リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】T-WORKS#1 「源八橋西詰~I'M STANDING AT THE CROSSROADS AGAIN~」

どうも。イマイです。

関西小劇場が大好きなので関東住まいにもかかわらず,関東の小劇場よりも関西小劇場の役者さんの方をよく拝見しています。ひょっとすると,テレビに出ている方が目の前にいるよりも関西小劇場の役者さんが目の前にいる方がドキドキするかも知れません。

さて本日は関西小劇場では欠かすことのできない女優さん,丹下真寿美さんの個人プロジェクトT-WORKSの旗揚げ公演,「源八橋西詰」を観に中野のテアトルBONBONまでやって参りました。

 

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1.はじめに

丹下真寿美さんを初めて拝見したのは,ピースピットの「SMITH」のDVDでした。私はそのままピースピットの作品を映像経由では意見して,その流れから色々な団体さんの作品を拝見しておりますが,かなりの割合で丹下さんが出演されています。大阪まで観に行ったTRINITY THE TRUMPのFemaleバージョンにも,満月動物園さんのレクイエムにも,笑の内閣の「名誉男性鈴子」にも丹下さんは出演されていて,綺麗で達者な方だなとその都度感嘆しておりました。

今回のプロジェクトは,丹下さんに惚れ込んだプロデューサー松井康人さんが丹下さんの魅力を全国に発信することを目的にしたプロジェクトです。どんな引き出しが出てくるのだろうという期待もあって,今回第1回公演の東京公演に馳せ参じた次第です。

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さて開場時間に合わせて,テアトルBONBONに到着すると,ロビーでは私の目を惹く物販コーナーがありました。今回の上演台本,パンフレット,丹下さんの写真集,DVD/Blu-ray予約というラインナップでした。DVDの予約は終演後にするとして,それ以外は全部下さいといういつものパターンで,お財布を軽くする作戦に出ました。

今回の公演ではパンフレットと写真集を2つとも買うと,丹下さんが終演後,サインして下さるとのことです。購入するときにはそんなことは全く予想していなかったので,これだけで私の心は高鳴っておりました。

劇場はロビーから階段を上がって2階にあります。今回の座席は指定席で最前列に割り振って頂きました。もう手を伸ばせば,そこは舞台という位の近さでした。

荷物を整理して客席に座ると,目の前には素舞台と,木の枠で作られた四角形の箱,そしてそのいっぺんからは背もたれと思われる板が伸びています。見ようによっては椅子とも見えるこのオブジェが2つ舞台上にぽつんと置かれています。2つの椅子に向かって1本ずつ白のスポットライトがあてられていますが,それ以外には何も無いシンプルな舞台となっています。

洋楽のBGMに鳴る中,開場前のアナウンスがスピーカーから聞こえてきます。急に割り振られたかのようなたどたどしさで軽い笑いを取った後,いよいよ開演時間となりまして,BGMの音量が大きくなっていきました。

さて恒例となりましたが,千穐楽前ですのでネタバレ防止の改行連打をいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.あらすじ

舞台のあらすじは下記の通りです。

死刑判決確実の殺人犯を精神疾患に仕立て、無実を勝ち取ろうとする弁護士、売れないからと座長からお笑い女優に転向させられようとしている女優、かつては売れっ子だったが今は落ち目の売れない童話作家、それぞれが成功を手にしようと歩みを進めるその先は、源八橋西詰という名の四辻だった…。( http://stage.corich.jp/stage/85686 より引用)

開演すると,舞台上にはスーツを着た「角」が,おそらくは刑務所の面会室と思われる場所にやってきます。 そこに鉄扉が開かれ,二人の男が入ってきます。作業服姿の「伊藤」と刑務官です。刑務官がひとしきり世間話をし,「伊藤」と「角」の二人きりになります。パンフレットによれば,これが第1話,犯罪に絡むある特殊な職業である「詐病師(さびょうし)」の話です。

「伊藤」を無罪にするため,「角」は精神鑑定で「異常につき犯行時の責任能力なし」と診断させることで無罪を勝ち取ろうとします。病気であることを詐称する職人,「詐病師」の仕事です。その話を持ちかけられた「伊藤」は乗り気なのか,ふざけているのか分からない態度を取ります。あまりにかみ合わない会話は一見するとコントのようにさえ見えてきます。ようやく「伊藤」は持ちかけられた多重人格者を演じる話に乗ります。ホッとした「角」は世間話を始めます。そういえばこの面会室に来るまでひどい目に遭った,迎えの車が30分も来なかったんだ,そうあの何の変哲も無い四つ角,「源八橋西詰」で待たされたんだと。

