リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】劇団壱劇屋「シャドウトラフィック」

どうも。イマイです。

最近,関西の劇団さんがよく東京に遠征してくださることに甘えて,大阪に遠征する機会が減ってしまいました。大阪公演があっても,東京公演があればそちらでみれば良いやと思ってしまうのは仕方ないことですが,そんな中,東京でプロモーション活動を行いながらも,公演は大阪だけで打ちます,是非来てくださいという劇団さんがいらっしゃいます。私のお気に入りの劇団さん,劇団壱劇屋さんです。

今日はそんな壱劇屋さんの新作本公演「シャドウトラフィック」を観に,大阪は福島にあるABCホールまでやって参りました。

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 1.壱劇屋さんとプロモーション活動 

壱劇屋さんといえば,プロモーション活動が盛んな劇団さんで,質量ともに,おそらくトップクラスに君臨するレベルの劇団さんだと私は考えています。Twitterでの爆速リツイートFRESH! by AbemaTVやYouTubeでほぼ毎週のように繰り出されるミニ番組,公演地でもないのに,名古屋東京までチラシを配布しに訪れるチラシ配布旅,チケット発売を記念して行うUstreamなどなど,複数のチャンネルを切り分けながら,活用している様はお気に入りの劇団さんであることを除いても,素晴らしい取り組みだと思います。

4月の王子小劇場でのSQUARE AREA後,私は今回の公演は実はスルーするつもりでした。9月から11月は予定が目白押しで,大阪まで観に行くのは大変かなと思っていたのです。

ところが7月5日(火),この仮予定は急遽変更することとなりました。この日,たまたま本務先に遅めの出勤をしていたところ*1,以下のTwitterを拝見しました。

 東京へチラシ配り旅をされていることは,存じ上げていましたが,何とこの時,ちょうど渋谷のあたりを通りかかっていました。そして手にはちょうど職場のロッカーに保管しようと思っていた「SQUARE AREA」のTシャツが!*2そのままTwitterの公開リプライで打ち合わせながら,渋谷のモヤイ像前で待ち合わせて,できたてほやほやのチラシを受け取った次第です*3

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で,その場で調子に乗って「絶対観に行きます!」と大熊さんと西分さんに約束していましたので,これで伺わないのは何か自分の信義則に反しそうな気がし,日曜日の千穐楽前と千穐楽の2公演を観られるように様々な予定を組み替えていったのでありました。

会場のABCホール周辺は,雨が続いて長袖が欠かせない東京周辺とは異なった秋晴れの気持ちよい天気でした。

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45分前に受付を終わってロビー会場で様々な物販を買い求め*4,30分前に開場して客席に座っていたら,15分前からはこんな嬉しいイベントが始まりました。

単に宣伝というなかれ,これ単体でも成立するような迫力のある*5パフォーマンスでした。そして前説は主役の大熊さんでも無く,宣伝演舞をした竹村さんでも無く,初の西分さんというサプライズ。自分は3番手だからと恐縮しながらも,決まり文句を話すだけでなく,アンケートをしてみたり,客席を沸かせてみたりとこんな細かい所でも楽しませてくれるのかと驚くばかりの配慮・おもてなしづくしなのであります。

前説が終わり,わずか1本もしないうちに,舞台は暗転し,低音が強調されたBGMが流れます。いよいよ開演です。

2.作品あらすじ

さて,前置きが長くなりましたが,いよいよ作品本体の方へ話を展開させていきたいと思います。千穐楽ももう終わったので,ネタバレの改行はせずに作品紹介と感想を書き連ねてみたいと思います。リンク先のCorichも関連情報が充実していますので,合わせてご覧になってください。

stage.corich.jp

一台の普通車がトンネルの手前でゆっくりと停車する。
街灯は無く、ヘッドライトが消えて明かりは月ばかり。

車から男が降りてきた。彼は探偵だ。
懐中電灯を点灯させ辺りを調べ始める。
雨が降ったせいでアスファルトがミラーボールのように反射している。

一瞬、彼は見てはいけないものを見た気になった。
トンネルの奥に何か見えた気がする。
慎重にライトを向けると、おびただしい人影がそこにあった。
此方に迫ってくる人影の群れが。


