リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【鑑賞ログ】「てとおと」 出演:Maya (vo)×Mayuka (Key),毛玉 (弾き語り),Shintaro Tanaka

ども。観劇月間の6月,予定をやりくりしてきたのにどうしてこうなった状態のイマイです。

さて,このブログではちょいちょい,教え子さんに誘われてというきっかけでいろんな所へ伺う機会があるのですが,有り難いことに今日も教え子さんがきっかけで幸せな時間を過ごすことができました。

librarius-theater.hatenablog.com

その教え子さんとは,先日このブログにも登場した田中慎太郎さんです。前回CD視聴ログを書いたototete「Gathered Petals」のレコ発ライブということで,横浜は黄金町の試聴室その2まで行って参りました。

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試聴室 » 「てとおと」 出演:Maya (vo)×Mayuka (Key)、毛玉 (弾き語り)、Shintaro Tanaka

試聴室その2は京浜急行の高架ガード下にあります。横浜に住んでいながら,初めて来るエリア。観るもの全て珍しい状況。会場には開場時刻の18:30よりも少し前についたので,近くの大岡川に架かる橋から大きくのびをして深呼吸。ただひたすらリラックスして中に入りました。

中はカフェのようになっていて,ライブもカフェの椅子に座りながらの鑑賞。なかなか雰囲気が良くて,レコードのジャケットが壁に掛けられていて,お店の真ん中にある柱にはマンガだけでなく音楽関係の本もぎっしり。飲み物を出すカウンターの前には,LIVEを多くやっているだけあって,デモCDがたくさん並んでいます。カウンターで受付をしてもらって,アイスティーを頂いて開演を待ちました。

出演されたアーティストは,田中さんのBlogで掲載されているのですが,どの方も素晴らしかったので,こちらでも紹介させて頂きます。

crossed eyes | ototote

まず,トップバッターはMaya (vo)×Mayuka (Key)さん。いつもは吉祥寺のカフェでライブをされているとのこと。いつもはBGM代わりとして演奏して欲しいとのオファーで演奏されているそうです。

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上記のYouTubeでも分かるのですが,Mayaさんの声はとても透き通っていて,可愛らしい感じで聞いていて,BGMとしてこれが,かかっていたらそのカフェでは長居したくなるだろうなあと思った次第です。作曲&ピアノのMayukaさんはフリートークでは,お話好きなこちらも可愛らしい感じの方なのですが,演奏された曲は特にピアノの低音部が私は強く印象に残っていました。芯が通っていて力があるというか,前向きな印象がありました。なお,Mayukaさんは池袋「天狼院書店」さんの映画「世界で一番美しい死体~天狼院殺人事件~」の作曲・音響監督をされているとのことで,そのサントラCDが今後発売とのこと。私的に要チェックな感じです。

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 二番目の方は,バンド「毛玉」でボーカルをされている黒澤勇人さん。派手なパフォーマンスやフリートークではなく,実直な弾き語り。純朴そうな印象ながら,歌の歌詞はそのあたりの方ではすぐに出てこないような語彙やフレーズで,高音の心地よい歌声と共に印象に残っています。今回,ライブを企画した田中さんとは以前一緒に演奏していて,そこからいつの間にか違う道を歩んでいたのだけれど,今日こうやってLIVEが共にできるのはとても感慨深いと仰っていました。*1

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 さて,3番目に登場するのが,教え子である田中慎太郎さん。今回はCD「Gathered Petals」の曲を,1回分解して再構築するのが目的ですとの説明があって,演奏スタート。(ちなみに田中さんは映画音楽なども手がけられています。なんかYouTubeを3つ貼らないとバランスが悪いので,貼り付けておきます)

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私は視聴ログでも書いたように,「Gathered Petals」は曲の余白がかなり取られていて,背景となるストーリーは聞いている人それぞれが書き込めるところが良いと思っています。今回は分解して再構築するという目的が提示されていたせいか,そして,電車の高架下のリズムが演奏に入り込んでくるためか,何か聞いたことのある曲なのに別の印象を持って聞こえてきました(もちろん生で演奏されているということn違いもそこには入り込んでいることも作用しているのでしょう)。

そして,「Gathered Petals」の曲を一通り終えた後は,ピアノの音声をPCに入力して,そこにランダムなディレイ(ある音は3秒後に,ある音は1分後に遅れて音がスピーカーから出力される)をかけたピアノ演奏が行われました。ちょっと考えればおわかりになるかと思いますが,ランダムなディレイがかかると,単なるディレイとは異なって,元の曲とは全く違う残響がスピーカーから聞こえてくるわけです。はじめはその非対称なこだまが何のイメージなのか,自分でも考えながら聞いていたのですが,ふと,これは「ミス・コミュニケーション」とか「情報伝達の失敗」とかを言葉として思い浮かべながら聞いてみると面白いのではないかと思い立ちました。ちょうど大学の教壇で教員が発した言葉が学生に正確に伝わらないどころか,前後の順番やタイミングが変わってしまって全く意味が変わるような,そんなシーンを思い浮かべながら,今1度しか成立しない不思議な音楽がその場には流れていました。

続いてはバッハの曲を解体しながら,「Gathered Petals」へつなげていくという試み。バッハのおなじみの曲が途中で切れることなく,いつの間にかGathered Petalsの曲へ,そして先ほど貼り付けたYouTubeの曲へとつながっていく不思議な試みです。バッハのおなじみの旋律が切り替わっていく瞬間は,何回もそのタイミングが分かったわけではありませんが,ただ音楽を楽しんでいるのとは違う気づきのおもしろさがそこには存在していました。

最後は文学者の詩を題材に曲をつけたというもので,冒頭に登場したMayaさんの歌に乗せて演奏が行われました。ピアノだけでももちろん素晴らしいのですが,曲の余白がきちんと取られている分,歌を乗せてもお互いが喧嘩することなく,むしろ上手く結びついていて,何というか,素晴らしいという言葉を繰り返さざるを得ないのです。

何かを作り出せる人は尊敬します。そして作ったものを人に伝えられる人はもっと尊敬します。自分も自分にできる創造を精一杯やろう,そんなことを京浜急行黄金町のホームで考えながら,帰路についたのでした。

*1:バンド「毛玉」のCDが販売されていたので,帰りがけに購入してきました。