【観劇ログ】劇団しようよ「翼をください,マジで」(第6回せんがわ劇場コンクール オーディエンス賞受賞公演)
ども。イマイです。
年度末ですね。現在の職場に着任して3年が過ぎようとしていますが,仙川という街を十分に探検できておらず,日々発見を繰り返す日々です。
さて,仙川という街で私がお気に入りの場所となっているのが「せんがわ劇場」です。本ブログでは本務先の児童文化学科の発表会をきっかけに,初めて足を踏み入れたのですが,サイズとその雰囲気の良さが好きになりました。
そのせんがわ劇場が年1回開催している,せんがわ劇場演劇コンクール。第6回は京都からやってきた劇団がグランプリとオーディエンス賞を獲得しました。グランプリの劇団さんは先日拝見したドキドキぼーいずさんです。そちらの感想は下記のリンクからどうぞ。
【観劇ログ】ドキドキぼーいず#06「じゅんすいなカタチ」 - リブラリウスと趣味の記録
そして今週仙川には,上記コンクールでオーディエンス賞を獲得した劇団しようよの大原渉平さん,吉見拓哉さんの2名がやってきました。てっきり劇場公演をするのかと思っていたところ,なんと,通常の劇場公演ではなく,仙川駅前公園と仙川駅改札前による野外パフォーマンスを実施,副賞として無料で利用できる劇場ホール及び付帯設備の権利は,公開制作として開放するという試みに活用するとのこと。
第6回せんがわ劇場演劇コンクールオーディエンス賞受賞公演劇団しようよ 新作野外パフォーマンス『翼をください、マジで』|調布市 せんがわ劇場 公演情報
劇団しようよさんなら観に来たいのは当然として,その試みの面白さにも惹かれて,3月25日(金)の夜の公開制作と,3月26日(土)の15時,17時の両公演を観て参りましたので,本ポストでレポートしたいと思います。
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公開制作(2016/03/25 19:00〜21:00)
公開制作は,3月24日(木),3月25日(金)両日の16:00〜18:00,19:00〜21:00の合計4回行われていました。私は最後の4回目の公開制作にお邪魔してきました。舞台上の写真は下記のせんがわ劇場Twitterをご確認下さい。
【劇団しようよ】本日も16時~と19時~稽古を公開します!入退場自由・無料です。よろしくお願いします!
— せんがわ劇場 (@SengawaG) 2016年3月25日
★発表会は、26日(土)15時~/17時~仙川駅前付近にて。 pic.twitter.com/56JrD88j3y
ご覧頂ければおわかりかと思いますが,稽古場が舞台上にそのまま出現しています。私が観覧した4回目は机とかも搬入されていて,ホワイトボードは下手側にもう少し移動していました。
19時を過ぎたあたりで大原さんが登場してストレッチとともに,「特にホスピタリティらしいことはできませんが」と前置きしつつ,今回行う公開制作の話を始めました。こういう公開稽古や公開制作そのものは色々な劇団さんで取り組まれていますが,劇団しようよとしては初めてとのこと*1。
多少の説明が行われた後,いよいよ公開制作が始まりました。劇中で歌われる曲はセリフで展開すべきか,朗々と歌い上げるべきかという話題から始まり,劇伴の曲はどのタイミングで歌詞を入れるべきか,このシーンはどのような身振り手振りを行うのかなど,それこそ実際の時間にすれば10秒〜30秒ほどのシーンを,何回も何回も繰り返して確認してやり直しながら,作り上げていきます。
「感覚で作っているようなところがあるので,わかりにくいかもしれません」と大原さんは仰っていましたが,私としてはあれこれ余白が設けられている分,このシーンはこういう意味なのかなと考えながら観ることができました。しかも繰り返し拝見することができるので,ちょっと聞き取れなかったセリフがどんな物か確認したり,実はそのセリフは聞こえないことを前提で作られていたことが分かったりと,普通の公演では叶わないような細かい見方ができました。
4回目の公開制作で大きく問題となっていたのは,「翼をください」をどのようにお客さんに伝えるかということでした。セリフで語るのか歌で伝えるのかから始まって,大原さんが歌うのか,吉見さんが歌うのかまで,色々なパラメーターが投入されて試行錯誤が行われます。今回の話では別の有名曲「マイウェイ」と「翼をください」が重なり合う(「いま」という歌詞が共通しています)ことが終盤の重要な要素なのですが,明日本番というタイミングであっても一番良い伝え方は何かということが色々試されて行きます。