車道は繋がっている。何処とでも、何処までも。

 物語は探偵事務所の大沢と竹田がN市の影山町という場所にやってくるところから始まります。異なる依頼者三人から寄せられた異なる3つの依頼,渋滞解消,妹捜し,タクシー運転手を付け狙う人物の調査。これらがなぜか影山町で共通の接点を持っていることに探偵の大沢は気づき,助手の竹田とともに車で町を訪れてしました。

調査を進めるうち,大沢はグレーゾーンと呼ばれる町の影に迷い込んでしまいます。同じトンネル内に存在しているはずなのに,互いの姿は見えず,でも携帯電話は繋がるという状態。

大沢が依頼者である西野の依頼のために聞き込みを続け,竹田がタクシー運転手に連絡を取り始めて…

物語は2つの世界がクロスしつつ,時間軸も行きつ戻りつしながら,探偵たちは影山町の隠された過去に掘り当てていきます。なぜ渋滞は解消されないのか,なぜ妹は失踪したのか,なぜタクシー運転手は付け狙われなければいけなかったのか,全ての謎は探偵達の推理にかかっています。

3.感想

一言で言うなら,全てが揺さぶられる空間でした。強烈な音圧によって空気は振動し,巧みなパフォーマンスによって感情は高揚し,煌びやかな照明によって明暗が生成され,重なり合った謎によって物語が展開された空間でした。

音圧の凄さについては,受付開始前にABCホール前のデッキで待っている間にもリハーサル中の振動が伝わってくるほどでした。開演直後に座席の手すりから振動が伝わり,終演間際には椅子の座面を伝って下腹部あたりで音圧の強さが分かるほどです。こればかりは,どんなキレイに映像を撮ったとしてもどんなに高精度なPCMレコーダーを使ったとしても,劇場で無ければ味わえない感覚だったと思います。

巧みなパフォーマンスについては,冒頭のシーンが劇団公式アカウントで配信されています。壱劇屋さん並びに弐劇屋さんは個々人の個性や面白さがSNSYouTubeTwitter動画から伝わってきますし,それも魅力の一つですが,こうして身体をフルに使った躍動するパフォーマンスを観ると,こうした下地をきちんと構築された上での本公演なのだと強く思います。冒頭のシーンで一列にキチッとそろって腕が振られ,地面から跳躍し,マイムが繰り出された瞬間,すっかり舞台上へ目が釘付けになっていました。

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煌びやかな照明は,この作品のテーマである影を強調しています。暗転は1回しか無く,常に舞台上は光があるのですが,それでも劇団員の河西さんによって撮影される舞台写真は吸い込まれそうな美しさですが,その舞台写真の前提にはこの煌びやかな照明が大切な条件であることは言うまでもありません。

重なり合った謎は,物語を退屈させることなく最後まで読み進めさせてくれます。影からは人間は見えず,人間からは影が見えず,誰が黒幕で誰が丸井を殺害したのかなど,様々な謎が時間が経つごとに提示されていきます。実は何気なくやりとりされていた台詞や,1回目ならば流して観てしまうシーンに,細かな伏線がちりばめられていて,終盤でそれがスピーディーかつ軽快に回収されていくあたりは,すごく心地よかったです。

全キャストさんそれぞれに見せ所があって,気がついたら全キャスト紹介を始めていました。長くなりますが,自分の満足のために全部書き切ることにします(役名は後日補足をするかもしれません)。

