【観劇ログ】劇想からまわりえっちゃん「尊厳の仕草は弔いの朝に ~1・2・3ショットマンレイ~」
どうも。イマイです。
「カッコイイとは,こういうことさ」と呟きたくなる衝動に襲われる年度末ですが,皆さまいかがお過ごしでしょうか。年度末の忙しさで心を亡くすのが嫌なのか,それとも現実逃避なのか分かりませんが,劇場に行く計画ばかり立てている今日この頃です。
さて本日は王子小劇場で行われている,佐藤佐吉大演劇祭2018in北区に出場している劇想からまわりえっちゃんの「尊厳の仕草は弔いの朝に ~1・2・3ショットマンレイ~」を観に来ました(句点までがとても長い)。
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1.開演前
今回の作品は再演作品とのことですが,私は未見でした。かなりの人気があったようで,千穐楽後に追加ステージが設けられる勢いだったそうです。
劇場に到着して45分前になると受付開始。階段の右手側の壁に沿って並びます。30分前の開場でロビーと客席の両方が開場となりました。2時間50分の上演時間に合わせて客席のパイプ椅子には厚めのスポンジがセットされておりました。
昼の回では開演15分前に,青沼さんが前説に登場してくれました*1。恒例となったストーリーをギャグが邪魔する説明と共に,今回の前説では舞台の何もないところに世界を創り出すのだという説明がありました。観劇初心者にも優しい配慮であるとともに,この作品に書ける意気込みが伝わってきました。
開演時間になると,それまで流れていた~1・2・3ショットマン~のテーマから,「尊厳の仕草は弔いの朝に~愛のテーマ~」に切り替わり,これがM0*2となって,物語が始まります。ではネタバレ防止の改行を連打します。
2.あらすじ
今回の作品はこりっちの説明にもあるように2部構成の作品となっています。
数々の賞を受賞し劇団史上最高傑作の呼び声高い
「1・2・3ショットマンレイ」が待望の再演!漫画「1・2・3ショットマンレイ」の世界を上演する【3 秒間の覚悟編】と
この漫画の作者で大親友だった光の突然の死によって
「今」と向き合い前へと進んでいく様を描く【変わる真編】。
初演時には独立した前後編として上演された2編を1つの物語として改編した
劇団初のリバイバル公演です!
第一部は「1・2・3ショットマンレイ」,第二部は「尊厳の仕草は弔いの朝に」という一見すると別の作品となっていますが,実際にはこの2つは関連した作品になっています。あらすじを書き出すと2時間50分の長さになってしまうので,詳細は省略しますが,第一部で出てきたキャラクターを踏まえてから第二部を観るとグッとくるポイントが多くある作品です。
第一部がアメリカが舞台のエンタメ全開西部劇,第二部は現代日本が舞台の静かめの作品となっています。劇団さんの公式PVがありますので,是非こちらをご覧下さいませ。
3.感想
- からまわりえっちゃんお得意の身体を使ったパフォーマンス全開の舞台です。ほとんど全てのセットを身体表現とセリフで表現するので,小道具や舞台セットがない舞台上に,シャア専用オーリスが見えていました。
- まさか,えっちゃんで泣くとは思いませんでしたが,第二部の「だいの友達」の合唱はシチュエーションから,セリフから,音楽から,照明から,衣装から何から何まで,私が泣くポイントをガッチリ押さえていて,好きなだけ泣いていました。超えられないライバルへの嫉妬や信頼,尊敬といったものが全部ぶつかり合ったあのシーンは何度観てもたぶん泣き出すと思います。
- 第一部の西部劇は,エンタメ全開で,とにかく全てのキャラクターが叫ぶ,飛ぶ,駆け回ります。声量も迫力があって,エネルギー全開の感じは流石からまわりえっちゃんだと思います。
- 第二部は第一部のワチャワチャ感がまるで夢だったかのように,音量も低めでセリフも口語に近いテンションで進んでいきます。第一部とのコントラストに面食らいながら,からまわりえっちゃんの振り幅の大きさを見せて頂いた気がします。
- まあ,とにかくレイがやたらめったらカッコ良くて,これを主宰の青沼さんが持っていくのは思わずズルいと思ってしまうほどでした。
- 青沼さんの脚本は大人から見た少し脚色が混じった子ども像ではなく,本当にそういう子どもなんだろうなと思える真実味があって,そのあたりが第二部でグッと胸を掴んでいく魅力なのかもしれません*3。
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2回目を観ると,第一部から胸を切なくさせる伏線が多数張られていることに気がつきます。アンデッドとキッドのセリフ1つ1つにご注目下さいませ。特にキッドが両親を殺されたことを最後まで恨んでいる所と,第二部で親より先に死んでしまう所は,2回目にはグッとくるポイントになっています。
