リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【鑑賞+観劇ログ】調布市せんがわ劇場×白百合女子大学提携公演『白百合おたのしみ劇場』『恋のサプライズ2』(第2幕)

ども。イマイです。

私の勤務先は東京都調布市にありまして,大学の最寄り駅である仙川は調布市せんがわ劇場の最寄り駅でもあります。さてその勤務先が,調布市せんがわ劇場とコラボして公演をやるということを知ったのが昨年のこと。

librarius-theater.hatenablog.com

ところが,この時はスケジュール調整に失敗しまして,夜の部のフランス語フランス文学科学生さんのリーディング公演までは参加できませんでした。

機会があったらちゃんと夜まで参加したいなー,と思っていたところに,授業で教えている学生さんが参加するので,良かったらどうぞとチラシを持ってきてくださったので,これは行かなければ嘘だろうと言うことで,昼と夜にそれぞれお邪魔して参りました(続きます)。

公演の詳細は下記ページも参照ください。

調布市せんがわ劇場×白百合女子大学連携公演白百合おたのしみ劇場&リーディング公演|調布市 せんがわ劇場 公演情報

まず,昼公演の『白百合おたのしみ劇場』。こちらは児童文学科児童文学専攻が中心となった公演です。

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今回は3本立てでした(以下敬称略です)。

  1. 紙芝居「セーターを着たロバのクリスマス」(劇団どろんこ座による公演)
  2. 朗読「注文の多い料理店」(作:宮澤賢治,朗読:宮澤賢治,絵:小林敏也)
  3. アニメーション上映(学生作品+「まちがって届いた手紙」(作:篠塚浩 絵:日南田淳子 アニメーション:やた・みほ)の紙芝居+アテレコ)

子どもと一緒になって楽しめる公演となっており,場内にはお子様連れの方も多数お見えになっておりました。

まず1番手の劇団どろんこ座さんは,昨年も拝見しましたが,歌と紙芝居で引きつける素晴らしいパフォーマーの方です。本日も始まりでお子様がちょっとグズっていたのを「静かにしなさい」というのではなく,きちんと自然なやり方で引き込んでいて,思わずその場でメモしたくなる素敵な方法でした。ロバはかわいい。

劇団どろんこ座 わくわくぷろじぇくと

次に学外の方にお話しすると,「またまた話を作って」と言われるパターンが続いておりますが,本学には宮澤賢治研究で大変著名な同姓同名の「宮澤賢治」先生がいらっしゃいまして,その先生による朗読という贅沢なプログラムでした。注文の多い料理店は,最近劇団柿喰う客さんの「へんてこレストラン」を見たこともあって,また私の記憶の中で子供心に注文の多い料理店は強く記憶に残っていて,実は思い入れの強い作品です。

www.youtube.com

色々なポイントがあるのですが,本日は宮澤先生の朗読を拝聴しながら,食べようとした猫たち(特に下っ端)の情景が,今まで見てきたどの作品よりも鮮やかに浮かび上がってきました。おそらくあの時代に粗暴な感じを出すならば,まさにあの言い方なのだろうと。朗読に重ねられた絵も,硬質で印象に残るものでしたし,学生さん達のSEも絶妙なところで入っていました。

そして,アニメーション上映へ。やた・みほ先生のご指導による学生さんたちの作品が次々に上映されていきます。学生の名前さんとともに,アイディアに富んだ,時に煌びやかで,時に躍動的,時に柔らかい,そんな創造ができるんだと私に教えてくれます。今年は「まちがって届いた手紙」という紙芝居アニメーションに,学生さんがアテレコで声をつけていく試みもありました。これもまた実に巧みであって,生き生きとしていて,作り出す過程では大変だったろうけれど,楽しかっただろうなと言うことがこちらにも伝わってきます。どこにそんな創造性を隠し持っていたの?と思わず聞いてみたくなるくらい,素敵なものを拝見致しました。そんなこんなであっという間の一時間。お昼の部が終了しました。

その後,大学で会議とかクリスマスツリーの点火式であるAdventの集いに参加したりしつつ,18時からは再び,調布市せんがわ劇場へ。

今度はフランス語フランス文学科の酒井三喜先生のゼミの学生さんによるマリヴォー作『恋のサプライズ2』第2幕の公演です。

酒井先生の大学公式の紹介ページならびに,ご自身Webページでも紹介されているように,マリヴォーとはフランス18世紀の古典喜劇作家です。フランスは大変人気があるそうですが,日本ではそれほど上映されていないとのこと。

酒井 三喜 教授|白百合女子大学

www012.upp.so-net.ne.jp

今回の作品,原題は"la Surprise de l’amour"といい,1723年の作品です。フランス国立図書館電子図書館であるGalicaを調べると*1,原文も手に入るようです。

gallica.bnf.fr

こちらの作品について,酒井先生が翻訳した台本を,学生さん達がリーディング形式として上演するというのが今回の公演です。

リーディング形式なので,台本は手元にあってそれを読むのですが,いわゆる“朗読”とは違って,身振り手振り付き,かつ舞台上も移動し,お芝居として楽しめる作品になっています。拝見すると,確かに長い台詞が沢山現れますので,「台詞の丸暗記から解放されれば,もっともっと,言葉の深い意味や登場人物の複雑で微妙な気持ちに近づける」(公演時の配布資料より)ということも仰るとおりだと思います。