  1. 大熊さん演じる探偵の大沢はメガネ姿がとてもカッコ良くて,同じタイプのメガネを探し求めたくなるレベルでした。いつもだとエッセンス程度のマイムとかアクションの実力が,主役なだけに存分に発揮されていて,それも凄いなあと。
  2. 竹村さん演じる探偵助手の竹田は,包容力あるコメディの役回り兼,困ったときのお助けヒーロー。ただ,よくよく見ると大沢との通話を始め,見えているのに見えていないように扱わなければいけない難しさは随所にあったのかと。それから,アクションの見事さには改めて感嘆しました。
  3. 安達さん演じる建設コンサルタント安部は,要所要所で物語を進めるストーリーの潤滑油。渋滞が多少緩和しただけで探偵へ都度電話するくらいのマメさ。かなりの神経質か,それとも渋滞監視が専業なのかで,性格の解釈はだいぶ変わってくる感じですが,いずれにせよ安定した台詞回しでしっかりと物語は進んでいきました。
  4. 河原さん演じる信号機は,中盤から終盤の一場面のみの登場ながら,強烈な印象を観客に残す,この作品の一大アドリブ場面を担当されています。お笑いの本職とやり合うのはさぞや大変だったろうなと。ところで影のモブ役で出てくるときに1回だけ仮面を被っていないシーンがあるのですが,あれはどう解釈すればいいのか迷っています。DVDで確認してみたいと思います。
  5. 西分さん演じる西野は,ただの依頼者から最後は黒幕にスケールアップする大どんでん返し。努めて明るく振る舞っていたのは,抱えた影の大きさに負けないための明るさだったのかなと。前説で原稿を用意してもらわないと確かに一杯一杯になるなあと思いました。
  6. 丸山さん演じるタクシードライバー丸井は,物語の悲劇の1パーツ。影の陣営ながら,自分の生に執着するあたりは,影といっても何か人間くさいものを感じました。もしかすると,実は人間で影の陣営に荷担しているとか…そんな想像が膨らみます。気の弱さとか人間の弱さは,丸山さんならではの色が出ていたと思いました。
  7. 坪坂さん演じる男は,影を破壊して回る狂気の殺人鬼。実直そうな普段のお人柄とは打って変わって,狂気じみた役柄の迫力は随一の方でした。本当のヒールレスラーは心優しく,常識人で無ければ観客の心を打たないという言葉が不意に浮かびました。これで卒団というのは残念ですが,これから先も違う世界で活躍されることを祈念申し上げたいと思います。
  8. 井立さん演じる影人間は,中盤から終盤のみの登場なのですが,身のこなしの軽さや,流暢で印象的な台詞回しで,初めて拝見したのですが,今後も壱劇屋さんの舞台でどんどん拝見したくなりました。シュッとしてカッコ良い方だなあと。
  9. 藤島さん演じる案内役は,ほんの2,3シーンだけの登場ですが,品の良さが見え隠れする落ち着いた印象がありました。それでも,「そこまで見えるようになったんだ」と一言呟いた瞬間の不気味さは印象的で,西野が大沢を欺くための姿だったと謎解きされたときは,そうだよねと納得したのを覚えています。
  10. 柏木さん演じる明日美は西野の妹として登場。弐劇屋さんの中では台詞や登場場面がおそらく最多。でも,不安要素は全くなく,物語の中で御陰様に惹かれてしまう,どこか危うい「帰る場所」を探す高校生としてあの世界に生きている人物でした。「踊ってみたのおもろい人」という印象とは180度違っていて今後のご活躍が楽しみです(←詳細は弐劇屋Twitter参照のこと)。
  11. 浜崎さん演じるアルバイトは,渋滞の原因を生み出す坂道の制作者。西野も明日美も影人間として光が当たりますが,この物語で影や重い過去を抱えていない数少ないキャラのせいか,物語が一段落して振り替えると,真っ直ぐで明るいキャラクターとして印象に残ります。千穐楽のアドリブ対応を見ていると,機転が利く方のようなので,また次回拝見するのが楽しみです。
  12. ビーフケーキの二人が演じるお笑いコンビ「マッスルミラー」(日曜日12時の回準拠)。重くなりがちな舞台を,良い意味で引っかき回していて,笑いどころとか清涼剤をまとめてダースで持っていった感があります。千穐楽公演でもう呼ばれないかもとの発言がありましたが,別の作品で私はもう一回拝見してみたいと思える,ゲストさんでした。
  13. 美津乃さん演じる御陰様,黒幕の雰囲気がでていながら,実は生存戦略をとろうとした哀れな一個体だった事が分かり,不気味さとともに哀しさを残す終わり方でした。私の中では美津乃さんは関西小劇場界のトップスタアさんなので,美津乃さんの魅力をふんだんに,かつリングを使った立ち回りの新しい魅力まで垣間見させてくださる本作品は実はこれだけでお金を払いたいレベルだったりします。
  14. 渡辺さん演じる大金持ちは,グレーゾーンの制作者にして,「だいたいこいつのせい」。ジャグリングパフォーマンスというのは,テレビとかで少し拝見する程度なので,本作品ほど数多くにかつ多様なパフォーマンスを拝見できるのは,何よりの幸運でした。ただ,そうしたパフォーマンスを離れて渡辺さんの浮き世離れした台詞回しやたたずまいは,ジャグリングを除いたとしても拝見したいシーンでした。

