リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】劇団フェリーちゃんStandby Cruise『NEMORABILIA』&朗読音楽劇『ノーチラスの調べ』

どうも。イマイです。

観劇強化週間のいよいよラストは,こちらも新作は欠かさず拝見している劇団フェリーちゃんです。毎回,劇団名のファンシーさと「貴方と私が幸せになる航海」をモットーにしているという点と,発表する作品のギャップが魅力です(ただ個人的には笑って終わるだけがハッピーエンドではないと思うので,別にギャップだとは思ってませんが)。

今回は旗揚げ公演で使用した東京の新宿眼科画廊で,Stanby Cruiseという番外公演を行うとのことで,駆けつけた次第です。

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 1.開演前

今回の公演は,朗読劇『ノーチラスの調べ』と本編である『NEMORABILIA』の2本立て公演となっています。朗読劇が30分,本編が1時間15分ということで,2本セットで観ても普通の劇の公演サイズということで見やすい時間配分になっていました。

新宿眼科画廊の地下へ伸びる階段を降りて,踊り場の所で受付を済ませて中に入ります。進行方向左に延びる階段をさらに降りて,ドアの所をくぐると旗揚げ公演の時に観たギャラリーがそこには広がっていました。

客席は長細いギャラリーの壁に沿って,前に一列パイプイス,後方に一列丸椅子がセットされていて,座布団が2枚重ねてありました。プレミアムシートの設定がされていない前列の座席に陣取って,お手洗いを済ませます。

落ち着いて,客席から広がる光景を確認すると,円形の刺繍枠に網が貼られている飾りが会場の壁に架かっています。天井に張り巡らされたフレームからも何個かつり下がっています。

今回は朗読劇から始まり,本編を連続で観られる時間帯で参加しました。開演時間が近くなると,主宰のなにわえわみさんが携帯電話等の注意事項の前説を開始します。地下の劇場ともあって,地震や火事に関するアナウンスを丁寧に行っていたのが印象的でした。

ではネタバレ防止の改行連打を致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.あらすじ&物語序盤

今回のあらすじは公式ブログなどでは公開されていないのですが,ステージナタリーで紹介されていたので,その記事から少し取り出してみます。

ジュール・ヴェルヌの「海底二万里」を題材に、憧れと現実の間で葛藤する女性の内面を描き出す。巨大潜水艦ノーチラス号で航海を続けるネモ船長と乗組員たち。彼らは謎の深海生物“カロリーヌ”を探し求めていて……

https://natalie.mu/stage/gallery/news/333527/1170227 より引用

まずは朗読劇『ノーチラスの調べ』から。開演すると,なにわえわみさんと岩崎あゆみの二人が音を歌い上げ,今回ゲストの大野遥さんがストーリーを朗々とした声で読み上げます。

ジュール・ヴェルヌ海底二万里のストーリーの要素が音楽と,そして時折歌を交えて軽快に展開されていきます。3人の分担は,ネモ船長がなにわえさん,教授が岩崎さん,それ以外のストーリー部分が大野さんという分担になっていました。

30分の時間はあっという間に過ぎ,最後は海底二万里の本を実際に手に取りながら,残り4ページの部分を3人がそれぞれ読み合うという形式で終演を迎えました。

続いて本編『NEMORABILIA』です。暗転中に息を吹きかけるような音があちこちから聞こえてきます。何が起こっているかが分からない状態のまま,少しずつ明かりが付いていくと,辺り一面にはシャボン玉の泡が満たされています。

まるで海底に潜った潜水艦の窓から観た光景のよう…とそうでした。この話も海底二万里を基にした作品で,この光景は潜水艦の光景だったのでした。朗読劇で登場した,ネモとアナクロスは出てくるのですが,マルシダが出てきたあたりから,何か物語はおかしくなり始めて…。その結末はぜひ劇場で目撃して頂ければと思います。

3.感想

  • 劇団フェリーちゃんは毎回作者が変わっているのではないかと思うほど,その中身が作品によって大きく変わってくるのですが,今回の作品は色々なテーマを放り込んできたというか,考察しがいのある作品だったと思います。
  • 観る側からすればネモ船長の葛藤や,冒険譚を予想してこの作品を観ているはずなのですが,プログラムにバグが入り込むような感じで,作品がどんどん壊れていきます。一見するとその感じは,作家にとっても観客にとってもとても不幸な状況のようにも思えるのですが,しかし凡庸な作品を提示したくはないと考える作家の意図からすれば,当初の目的は達成されたとも言えます。
  • 終盤のキャラクターが自我を獲得して作家に反乱を起こすあたり,物語を作る作家としては,キャラクターが自立することから,理想的な展開にも見えるのですが,それを制御しきれず物語を強制終了せざるを得なかった…と観劇後に振り返れば振り返るほど,シーンそのものの目的や意図を空想して楽しめる作品でした。
  • 絡繰ぽっぺんでも作家が主人公になって,また作家が主人公なのかと考える向きもあるかもしれませんが,産みの苦しみという大きなテーマは変わらないまでも,作り出すことに主眼があったのが絡繰ぽっぺんであれば,作り出したものに納得がいかなくて苦しむの本作なのかなと思いました。
  • 分かりやすいエンタメとか正義を称える作品ではないのですが,最近ものを作ることやクリエイティブなことに関心が向いている私としては,あの作品で提示されたドロドロとした生の感情は,色々刺激になるところが大きかった気がします。
  • 個人的には,新宿眼科画廊のドアをバンと開けて,外の空気を袋で集めてきた値も船長の狂気,そして作家がドアを閉めてネモが倒れるところまで,当たり前の作品にはしないぞという覚悟が思いっきり強く出ていて,そういうシーンを目撃できるから,私は劇団フェリーちゃんが好きなのだということを再認識いたしました。

