リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】INDEPENDENT 3rd Season Selection 東京公演

どうも。イマイです。

今日も観劇日です。今日は昨日楽しかったジョーカーハウスさんの11時の回を観てから,大阪からやってきたずっと前から興味津々だったあのイベントに馳せ参じました。

そのイベントの名前は「INDEPENDENT」。

大阪の小劇場界では超有名なin→dependent theatreを拠点とした,既に昨年で15周年,15回ものイベントを実施している一人芝居の一大フェスティバルです。関西小劇場を見始めてからその名前はチラチラと聞くことはあるのですが,1回の大会で全ての作品をいっぺんに観るためには,どうしても朝から晩まで劇場にいる必要があって,躊躇していました。

それが,過去5年間の作品からセレクションした作品を東京で上演するという好条件の上に,私のお気に入り劇団である月曜劇団さんと満月動物園さんが参加されているというこれ以上無い後押しがありまして,ならば伺わない理由はないということで,土曜日の一日通しチケットの予約を行った次第です。

ジョーカーハウスさんの「英雄コレクション」土曜日11時の回が13時過ぎに終わったので,大急ぎで新宿御苑前→四谷→王子と移動。ネーミングライツが始まってから,初めて訪れる「花まる学習会王子小劇場」に無事到着しました。

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1.INDEPENDENTとは

INDEPENDENTの概要は公式Webページでも取り上げられているように,一人芝居のフェスティバルです。

コンセプチュアルな劇場プロデュースとアグレッシブな活動で全国から注目を集める大阪インディペンデントシアターを拠点に、2001年から毎年11月に開催している「最強の一人芝居フェス=INDEPENDENT」。俳優と作演出家によるユニットが、様々なスタイル・表現手法のソロアクトで競演するこの企画は、これまで全国で344作品以上を世に送り出している。多くの観客と創り手を魅了してきたこのフェスティバルは、2011年夏に初の全国ツアーを開催。そのネットワークを活かし、2012年からは地域の俳優や創り手を中心としたプロジェクトを開始。現在では、北海道札幌、東北仙台、東海津&名古屋、九州福岡、沖縄那覇&沖縄で地域版を継続開催。今年2016年夏に、再び全国ツアーに挑む! http://independent-fes.com/about.html

興味深いところとしては,俳優と作演出家のユニット制度を取っていて,同一の劇団さんから脚本・演出と俳優さんの組み合わせが出ることもあれば,普段は異なる劇団で活躍している方達同士が,このイベント限定のユニットを組んでいることもあります。この多様さもあって,344もの作品が上映される豊かさを生んでいます。

2.東京公演概要〜開演まで

冒頭でも触れたとおり,今回のイベントは過去5年間上映の作品から10作品を厳選して上演するこのイベント,10作品を取り上げるので,以下のようなタイムスケジュールとなります。

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 1日通すとなると,14:30〜21:00までの6時間半の長丁場になります。といっても,それぞれの演目は1つあたりの時間は30分で,かつ3〜4ずつのブロックに分けられ,それぞれのブロックの間は60分間のインターバルが含まれているので,6時間半と言う時間は決して長く感じません。むしろ3時間のお芝居を2本観るよりも気軽に見られる感じが嬉しいです。

受付で手続きを済ませると半券と共にネームタグをもらえます。「1DAY PASS」と書かれていて,なんだかライブ会場に来たような楽しさがあります。なおチケットの半券を物販コーナーに持っていくとワンドリンクがもらえるので,まさにライブ会場ともいえます。

初回ブロックのみ45分前の受付,30分前開場ですが,ブロック間のインターバルは1DAY PASSを受付で見せるだけで通過できるようになります。東京の場合は,ブロックごとのチケットに900円〜1000円プラスするだけで1日券になり,2ブロック以上を見ると1ブロックごとにチケットを買うよりも安くなるので,かなり1日券はお得だと言うことが分かります。