今回は全3幕のうちの第2幕を上演すると言うことで,あら,昨年見てないけど大丈夫かと思ったのですが,ちゃんと第1幕のショートバージョンもついているとのことで,ホッと一安心。

舞台上には黒い幕の前に5脚の椅子が置かれています。開演ブザーが鳴って,登場した学生さんたちはきちんと衣装を身につけており,フランス貴族の世界を表現しています。シュヴァリエの召使い,リュバンによって第1幕のショートバージョンの説明が行われますが,もうこの段階で立派に学生さん達は役を演じていました*2

どうしてもこういう状況だと,自分の教えている学生さんという目で見てしまうのですが,気がつくと,世界に入り込んでおりまして,目では確かにいつも見ている学生さんの姿と同じはずなのですが,耳から入る声や,その立ち居振る舞いによって,違った世界が確かに存在して,私もそれを認識していました。侯爵夫人シュヴァリエ(青年貴族)の友情とも愛とも取れるやりとり,侯爵夫人の小間使いのリゼットとリュバンのでこぼこかつお似合いのやりとり,そして侯爵夫人の家庭教師オルタンシウスの食い扶持をかけた静かな戦いが,目の前で展開されていきます。

男役も女役も全ては女性が演じていますが,演劇においてこの違いは些細な違いでしかありませんし,今ブログを書いている中で,そうだったんだと気づくぐらいでした*3

台詞の分量は確かに多く,これプロの役者さんでも覚えるのは大変だろうなと思うくらいの量があります。でもこの分量の多さこそが魅力なのではないでしょうか。途中,侯爵夫人が自分の感情をここまで言うかと言うくらい,詳細かつ表現豊かに語り出します。最初にそのシーンを見たときには,あまりに1人が語り続けるが故に,思わず笑い出しそうになったのですが*4,すぐに舞台上ではそれが一つの表現だと気づいて,思い直したのです。

友情とか恋心とか,嫉妬とかはそんなに簡単に説明ができるものではなくて,そして人の感情は一言で表現できるほど割りきれるものではなくて,そして立場も家も違う者同士が本当にわかり合おうとするためには,一定以上の表現がそこには必要であって,だからこそあれだけの言葉が必要だったのでしょう。

第2幕はある屋敷の庭でほぼ全てのシーンが展開するので,場面転換はほぼ起こらないのですが,それに気づいてからはその表現の多様さが面白くなってきたこともあって,最後まで集中して興味深く拝見いたしました。

演じられた学生さんも大変魅力的でした。書き始めてしまったので,キャスト全コメントで。

  • 侯爵夫人は本物のお公家さんを連れてきたのではと思うほどの清純さがありました。私もあそこまで自分の感情に対して,客観的な言葉を与えてみたいものです。
  • シュヴァリエは恋人と別れて悲しんでいるとはいえたぶんモテモテなんだろうなーと思うくらいの清麗さが見て取れました。侯爵夫人の状況を全く知らなくても,とっさにあれだけのキザな台詞を言えたら,男だって惚れる気がします。
  • リゼットはツンデレという表現ではもったいないくらいの一途さで,人払いしたはずなのに,舞台袖からチラチラ気になってみているあたりが良い感じでした。
  • リュバンはこの舞台のストーリーを要所要所で進めていく大切な役なのですが,巧みな感情表現と身体表現でアクセントをきちんと残していらっしゃいました。
  • オルタンシウスは自分の食い扶持を守るための小物っぷりがたっぷりで悪役なのに憎めない感じが良い感じでした。
  • 伯爵は第1幕のダイジェストだけで拝見しただけですが,貴族として一定水準の礼儀を保ちつつもあからさまな恋敵への敵対心を持っているというのが台詞以外の雰囲気からもひしひしと伝わってきました。

というわけで,すっかりと物語の世界を楽しんで参りました。翻訳・演出の酒井先生のWebでは翻訳戯曲の全文が公開されているので,興味がある方はぜひ。

sanki's empty space

私としてはこれだけのCreativityが大学に存在していて,そしてそれを眼前で見せてもらえることが何よりも嬉しいです。教員として自分の水準を軽々と超えていく学生さんは,誇りですし,希望ですし,喜びです。

明日12月4日(金)が千穐楽ですが,昼夜共に最後まで全員が駆け抜けられるように。

本日はどうもありがとうございました。感謝。

 

*1:私はフランス語は分からないのですが,情報検索だけなら何とかなります。

*2:なお,シュバリエの友人の恋敵である伯爵は2幕には登場しないので第1幕ショートバージョンだけのレアキャラであります

*3:むしろ第2幕のラストシーンを考えると男子学生と女子学生だったら多少冷やかしたくなる感情も出てきたのでしょうが,女性同士であったからこそ,言葉のやりとりが綺麗なままで終わったので,これがベストだったのではないでしょうか。

*4:語り続けるという一種のギャグかと思ってしまいました