4.キャストさんひとこと紹介

  • ネモ役の伊藤瑛佑さん。劇団フェリーちゃんにはなくてはならない,名脇役と私が勝手に考えていた方が今回はいよいよ主役です。不安定な作家がつくったキャラクターなので,軸がしっかり決まっていると言うよりは,作家の都合に合わせたキャラになったり,それが自我を持って語り始めたり…と,かなり難しい役どころだと思うのですが,流石の安定感で安心して拝見できました。個人的には穏やかそうな雰囲気の中に隠れている狂気が,前回のマクダバ・タリークから凄く印象に残っていて今回もそのあたりの怖さを感じられてとても印象に残りました。
  • アナクロス役の柚木成美さん。こちらも劇団フェリーちゃんにはなくてはならないメインキャストの方です。アナクロスはあの世界に於いて良識とか良心,常識とかを象徴する存在だと考えていて,だからこそ物語が崩壊するなかでも割と最後まで本筋に物語を引き戻そうとしていました。だからこそビールの大きなボトル缶を持って登場してきたときには驚きがあるわけで,この物語はただ者ではないぞと思わせる要素になっている気がします。可憐ながら影を表現するのも巧みな方で,こちらも安心して拝見しておりました。
  • ブリアン役の福丸繚さん。初めて拝見した方なのですが,明瞭な声質と豊富な声量で物語を冒頭,コメディ方面へと転がしていく上では欠かせないキャラクターでした。事前のツイキャスで2回観たくなる作品でしょうか?と伺ったときに,「はい。そうです」と宣言せずに,きちんと悩んでから回答されていて,実際そういう作風だったことを踏まえると,誠実な方なんだろうなと思って,その点を観劇後思い出して嬉しくなりました。
  • ジョン役の篠崎健人さん。一番最初の掴みのシーンで,静かすぎるほどのシーンが続いた中で篠崎さんが元気に飛び出してきて,空気がガラッと変わったのがとても印象的でした。物語の中では,作家の中でも重要度が低いキャラだったせいか,割と最初から最後までキャラが大きく変動しない方のキャラクターでしたが,それでも後から台本を読み直すと,結構鍵になる動きや台詞も多く,難しい役どころだったのではと思いました(といってもこの作品では簡単な役はないと思いますが…)。
  • マルシダ役の稲森春陽さん。冒頭で,ルマンドで買収されたのと,私はマルシダの振る舞いにケラケラと笑っていましたので,悪い印象になるはずがありません(汗)。ただ,シリアスの方面に転がって行き始めた物語を,全力でコメディ方面に戻さなければいけない役どころで,これまた難しいなと思います。作者からしてみれば,シリアスな物語だけではいけない,何かエンタメ要素がないと受け入れられないと葛藤する中で生まれたキャラクターだと思うので,ジョンと同じように首尾一貫したところがありました。それまでのシリアスな物語からすると不釣り合いなほど奇妙なシーンになっていて,「何かこの物語はおかしいぞ」と思わせる意味ではとても重要な役どころだと思います。
  • カロリーヌ役の辻真梨乃さん。カロリーヌを思い求めているはずのネモが実はカロリーヌという「憧れ」の概念を追っかけていたこともあって,セリフ量は作家の次に,一番少ない方面の象徴的な役どころです。それでも,憧れの象徴であるランプを持って舞台上を優雅に飛び回っている姿には,魅了されるところが多かったです。廻転百眼で辻さんの演技は拝見していたのですが,ある意味の無個性に徹さなければいけない本作では,全く印象を変えていまして,スゴい方だなと思った次第です。
  • 作家役の岩崎あゆみさん。第1作のMa les me Role 〜マルムロール〜から全て乃作品に登板されている方ですが,前作のマクダバ・タリークぐらいから,台詞の感じは同じなのですが,まとう雰囲気というか凄みが変わってきていて,今回もネモ船長をにらみつけるときの顔が,普段の柔らかい雰囲気とは全く違っていて,恐ろしさを感じるほどでした。作家がなぜあの世界を外から眺めていられるのか,例えば文字で書いているのであれば気に入らなければすぐ変えてしまえばよいのではという気もするのですが,私は何か材料を投じてから結果に時間がかかるような,例えば映像のレンダリングのようなものをあの作家はやっていたのかと思っています(舞台も作家が書いただけでは完成しませんからそう考える方が妥当なのかも知れませんが)。途中の日替わりシーンでは爆笑されているところもありましたが,物語が進む中でコメディーのシーンであっても目を背けず,厳しい顔をされている所には,作家は決して満足していないのだというメッセージが伝わってきて印象に強く残っています。

と,こんな感じで見た直後よりも,観てから時間が経って振り返る段階で,あれこれ言葉が出てくる作品でした。単に派手だーとか泣けたーとか笑ったーという作品ではありませんが,確実に記憶の一部を占めている遅効性の薬か毒のような作品だったと私は思っています。次回作は11月。王子小劇場での公演と言うことで今からとても楽しみです。

 

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