木)~9月17日(月)の公演期間となっています。
そして,そのすぐ後には,なんと。
というわけで,趣味とお仕事が結びつきました。学校図書館の研修イベントを劇団さんとやります。劇団フェリーちゃんに無理を申しあげて,土曜日だけコラボレーションイベントをやると言うことで劇場を使わせて頂きイベントをやります。
学校図書館員がホント繋がるための手法,グループブックトークをSLiiiCが提供し,なにわえさんに脚本演出を担当する学校図書館を舞台とした短編作品「新涼灯火の司書物語。」を1度限りの上演を行います。何と全部参加しても演劇作品だけを見ても驚きの価格1,000円という素敵プライスです。役者さんたち扱いのフォームに混じって,SLiiiC扱いの申し込みフォームを作ってもらうという初めての試みをちりばめています。
演劇と学校図書館の奇跡のコラボレーション,ぜひご期待下さいませ。
*1:なお,公式ブログによると過去作品のパンフレットなども販売されていた模様。かなりのラインナップですね…。 https://ameblo.jp/schicksal-blog/entry-12382293824.html