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会場に入ると,舞台前に黒い幕が張られていて,プロジェクターでINDEPENDENTというロゴが映し出されています。そして館内にはEDM系の音楽が鳴り響いています。しかも照明が赤青と色が変わりながら場内を照らしています。私は行ったことがありませんが,クラブという所は多分こんな場所なんだろうと想像していました。

兎にも角にも,音楽に対してリズムを取ってみたりしていると,テンションはどんどん上がっていきます。こういう開演前の盛り上げ方は私が一番好きなパターンです。さて,開演時間になると各種注意が行われ,場内が真っ暗に。そして目の前の幕にはINDEPENDENTのロゴと,上演される演目の文字が躍ります。いよいよ開演です。

では,恒例のネタバレよけの改行を連打します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.作品ごとの感想

というわけで,1日券で全10作品を全て観てきました。上演順でそれぞれ簡単な感想をメモしておきたいと思います。

  1. 「DANCE BURRN」
    • 出演:河口仁さん(シアターシンクタンク万化)×脚本:二朗松田さん(カヨコの大発明)× 演出:福谷圭祐さん(匿名劇壇
    • 演劇のフライヤー制作を請け負っているデザイナーの話でした。業界内トークも織り交ぜながら,若手劇団から飛び込んできた突然の依頼にイメージを膨らませるデザイナー。ところがそこへ恋人の電話が邪魔をするように鳴り響き,どんどん関係がこじれていきます。キャスター付きの椅子を巧みに使いながら,ファンタジーや恋愛ものを初めとして,様々な演劇のエッセンスがちりばめられていてとても観やすい作品でした。ラストは結構衝撃的でした。
  2. 「次の場所までさようなら」
    • 出演:中嶋久美子さん × 二朗松田さん(カヨコの大発明)× 演出:泉寛介さん(baghdad café
    • バレエのプリマドンナが出てきて,優雅に踊っています。セリフは「un deux trois」ではなく,「すり足,手刀」とどこかで不釣り合いなセリフ。プリマドンナが稽古を済ませて,ちゃんこ…え,それ相撲じゃね?というわけで,プリマドンナの格好をした役者さんが大相撲の力士を演じるという演目。関取としては普通のセリフなのにプリマドンナが話すとここまで面白いかと思うほど,ドッカンドッカンの大受けでした。普通のセリフ以外にも,ちょいちょい笑わせてくるセリフが多く含まれていて,会場中のお客さんはひたすら爆笑。私もおなかが痛くなるほど笑いました。何度も上演されている作品とのことで次はないかもとの話が書かれていましたが,映像で何度も拝見したい作品でした。面白かった−。( in3SS、大阪始まります。|カヨコの大更新 )
  3. 「仏の顔も10度目にもう一度」
    • 出演:maechangさん(BLACK★TIGHTS)×演出脚本:野村有志さん(オパンポン創造社
    • 幕がこの作品は最初から下りておらず,女の元に車を飛ばして向かう男が人を轢いてしまうシーンからスタート。ビギナーズラックを信じて全財産を賭ける女性,誘拐されているのにズラがないことで激高する富豪,小学校の運動会の応援以来,パッとせずにガラスを割ってトランペットを盗み出す男性など,とにかくどこか頭のねじが抜けているけれど憎めないキャラクターが次から次へ登場します。
    • maechangさんの実に多彩な演じ分けや迫力が魅力的な作品でした。
  4. 「楽屋から」
    • 出演・脚本・演出:犬養憲子さん(演劇企画「満腹中枢」)× 共同演出:大浜暢裕さん(ハイトラッド)
