リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】第12回ルナティック演劇祭~劇想からまわりえっちゃん「祝儀の礼には及ばない」

どうも。イマイです。

Twitterとかでは公開しておりますが,最近結婚致しまして,観劇などを奥様と一緒にしていたりします。いろいろ私の好きな劇団ばかり連れ回していて,申し訳ない限りですが,「面白かったー」と言ってくれる奥様なので,とても気持ちが救われています(惚気。

さて,そんなことをうっかり書いてしまうほど,今回の劇想からまわりえっちゃんは,結婚ネタに絡めてくる題材でした。からまわりえっちゃんは,少なくとも新作は確実にスケジュールに入れるほどのお気に入り劇団なので,今回も真っ先に予定を入れ,2人で下北沢の小劇場「楽園」までやって参りました。

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 1.開演前

 今回はルナティック演劇祭という演劇祭の予選として行われた公演です。決勝進出の暁には本日の90分バージョンではなく,フルバージョンでの公演が予告されていると言うこともあって,観る側としても力の入る公演です。

気合いを入れすぎて,受付開始でほぼ先頭の位置にならんでいました。開場待ちで小劇場「楽園」の階段を降りて,劇場のドア前に近い所で待っていると,中からムトさんの発声練習とか,開場前のカウントダウンの声とか,劇想からまわりえっちゃんらしいパワフルな気合い入れがどうやら行われているらしい元気な声が漏れ聞こえ来ました。

開場して中に入ると,小劇場楽園の2方向に分かれる客席エリアにイスがそれこそぎっしり詰まっていました。開演前の前説&誘導ではムトさんがハイテンションで案内をしていたところ,袖から元気すぎるとお客さんが疲れるという他の劇団でありえない突っ込みで笑いを取りつつ,トイレの争奪戦も無事に終わり,いよいよ開演前の青沼リョウスケさんによる前説が始まりました。

いつも通りのシャイで,それでもキチッと笑いどころは放り込んでくる名調子。お怪我をされていた足もだいぶ良くなり,杖はついているものの状態はかなり良いようです。今回はちょっとドラマ性をつけるために,舞台にはイス4客と机を設置したことを述べつつ,アベンジャーズのネタバレを電車内でやられたことに憤慨しつつ,ドラゴンズのチャンステーマ2に載せてサンリオキャラクターを紹介するという,舞台の前説だったよね,これと疑うような楽しい時間を振りまきながら,いよいよ開演時間となりました。

では,ネタバレ防止の改行連打を致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.あらすじ

宇佐さんは跡美メグミさんと真剣交際ののちに結婚。

彼女には前の夫との間の子供が二人おり、なかなか彼らと打ち解けられない日々。

どうにか気に入られようと兄妹が通う【忍者スクール】へ宇佐さんも通い始める。

奮闘の甲斐あってか信用を得始める宇佐さんだが、家族対抗忍者大会決勝と結婚式が重なってしまう。

宇佐さんは子供たちに大会は来年もあるからと押し切り結婚式を強行。

築き上げた信用は地に落ち、子供たちから笑顔は失われた。

そして15年後。妹・エリコの結婚式で父・宇佐さんへの復讐の決行を企てる兄・男市。

復讐のため血のにじむような努力を重ねてきた男市数年ぶりに帰った実家は変わり果てており、改めて決意を固める。

結婚式当日。

はたして男市の復讐は成功するのか。

跡美家はどうなるのか。

青沼リョウスケ最新作は少し歪な「家族」の物語。

( https://stage.corich.jp/stage/99610 からの引用)

開演するとそこまでの賑やかさとは打って変わった,静かなシーンが展開されます。離婚した跡美めぐみ(玉一佑樹美さん)一家のところへ,宇佐優(岸本武亨さん)が訪れてくるシーンです。フードを深くかぶった晃(林廉さん)とエリコ(百々とも子さん)が不服そうに座っている中,真剣交際の報告をし,結婚することを伝えます。

跡美家の祖母であるシャルロット(大山杏奈さん)がお茶を出すかどうかの話をしてもどこかぎこちなさそうで,宇佐優がエリコに持ってきたマイメロの大きなぬいぐるみプレゼントを,マイメロが好きな子は精神不安定と言われたから断るという時流に乗ったギャグが展開されつつ受け取らないなど,なかなか打ち解けない様子。晃と遊☆戯☆王カードで遊ぼうとしても,ルールが上手く把握できていない宇佐優とのやりとりで,気がつけば晃は一人遊びをしているような状況になる始末。

うまくいかない二人の関係が続くかと思いきや,シャルロットが稽古の時間だーと号令をかけると,そこは兄妹が通う忍者スクールのシーンに切り替わります。

テーマソングに乗せながら,キャスト全員のダンスが展開されていきます。からまわりえっちゃんお馴染みの,歌詞は電波だけどキャッチー,曲は印象に残りやすく,ダンスは真剣そのものという世界が展開され,一気に場の雰囲気は変わります。

忍者スクールの主宰の忍者マスターダディ(中村猿人さん)は,ひところのスパルタ,もしくはパワハラスクールを想像させるかのような高圧的な態度で周りの子どもを指導します。忍者マスターダディは,分かりやすい依怙贔屓をしており,エリコを持ち上げ,めぐみに良いより出来の悪い晃は「虫」と名前が付けて虐める始末。

でも晃はなぜか投げ出さず,とことんダメながらも稽古に取り組んでいます。そんな様子を鳴子(猿渡遥さん)は実は慕っていて,好意を寄せているのですが,晃はそんなことは全く理解できず,かえって言い寄ってくる鳴子に恐怖をいただいて辛く当たってしまいます。

