リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】柿喰う客『天邪鬼』

ども。イマイです。
シルバーウィークで5連休ですが,水曜日から本務先は授業開始なので,
むしろ授業準備とかそういったもので,瞬く間に祝日は消えていきそうです。

さて,今日は柿喰う客さんを拝見します。前回見たのは,『世迷言』でしたから,1年半ぶりです*1。場所は下北沢・本多劇場。こちらも『世迷言』以来2回目の来場です。

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 今回は先行予約で購入したので,非売品の台本も頂くことが出来ました。こういうサービスは大変嬉しいです。

客席に座り,アンケートシートの感想欄以外を先に記入した後,渡されたチラシ束を拝見していきます。さすが,本多劇場かつ人気劇団の柿喰う客さんということもあって,チラシ束はかなり分厚いもので見応え十分でした。

さて,そうこうしている間に開演時間です。恒例の改行乱れ打ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず,開演前の挨拶。既にこの段階から,台詞の特定のフレーズが繰り返し提示されていて,耳に残る表現が多数現れていきます。携帯電話の電源を切っておいてくれと言うおきまりのフレーズから,いや,電源を切らなくて良い,切らなくて舞台進行が止まるのはそれも運命である,電源を切らなくてもよい,舞台進行に支障が出た場合には,
中止することを検討する,携帯電話を切らなくてもよい…初っ端から,言葉遊びのようなやりとりが目の前で展開されます。

その上で,今回の主人公である「あまの・じゅんや」は,自らが嘘つきであることを明かし物語が始まっていきます。「ももたろう」を演じる5歳児たち,しかしながら,どこか並々ならぬ雰囲気。そこは戦場であって,戦うために6人は演じ続けなければいけない—。そう,お芝居をしている間は自分たちは傷つくことなく,そして敵を倒し続けられる「桃太郎」の鬼ヶ島の合戦が何度も繰り返されているのです。

子ども達はやろうと思えば,木に化けることもでき,夜間はそうやって戦いの難を逃れています。その中心にいるのは「あまの・じゅんや」。彼の作り出す世界こそが,子ども達を攻撃と防御の双方で助けてくれる,イマジネーションの盾と剣なのです。

しかし,何度も何度も「桃太郎」を演じ続ける中で,私はシンデレラをやりたい,「3匹の子ぶた」とかを演じたいと言い始める5歳児の劇団。でも,ストーリーが破綻せずに演じられるのは「桃太郎」しかない,そもそも「3匹の子ぶた」は狼が鍋で釜ゆでではないか,など内紛が勃発する舞台上。

でも「あまの・じゅんや」はひたすらに「桃太郎」を繰り返し演じ続けようとします。

「桃太郎やるひと,この指とまれ

そして,また「桃太郎」は続いていきます。しかし,そんなある日,僕は「赤ずきんちゃん」としておばあさんを探しに行くんだと言い出して「あまの・じゅんや」はいなくなります。それでは困る,僕たちだけではお芝居は出来ないー。出て行ってしまった「あまの・じゅんや」を呼び戻すために,「あまの・じゅんや」が登場する物語が舞台上で展開されはじめる,何故僕たち,私たちはこの場に立っているのかー,謎の劇団の成り立ちが明かされていくというのが序盤までのあらすじ。

この一種独特の世界を彩るのが,柿喰う客ならではの多様な言葉の活用系。本日のアフタートークでも明かされたように,とにかくお客さんの耳に残るような音まで計算して,一つ一つの台詞が作り上げられています。何度も何度も同じ接続詞が節をつけて語られたり,かと思うと,聞き慣れないけれど聞き逃せないような固有名詞が突如登場したり。

あと私は,同じセリフを何人もが同時に発するとか,節をつけてリズム良くセリフが,立て板に水のごとくスラスラと現れるのが,とても大好きなのですが,随所にそうした演劇ならではの表現方法が散りばめられていて,90分間のどこであっても見逃せないような素敵な時間がそこにはありました。

終演時の終わり方も,今までに見たことのないパターンでとても新鮮でした。観客も舞台を構成する要素の1つであるとはよく言われる言葉ではありますが,こんな見事な巻き込まれ方があるのかと感嘆した次第です。

本日のアフタートークでは,演出の中屋敷法仁さんに加えて,今日は永島敬三さん,大村わたるさん,葉丸あすかさんの4名が登場。他の劇団さんでは,なかなかこのような機会に会うことは難しいですが,柿喰う客さんだと恒例イベントとなっています。当然,公演DVDにはアフタートークは収録されていないので,これを観に行くことが劇場に行くことのモチベーションであったりもします。

今日伺った話で印象に残ったのは,マイナス方面の言葉を使わないようにするために,セリフをカットするという言葉ではなく成仏してもらう,そうすることで言霊を大切にしているという中屋敷さんのお話でした。ハイクオリティな舞台にもかかわらず,中屋敷さんだけでなく,役者の皆さんがとにかく低姿勢かつ謙虚な方ばかりで,こういう点も流石だなあと思います。

まるで「演劇」という会社の新作展示会を観ているのではと考えてしまうほどに,言葉も動きもこんなことが演劇では楽しめるのだと,再確認する90分間でした。演劇ってもっともっと楽しいんだぜ!と,大学の講義で90分かけて教えてもらったかのような充実した新発見を繰り返した1日でした。演出の中屋敷法仁さんも仰っていますが,まさに「演劇LOVE」な作品です。

9月23日(水)まで,下北沢・本多劇場にて。今日もまた演劇の新しい魅力に気づくことができました。

stage.corich.jp

*1:気がつけば女体シェイクスピアシリーズも3つスキップしてしまっていました…。