    • 開演すると,衣装に身を包んだ沖縄の踊り子が舞います。舞が終わり,暗転すると場内には舞の解説を行うアナウンスが流れます。ここはどこかのホールのようです。明るくなるとそこはどこかの楽屋。踊り子が服を着替えながら,沖縄に来たばかりの新入りに世間話を始めていくうちに…。踊り子が話す言葉は沖縄の方言がふんだんに盛り込まれており,新入りとの世間話の中で用語の解説や沖縄特有の基地問題や,沖縄の特性についてあれこれ話が弾んでいます。まるでそのまま楽屋を覗かせてもらっているかのような自然な感じで世間話が展開されるのですが,気がつけば沖縄の色々な問題に思いを馳せているという社会派な側面もあります。
  5. 「チンピラB」
    • 出演・脚本・演出:隈本晃俊さん(未来探偵社
    • 大阪ローカルの深夜ドラマの撮影所で,ベテラン俳優沼田のもとに,東京からやってきた役者,星野がやってきます。どちらもチンピラ役で今回のドラマにはちょい役でしかでないのですが,わずか1つのセリフに色々な背景を込めようとする沼田に対して,いまいち乗り気でない星野。世間話をする中で,二人の考え方の違いが明確に現れ,言い争いになる中で沼田が大切にしている役者への思い入れが語られます。隈本晃俊さんはどこかで拝見した記憶が…とおもったらピースピットのSMITHのバンコク役でした(もちろんDVDでしか拝見していませんが…)。少しコメディタッチだったバンコクに対して,今回の作品では決して目立たずともドラマに真摯に臨もうとしている役者を渋く演じていらっしゃいました。
  6. 「如水」
    • 出演:おぐりまさこさん(空宙空地)×脚本:関戸哲也さん(スクイジーズ/空宙空地
    • 開演するとそこはどこかの裁判所。証言台に立つ女性は,自分の母のことを語り出します。シーンが切り替わり,若い女性が誰かに向かって,なごやんを何故持っているのか,よく見るとそれは石だね,いやそれは私の小銭入れではないか,何であなたが持っているのと責め立てます。普通のやりとりのように見えますが,エフェクト照明に切り替わった瞬間,先ほどまで若い女性だった人は老婆であったことが明かされます。この老婆は痴呆症が進んでおり,特有の被害妄想や記憶障害を抱えています。若い女性は老婆の心象風景だったのです。このあと心象風景,老婆,娘の3つの視点が組み合わされながら,物語は進んでいきます。
    • 痴呆症の描写が正確で*1それを出演のおぐりさんが巧みに演じ分けていることで,かなりの現実感を持って迫ってきます。正直,最後に母親が旦那が死んだのならひと思いに殺して欲しいと頼み込んで,睡眠薬を飲ませる下りは,涙を流さずにはいられませんでした。30分というわずかな時間であってもここまで感情が動くのかと驚いた次第です。
  7. 「或る男」
    • 出演:徳永健治さん×脚本:西川さやかさん(月曜劇団)× 演出:上原日呂さん(月曜劇団
    • システム開発会社の経理を担当している男。あるとき,「人生のヘルプ」と称する妖精が見えるようになってしまう。妖精に振り回される内に,小さな幸せは見る見るうちに浸食され,あらゆるものを盗む窃盗団につけまわされ…。果たして男は自分の生活を取り戻すことができるのか。
    • 月曜劇団さんは,不思議でシュールな世界感が魅力の劇団で,今回のお目当ての一つでした。第二ブロックのそれまでの空気を一変させるような,破天荒なアクションと台詞回しは,演出の上原さんに「訳分からないけれど面白いです」と,冷静になって考えてみればお前さんそれは失礼やろう,という感想を申し上げてしまったほどに,特徴的で記憶に残るものでした。でも,出演の徳永さんの切り替えの素早さに着いていく内に,意味の分からない世界はどんどん壮大になっていき,気がつけば宇宙規模のスケールまで拡張していました。一人芝居の限られた時間ではスケールを広げることはなかなか難しいかと思うのですが,徳永さんと月曜劇団のコンビはそのあたりを軽々と超えて行く感じでした。また月曜劇団さんの方公演を心待ちにして暮らして参りたいと思います。
  8. 「わたしの未来」
    • 出演:西原希蓉美さん(満月動物園)×演出脚本:戒田竜治さん(満月動物園
    • 開演直後,歌い出す女性。法廷で歌こそが唯一の証言だと主張するも認められない。何の罪なのかは不明のまま。恋人との物語を語る中で明らかになる二人のやりとり,そして何故歌こそが唯一の証言たり得るのか,紅葉が導く未来とは…。