一見すると何となく雰囲気で大ざっぱに演出されているように見えるのですが,おそらく大原さんと吉見さんの間ではかなり細かくシミュレーションが行われているのだろうなと想像しながら,私は客席で眺めていました。
今回のパフォーマンスの最初では100から始まるカウントダウンがあります。私は前に武蔵野芸術劇場で拝見した「ドナドナによろしく」を思い出していました。あちらは舞台冒頭で昔から今へのカウントアップがその年の重要事件とともに行われるわけですが,こちらは単純に会場のあちこちを大原さんが駆け回り,ポーズを決めながら数字のみがひたすらカウントダウンされていきます。
このシーンを拝見しながら,一見無茶苦茶に走り回って数字を叫んでいるだけのようでして,実は野外パフォーマンスで舞台とする範囲を定義しているのかもしれないと考えていました。劇場は舞台と客席が明確に分けられていて,その範囲も多少の変動幅はあれどもある程度の範囲に収まります。ところが,野外においてはその範囲すらも最初に定義しなければ,ひたすら広がっていってしまうのです。だからこそ冒頭にこのようなシーンを入れて,お客さんにそれを提示しているのかなと妄想していました。そういえば,縦横無尽に会場内を駆け巡るプロレスの場外乱闘も,観客がどこまでが場外かと認識する*2普通に出来上がった作品だけを楽しむことも面白いのですが,こんな風にこのシーンはこんな意味なのかなと考えながら公開制作の場にいることも,また面白いことだと思いました*3。
気がつけば,あっという間に2時間が経過。初めての公開制作観覧でしたが,作品想像の一端が伺えて充実した2時間でした。
ところで,公開制作中話題となっておりましたが,ホスピタリティの意味や語源については,こちらの論文が詳しく調査しているので,よろしければご参照下さい。
3月26日(土)15時の回(@仙川駅前公園)
そして,4回目の公開制作終了からわずか17時間後。仙川駅前公園でのパフォーマンス開始時間まで残り1時間となりました。会場となる仙川駅前公園は別に段の付いた舞台があるわけでもなく,砂が敷き詰められたいわゆる普通の公園です。
ここに緑のシートとマイク,楽譜立てと乾電池動作するスピーカーが置かれ,簡素な舞台が設えられました。開演40分前になり,大原さんはミニ拡声器とブブゼラを持って登場。リハーサルが始まりました。
そういえば,今回の物語について説明がまだでした。といっても公式Webサイトにあらすじが書かれているわけではないので,記憶をかき集めてまとめると,小学校3年生の同級生であるブラジル人の鈴木ヒロミツくんとの思い出と別れとともに,会えなくなった苦しさとか会いたいと思う願いが凝縮された11分30秒の物語です。
実は,4回目の公開制作でも1度通し稽古が行われているので,私としては物語の概要を頭に入れた上で仙川駅前公園のポールに寄っかかって開始時間を待ちます。リハーサルが少しずつ進められていく中で,気がつけば,大原さんの周りは4〜5歳の子供が多く取り囲んでいます。身体の動き一つ一つが興味深いのか,中には動きを真似する子供もできました。穴を掘る動作,呼びかける動作,気がつけば子どもたちから大原さんのセリフと同じフレーズが飛び出してきます。
公園のポールに寄りかかっていた私は最初の10秒くらい,「子どもが興味を持つのは良いけれど,作品を大人しく観てくれればもっと良いんだけれどな…」と一般観劇時のビターな思い出を想起していたのですが,子どもたちの動作を別に止めようともしない大原さんの動きを見ながら,あることに気がつきました。
もしかしたら,「子どもたちを邪魔者でなくて,そのまま共演者にしてしまおうとする試みでは?」と。確かにこの作品は最初2人の演者しか登場しません。しかし,既に大原さんの周りには6人ほどの子どもが取り囲んで,一緒に大原さんの動きやセリフを真似ています。リハーサル終了後,本番が始まって,その仮説は確信に変わりました。「翼をください,マジで」の15時の回は,2名ではなく,当日その場に居合わせた子ども6名を加えた8名のパフォーマンスに変容していたのです。