- からまわりえっちゃんなので,お遊びポイントの多くに気づかされました。「金ダヨー」とか,カマキリのミスド販売員とか,どうやったらこのセリフと演出が思いつくのか秘訣を伺いたいくらいです。
- 私が観劇した土曜日の昼と夜は,劇団史上初のトリプルカーテンコールが出た回となりました。あまりにも慣れてなくて,主要キャストが物販ロビーから慌てて飛び出してくるという大騒ぎな感じでした。こんな場面に立ち会えたことは幸せですね。
- 照明も綺麗です。西部劇の世界のワンシーンワンシーンが神々しく輝いていて,光が楽しそうに世界を構築していたのだろうなと考えてしまうほどに,美しい照明です。二回目に気づいたのですが,第2部で虎十狼とキッドの対決シーンはポップな星型の照明になっていて,雰囲気がガラッと変わったところも印象に残っています。
- 音楽もからまわりえっちゃんの魅力の一つです。杉本惠祐さんの生演奏による弾き語りも声量たっぷりで迫力がありますし,エンディングの「だいの友達」はシーンが持つ意味も相まって,おそらく本日以降は曲だけを聴くだけで涙ぐむ危険性がございます。主題歌の「愛のテーマ」はあの溶けて解せない主役の浅野望さんですよ。
- 今回セリフが少なかったけれど,物販でムトコウヨウさんが,ショットマンレイ関連グッズを全部下さいと申し出たら,「ショットマンレイグッズ全部お買い上げの方が出ましたー!」と2回もアナウンスして下さって,恥ずかしさ10%,嬉しさ90%でありました。こういう暖かさが良いですよね。
4.キャストさんへ
さて,調子に乗ってきたので,全キャストさんの役どころと一言コメントをガッーと書いてみました。誤字脱字があったら優しく見逃して下さいませ。
- ショットマンレイ/レイ役の青沼リョウスケさん。第一部の主役のガンマン。とにかくカッコ良い台詞で,観客を魅了していくのですが,身のこなしも軽く,側転をはじめとして,割と多めな殺陣もこなしています。男の子が憧れる男性ってあんな感じですよね。まさにヒーロー。
- キッドベスト/光役の黒木龍世さん。第一部も二番手,第二部も二番手的な役柄で,臆病で声を張り上げるバウンティーハンターと気弱な大人しめの中学生の2つを切り換えていく大変な役どころだと思いました。あの作品の大部分の作者ですが,後から考えるとあのキャラのブレは作品に沿ったブレだったんですね…すごい。
- キャンドリームアンデッド/晃役の岸本武享さん。第一部はto be contiuned...の役の方が多い実は大ボスで,第二部は主役のうだつが上がらないアルバイター。岸本さんがもつ豪快さとか荒々しさも好きですし,ドタバタも大好きなのですが,今回のそれらを抑えめにしつつも色気を感じさせる演技は前2作品と違って,とても印象に残りました。
- トンマ/光母役の玉一祐樹美さん。第一部はほぼ出ずっぱりで物語を牽引する調子の良いレイの友達,第二部は泣き崩れながらも息子の死を受け入れようとする母役でした。テレビアニメの少年役のような印象を受ける凜々しさの第一部に対して,しっとり穏やかな大人の女性の第二部では全く印象が異なっていて,玉一さんのバリエーションの豊かさに感嘆した次第です。
- 虎十狼/光父役のモリタモリオさん。第一部はコミカル気味ながらもちゃんと最後は締める剣士,第二部は家族を思う心優しい(おそらくは)大工の棟梁。真面目に台詞を発しているはずなのに8割で笑いを拾っていく虎十狼のコメディアンっぷりは,舞台のアクセントとして欠かせないところですが,第二部の終盤で魅せた壇上からの跳躍や殺陣を始め,縦横無尽のご活躍でした。
- フローラ/エリコ役のmacoさん。第一部はレイの妹として終盤まさかの銃を交える関係,第二部は死ぬ間際の光を止められなかったことを悔やむ女性です。第一部のトリガーハッピーな破天荒ぶりに対して,第二部の死や殺人という単語に怯える様のコントラストはもの凄いものがありました。レイの物語でなぜフローラがレイを殺そうとして,なぜ最後に生き返るのかを考えるとまた涙が出てきそうです。
- プロフェッサービンゴ/男次役の中村猿人さん。第一部はグッドラックに包まれた狂気を身にまとった刺客,第二部は映画監督を目指しながらも家業を継いで夢から離れてしまった地味な友達。なんと言ってもプロフェッサービンゴの狂気の見事さは,この再演を語る上で欠かせない存在のように思います。それくらいに群を抜いて恐ろしさを感じる狂いっぷりでした。
- デッカード刑事/男市役の野村亮太さん。第一部はアンデッドとズブズブの関係でレイを追い詰める刑事,第二部はかつてプロデューサーを志し,今では一児の母となった友達を演じられています。とにかく背丈がある方で,王子小劇場の舞台,それも目の前でタッパのある方が立ち回りを演じるだけで大迫力でした。