    • 満月動物園さんも今回のお目当てでした。冒頭,歌をとがめられるシーンで,普通なら裁判官のセリフを西原さんが話すだろうと思われるところ,無言で頷きながら割と長い時間シーンを続けるあたりは特有の間の作り方で,小さなシーンですが私は大好きです。恋人は自分を助けるために崖から転落し,両足両腕を切断し,話すこともできないという,絶望的な状況にもかかわらず,どこかに希望が残るような優しさがあるのは,西原さんのもつ雰囲気と二人の間で歌が出来上がり,それが世界中に流れたという救いがあるからかと思いました。本公演でも流れるお馴染みのテーマ曲が流れたときにはうっかりそのまま泣きそうになってしまいました。
  9. 「あのとき」
    • 出演:泥谷将さん(Micro To Macro)×脚本:鈴木友隆さん× 演出:オダタクミさん(カラ/フル
    • 懐メロが流れる中で,男は「あのとき」を思い出す。「あのとき」告白していたら,「あのとき」告白していなかったら,「あのとき」もっと早く告白できていたら…。男の頭に去来する小学校,中学校,高校生活での選択。その選択による結果を垣間見るうちに,男はこれで良かったのかと悩み始め…。
    • テンポ良くスタイリッシュに思い出話が語られて行きますが,男子学生ならば一度は通ったであろう青春の苦い思い出が随所にちりばめられていて,あの分岐を通ればどうなったであろうという想像に思いを馳せることのできる作品でした。クライマックスであるように「たまたま」選ばれた選択肢を歩み出さなければ前には進めないのだなという,当たり前ですが,忘れやすい教訓を思い出すことができました。
  10. 「シロとクロ」
    • 出演:米山真理さん(彗星マジック)×脚本演出:勝山修平さん(彗星マジック
    • 「クロ」と「シロ」は2つで1つ。朝の散歩,夕暮れの散歩,夢の中。走ることが大好きな2つは,世界のどこまでも駆け回るけれども,いつしか「クロ」が「シロ」の前から見えなくなり,「シロ」は「クロ」を探してさまよい始める…。
    • 全編が音楽のテンポに合わせたセリフの節回しで展開されていきます。韻を踏んだラップ音楽というのも,朗読調のミュージカルというのも適切な表現でないように思いますが,とにかく今まで観たことも聞いたこともないとても心地よい節回しでした。そしてその節回しに米山さんの縦横無尽に駆け巡るしなやかな動きは見事の一言。そして要所要所で舞台を彩っていく照明効果は,何倍にも魅力を増幅していきます。今回,3ブロック目の最後に拝見したのですが,思わず口を半開きにしながら,「これ凄いや…」と思いながら眺めていました。自分の中で縮こまっていた一人芝居の可能性とか楽しさについて,またどこか新しい扉が開いた感じがします。本当に凄すぎて,終演後の帰り道でこの作品のことを思い浮かべながら,「凄い…凄い…」と思わず呟いていたほどでした←

4.INDEPENDENT全体の感想

今回初めてINDEPENDENTシリーズを拝見したのですが,これほどまでに楽しめるとは予想していませんでした。1DAY PASSのシステムのおかげで色々なユニットさんの作品を見られることで,行ってみたい劇団さんのリストを増やすことができました。劇場の居心地も大変良く,インターバル宙の音楽も,本場大阪で行われているDJプレイもいつか聞きに行ってみたいと思えるほど,テンションが上がる素晴らしい取り組みだと思いました。

次回東京で行われるときは絶対にまた期待と思いますし,本場大阪のINDEPENDENTも上手くタイミングが合えば是非伺ってみたいと思いました。今後,仙台福岡札幌三重沖縄と全国各地をツアーして回るとのことです。これから観劇できる皆さんが羨ましいと思えるくらい素晴らしい作品群でした。

私にとってとても幸せな土曜日の午後がそこにはありました。無茶苦茶楽しかったです。

http://www.independent-fes.com/

*1:私も昔,親類でこういう状態になった人の世話をしたことがあります。