2人の役者が交わした会話劇はここで一端終わり,女優が一人舞台に登場し,語り始めます。第2話「看板女優の話」が始まりました。パンフレットによれば公園での一人稽古の最中に劇団座長が現れ,彼女の人生を揺るがす意外なバカ決断を告げるという話です。

事故で亡くした恋人を慕うシーンを練習する女優。公園で練習しているらしく近所のプロレス好きのおじさんに絡まれて面倒なことになりますが,何とか切り抜けます。そこに登場したのは劇団の座長。頭のネジが65536本ほど外れているのではないかと思われるほど,明後日の方向に会話が外れまくり,なかなか本題に入らない二人の会話。ようやく切り出した話は,明日からコメディ劇団になる,お前の名前は今日から沢田ではなく,おいもだ,そうだお前が練習しているそのシーンもコメディに書き換えるぞという話でした。一般的な感覚であれば,ここで石でも投げつけて願い下げだという所になるのでしょうが,この看板女優は何とか劇の世界に残ろうと,座長の提案を渋々受け入れながら演技を進めます。馬鹿馬鹿しい演技を本気で演じる「おいも」,いつしか公園からは誰もいなくなっており,寂しく片付けをする彼女に一本の電話がかかってきます。テレビ番組の端役のオファーでした。お金のためならばと嫌がる素振りを見せずに,引き受ける彼女。ロケバスに乗ってから現場に移動するとのことで,交差点で待ち合わせることになりました。交差点の名前は「源八橋西詰」でした。

ここで第1話の場面に切り替わり,続きが始まります。二人がひとしきりかみ合わないやり取りをした後,また舞台は切り替わって病院へと切り替わります。第3話「童話作家の話」です。

病院に入院している女の子。家族が側に居ないようで,一人で遊んでいます。茄子をモチーフにロケットを飛ばして遊んでいるようです。客席にも乗り込んでくる自在っぷりでひとしきりふざけていると,そこに薬の処方を待つ一人の男が腰掛けます。女の子は何かお話をしてくれる?と男に頼みますが,男の話はどれも女の子がよく知っている話でした。じゃあ私がお話ししてあげるね,「カッパミイラちゃん」のお話を。しぶしぶ男が話しに付き合い聞き始めると,これが実は凄い話で…。

このように3つの話は独立しながらも,「源八橋西詰」という場所にやがて戻ってくる構図になっています。パンフレットにある「ブルースの巨匠ロバート・ジョンソンの名曲『Crossroads Blues』が流れる中,悪魔に魂を売るために源八橋西詰で人を待つ3人の姿が闇へと消えていく」ということが一体どういうことなのか,その結末はぜひ劇場で目撃して頂ければと思います。

3.感想

  • 最初、言葉遊びや不条理で笑わせていく狂気で混沌としていた空間が続きました。ただあまりにも不条理な笑いが次々繰り出されるので,もしかするとコント公演なのでは?と不安になっていたのですが,終わってみれば周到に準備されて,最初から正気で秩序だった空間でした。舞台の物語から乖離していると思いきや,最初から物語は始まっていたのでした。クライマックスに近づき,それが分かるにつれ,たまらなくおもしろくなって来るという不思議な作品でした。
  • 久保田浩(遊気舎)さん,坂田聡ジョビジョバ)さんの変幻自在で巧みな演技は一歩間違えれば破綻しかねない物語の世界を,的確に方向付けていました。久保田さんの包容力がある演技,坂田さんの弱々しい所から,声を張りあげるところのコントラストの強さは,二人とも流石ベテラン,熟達の役者さんだと感嘆した次第です。
  • そして要所要所で出てくる後藤ひろひとさんの,あまりに個性的でも憎めない登場人物には,その都度爆笑しておりました。
  • 何度も拝見していた丹下さんの知らなかった魅力を魅せていただいた気がします。看板女優,子どもだと思い込んでいる記憶喪失の女性,弁護士という三役ですが,特に今回は,子どもの演技が吹っ切れているのが痛快でした。この子どもの演技が,次第にシリアスになって,オレンジのスポットに照らされてシリアスになるところでは,何か目をそらしてはならないと思うほどの迫力がありました。

終演後,サインをしてもらう間,実は初めて丹下さんとお話しする機会を頂きました。私から見れば関西小劇場のトップスターの方が目の前にいるという非日常に,ドギマギしてしまってちゃんと話せたかどうか不安なのですが,たぶん日本語は話せたように思います。丹下さんのお話だと1年に1回はとのお話しでしたので,またぜひ第2回公演も伺いたいと思いました。DVDもちゃんと予約しました。

冷静なつもりでおりましたが,文章で表現するとだいぶ舞い上がっていた1月24日(水)の夜なのでありました。楽しい一夜を感謝感謝です。

T-works

stage.corich.jp