- 久遠/めぐみ役の中野智恵梨さん。第一部は雪山で恋人を待つ時を止めた女性,第二部はそれほど死を深刻に受け止めてはいないながらも真相が気になるクラスメートを演じられています。特に第一部のネロとの再会は青の照明が照らし出す美しさと相まって,写真で思わず切り出したくなるほどの綺麗さに満ちていました。同シーンは1回目から思わず泣き出しそうになったのも良い思い出。
- ネロ/通行人役の林廉さん。第一部は雪山に恋人を置き去りにしながら50年,直視できなかった老人,第二部は居酒屋の店員をやっていたらまさかの演技チェックが始まって飛び出してくる本人役(違う)でした。久遠と再会したあのシーン,穏やかな口調で進める,時間の流れを止められない老人の懺悔は,辛すぎる現実ではあるのですが,シーンの美しさ,残酷さを的確に表していたように思います。なお,私は老人が冒頭にふざけるシーンはえっちゃんらしくて大好きです(笑)
- ジョニージョーイ/ピーター役の杉本惠祐さん。第一部はギター片手にストーリーテラーを務めるミュージシャン。第二部はバンドのメンバーとして夢を追いかけるこちらもミュージシャン役でした。もちろん声量のある歌で場面を盛り上げて下さっている点は本作品の魅力ですが,甘くカッコイイ声で物語を進めていくところも私はとても大好きです。サントラCDを早速買いました(報告)。
- ティナ柚木/晃母役の福冨宝さん。第一部は馬ながらキッドを叱りつけて勇気づけているポルトガルのハーフ馬,第二部は葬儀の準備をろくにしてこない晃にあれこれ文句を言いながらも,手助けしてあげる優しい母でした。ここまで書いて,福冨さんのモチーフが第一部も第二部も,不甲斐ない子どもを立ち直らせようとする母親だと気がつき,思わぬ共通項にドキッとしています。
- セッコー/クッパみたいなやつ役のムトコウヨウさん。第一部はセリフが少ないとうっかりしゃしゃり出たり,ニンジンやお金に吊られて敵に捕らわれ,レイに怒られる馬,第二部は台本に載っている役よりもコントの相方の方がセリフ量が多い人物でした。ムトコウヨウさんの飛び道具要素をかなり控えめにしていましたが,コントの相方を冷静かつ朴訥にこなす辺りに新しいムトさんの魅力を感じました。
- ボブデイ/アナウンサー役の佐藤新太さん。第一部ではTVショー「ゲッターゲット」の司会として,第二部ではたぶん台本で書いてあったスクリーンとある部分の読み上げ役だったかと思います。何よりも第一部の冒頭の「ゲッターゲット」は,ガンマンが跋扈する世界をイメージづけるための重要な役どころだったと思います。この辺からのキャラの良い方面へのキレっぷりは本作品の見所です。
- キャンディ/ドリ役の東京ドム子さん。TVショー「ゲッターゲット」のアシスタントとして,第二部では西部劇キッド編の妖精キャラとして登場してきます。ただ私としては第一部は「金ダヨー」,「カマキリのミスド販売員」など確実に強い印象を残すコメディエンヌっぷりが非常に印象的です。マクドナルドの店内では座ってこちらを見つめているだけなのに何故か笑いがこみ上げてくると言う不思議さがございます。
- ゴールドデンアイ/山田役の南大空さん。第一部は物語の冒頭で主人公に倒されるやられキャラ,第二部は思わず晃に話し込んでしまって,手伝いの方に遠回りに注意される受付です。第一部のねっとりしている感じのマッチョとは比べものにならないくらい,第二部では晃に気を遣う好青年になっています。どことなく空気が読めていない感じは共通項かもしれませんが。いずれにせよ声量たっぷりに物語を始めて下さった物語のトップバッターであります。
- ピール/バレ役の栗原新奈さん。第一部は鉱山でレイを助けたり罠にはめたりする役どころ,第二部では西部劇キッド編の妖精キャラの役どころでした。可愛らしい感じのたたずまいにもかかわらず,背景のギャグシーンでは割と奇抜なポーズを取られていてそのギャップに笑みがこぼれてきました。ただし,割と物語場ではギャグが拾ってもらいにくい所なので辛いところかも知れませんが…。
5.おわりに
ブログ書くのを後回しにしようかなと思いつつ,書き出したら止まらない,語り出したら話が尽きないのが劇想からまわりえっちゃんの魅力だと思います。色んな評価はあると思いますが,私はこの作品が今までに見た,からまわりえっちゃんの中で一番好きですし,映像化したら真っ先に手に入れたいなと誓った次第です。
本当は体調が最悪で観劇するかどうかも迷っていたのですが,気がつけば観劇当日に6000字のブログを書くぐらいの元気をもらったので,観て間違いはなかったようです。私に取っては翼を授けるレッドブルのような作品でありました。