(あと,細かい部分なのですが,お笑いコンビを含む車の渋滞が初めて出てきた瞬間,RPGMOTHER2」のドコドコ砂漠が連想されたのですが,多分気のせいですよね…。シチュエーション的には渋滞で一緒ですが。)

4.おわりに

実は,本公演のために近畿2府4県以外からのお客さんへはチケット代を半額にするという「遠征割」を壱劇屋さんは実施していました。確かに交通費だけでも2万を超える金額になることを考えると(例え遠征割りが無くても今回は駆けつけていたと思いますが),遠征のハードルが下がったことは確かです。正直,半額にしちゃって大丈夫かしら?と思うので,突然制度が消えても驚きませんが,こうした遠くのお客さんもどんどんWelcomeだというポーズはとてもとても嬉しかったです。

冒頭で申し上げたように,作品がまだ完成していない時から,全国各地へチラシを配布して回るなどプロモーション活動については随一の壱劇屋さんです。正直凄い人たちだなと思う次第です。でもその凄さの一方で,千穐楽だからといって,内輪ウケに走ってぐずぐずになることも無く,例え初見であってもちゃんと1つの作品として楽しめるよう,完成させていくあたりは,壱劇屋さんの舞台に対する真剣さや真面目さが現れているのではないかと思いました。

この公演で本公演は卒団する坪坂和則さんの挨拶は,とてもシンプルなものでした。長々と語ってこれで最後だという挨拶もあったのかもしれませんが,おそらくは作品の余韻を壊さないようにと,ご配慮くださっての挨拶のシンプルさだったのではないかと思います*6

そんな一つの行動でも垣間見えるような,全力で観ている人を楽しませようとする壱劇屋さんは素敵だと思います。プロモーション活動という外側だけでなく,中身もちゃんと素晴らしいものを真摯に作ろうとするカンパニーだからこそ,私は大好きだと言い続けられます。

次回公演は竹村晋太朗さん作・演出のノンバーバル60分芝居「独鬼〜hitorioni〜」。今度は大阪日本橋のシアトリカル應典院での10ステージです。観劇できることを楽しみに,また一ヶ月頑張りたいと思います。 

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*1:念のため申し上げますが当方裁量労働制の職場ですので念のため。

*2:白状すると,家を出るときにもしかしたらと思って持参していたのです。

*3:制作の若旦那家康さんがinstagramに載せてくださった写真は,私の大切な大切な宝物です。

*4:今回の物販は文房具中心ですが,とてもリーズナブルでした!後述する遠征割を含めて,とても嬉しかったです。

*5:説明を話しているときの温和な竹村さんの目つきが,殺陣が始まった瞬間,キッと豹変するのを目撃できました。

*6:たんに千秋楽公演の時間が押していて,とにかくはやくカーテンコールを終わらせなければと言う別の理由があったかもしれませんが…。