自分の感想ツイートでは次のように書いています。
劇団しようよさんのリハーサルなう。昨日の公開稽古では確か二名の演者さんだったはずなのですが、公園来訪中の子どもたちがそのまま乱入して作品に参加してます(この世代の子は集中がすぐ切れるのですが、ずっと集中していて何か悔しい位です)。
— 今井福司 (@librarius_I) 2016年3月26日
お子様の乱入をこんなに楽しく観られたのは初めてでした。野外パフォーマンスって周りのすべてが舞台装置でハプニングすらも題材になるのだなあと新鮮な驚きでした。 #劇団しようよ
— 今井福司 (@librarius_I) 2016年3月26日
子どもが大原さんの一挙手一投足に集中し,そして一緒に真似しようとする状況には顔がほころぶとともに,驚きを感じていました。本務の関係から,この年代の子どもについて考えることがあるのですが,この年代は集中が続かないことが普通なのです。それなのに,まるで最初から仕組んでいたかのように,作品世界を成立させていたところは,感嘆を通り越して,何か悔しさのような物さえ感じました。最終シーン近くでミニ拡声器の警報信号を子どもがイタズラした鳴らし続けていたのでさえも,エンディングの曲の一効果であるかのように取り込む柔軟さがありました。
現場では,子どもたちが生き生きと真似している姿に魅せられていたのですが,今よくよく考えてみると,子どもたちを乱入させたことで,物語そのものの解釈も変わってくるのではないかと思い始めました。ヒロミツ君に向かって声をかけているのは,1人ではなく複数人,穴を掘ろうとしているのも複数人,それは1人の人間の苦しみや願いを表すのではなく,集団としての苦しみや願いを表すシーンへと意味を変えていました。そして,その真似に乗ろうとせず,勝手に歩き回ったり,手遊びを始めようとする姿は,一枚岩ではない集団の脆さを観ることができます。
ともかく15時の回は,野外で行うことで,わずか11分30秒のパフォーマンスがここまでも劇場と形を変えるのかと新鮮な発見と驚きを私にもたらして行きました。
3月26日(土)17時の回(@仙川駅改札前)
さて,子どもが多くいた15時と打って変わって今度は人通りが多い仙川駅改札前です。私も通勤で利用していますが,このエリアは急ぎ足で通ることしかないので,足を止めることはあまりありません。
今度はシートは1つ。後ろのロータリーには普通に車が入ってきて,条件としてはかなり厳しいのではと思いました。先ほどの回はリハーサルを行っていましたが,今回は*4リハーサルは行われずに,そのままカウントダウンからの本番に入っていきました。
子どもが別に参加するわけではなく,演者は2名のまま。今度は公開制作で作り上げられていった物語をしっかりと理解しながら,1つ1つを丁寧に観ることができました。即興性を楽しむのが1回目なら,物語を追いかける楽しさがある2回目でした。メッセージ性を感じ取りたいのであれば,間違いなく2回目を観るべきでしょう。
私としては,特に愉快だったのは,演じている後ろでタクシーとか出迎えの車が普通に通り過ぎたりしているところでした。普段通勤で通り過ぎているだけの空間,つまりは日常の中に非日常が浸食している感じがしたのです。これは野外ならではの情報量や気温やにおいといった物がなせる技でしょう。
気がつけば終演後に,せんがわ劇場の関係者の方にも「面白い取り組みを推進して下さって有り難うございます!」と話しかけてしまうくらい(ぇ),私のテンションは上がりきっていました。
僅か2回のみ行われた公演でしたが,紹介したいところが尽きない素晴らしいパフォーマンスでした。劇団しようよさんの次回公演はロームシアター京都で6月24日(金)から6月26日(日)とのこと。できれば,予定を調整して伺えればと思います*5。劇団しようよさんは,書き込める余白がたくさんあって,それでいてパフォーマンスでも魅せてくれるのが私にとっての魅力です。
この楽しさへまた出会えるように,1日1日を駆け抜けて行きたいと思います。
最後に
思えば,関西の壱劇屋さんを観に行ったことが繋がりつながって,本日に到達しています。詳細は過去のエントリに譲りますが,いくつもの分岐から本日まで繋がったミラクルは手放したくない大切な記憶です。感謝。
【観劇ログ】劇団しようよ「こんな気持ちになるなんて」 - リブラリウスと趣味の記録