打ち解けない二人との関係を関係を気にした宇佐優は,忍者スクールに通い始めます。あらすじにあるように信頼を得たと言うよりは,ムリヤリ立ちあっているような感じではありますが,なんとか中に入れてもらいます。

そこでシーンは切り替わり,めぐみの前夫の堂上(杉本惠祐さん)と晃のシーンになります。おもちゃ屋さんや牛丼屋で交わす会話は晃から観て輝いているやりとりですが,夜の公園でのやりとりでは子どもが自分のうちに泊まることや,近寄ることを離婚により禁止されていることが伺えます。

そうして物語はこうしたドタバタなやり取りが続きつつ,いよいよ破綻を迎えます。忍者マスターダディの横暴な態度についにキレた宇佐優は,退団届を投げつけ,結婚式を全国大会当日の6月2日に決めてしまいます。

こうして行き違いが生じたまま,晃は納得できず忍者マスターダディのところで修行を続けます。時が流れ,こんどはエリコの結婚式の知らせが晃の所へと届きます。復習の怒りに燃える忍者マスターダディと晃はいよいよ山を下りることになります…。さて,どうなることやら。結婚式には男市の母(福冨宝さん)がエリコに細かく姑アタックを噛まして場の雰囲気を悪くし,酒に溺れた宇佐の父(佐藤新太さん)と,大人しく父の行為を眺める宇佐の母(脇領真央さん)も現れ,複雑な状況が現れてきます。

この物語の結末は…ぜひ決勝(願望)でご覧下さい。

3.感想

  • 劇団の方向性としては,からまわりブルーよりの内容ながら,完全に沈み込んで落ち込む内容というよりは,主人公の滑稽さと周りのキャラクターの立ち回りが良い感じであるからか,救いのある作品でレッドの成分も少し混ざっているという感じでした。
  • 青沼さんはカッコ悪いところも情けないところも含めて「子ども」を描くのが達者な方です。今回も大人になりきれない情けない「子どもじみた大人」がそのまま舞台上で表現されていて,思わず嫌悪感を持ってしまう人も居るのではないかと思うほど,リアルな描写がそこにはありました。
  • たぶん,物語の全体像は全て晃経由で見えた景色なのかなと思いました。エリコの披露宴のシーン以後,宇佐優は凄くぶっきらぼうで,家庭の雰囲気を壊す人のように見えていますが,それは全て晃が承服できない恨みを持って眺めているメガネの先の画像であって,本当は披露宴に呼んでくれるほどの仲の良さがあったのではないかと思いました。
  • 晃のダメ加減はそれこそ抱きしめたくなるほどの辛い現実なのですが,だからこそ最後に父親が「家に帰ってこい」と言ってくれることの温かさがしみてきます。
  • 杉本さんの歌が底抜けに明るくて,だからこそクライマックスの晃とエリコの対決で再度流れたときにはグッとくるものがありました。

 4.キャストさんひとこと紹介

  1. 晃役の林廉さん。感情の爆発はビックリするほどの力を持っていてハッとさせられることが多く,今回も存分にその威力を堪能させていただきました。
  2. エリコ役の百々とも子さん。エリコ役は可憐さと対決シーンで見せる凄みを兼ね備えた役が回ってきやすい役どころですが,今回も結婚式の対決シーンでのりりしさとそれまでのギャップが凄くて楽しく拝見しておりました。
  3. めぐみ役の玉一佑樹美さん。艶というか,品の良さがあって,あれはモテるんだろうなあと改めて感じました。下山ギャグのところはキレッキレで,それまで抑えめだったところとのギャップがあって腹を抱えて笑いました。
  4. 宇佐優役の岸本武亨さん。不器用さと粗暴さを持ちながら,心優しいキャラと言えば岸本さん一択な感じですが,今回もまさにそうでした。マスターダディへの怒りを込めたキックは迫力がありました。それまでのマスターダディの横暴に腹を立てていた私としては,内心スカッとしたのはナイショです。
  5. シャルロット役の大山杏奈さん。物語の展開上,天然ボケキャラだったシャルロットが後半,完全に呆けてしまうのですが,その様子が目の焦点の合わなさやセリフ,足の踏み出し方から,とてもリアルでした。そのリアル加減は,人生の一時期にちょっと関わっていた介護のエピソードが頭をよぎるほどでした。
  6. 堂上さん役の杉本惠祐さん。最近のからまわりえっちゃんではなくてはならない,無邪気な爽やかキャラを今回も好演されていました。でもなにより,サントラ3曲目に収録されている「家族の歌」はおそらく何度もリピートして聞き直すであろう,胸を掴んで離さない曲です。
  7. 忍者マスターダディ役の中村猿人さん。頭のネジが飛び散ってしまったような,今の時代ではNGが一発で出るようなハラスメントキャラではあるのですが,それをどこか理性を持ってわざとやっているような狂気を帯びて表現されていらっしゃいました。ただのアホな的役ではなく,憎むべき敵キャラとしてキャラ立ちしていたように思いました。
  8. 鳴子役の猿渡遥さん。晃はこんなに可愛い人から好意を寄せられていたのに気づけないどころか,邪険に扱うとは何たることかと思うほど,キュートな役どころでした。まあでもあの年代の男の子ってその辺鈍感ですよね(トオイメ
  9. 男市役の青沼リョウスケさん。主宰の権力を存分に活かして,足のけがは今回の伏線だったと思わせるほどのリカバリー力を見せていらっしゃいました。シャイで良い人で,それでいて熱血が好きで,今回も何だかんだで勝てないけれどカッコイイ役まわりでした。
  10. 男市の母役の福冨宝さん。クリムゾンポメラニアンと同一の役者さんだと思えないほどどこにでもいそうで,でも晃の目からみるとエリコを虐めそうな典型的な姑さんでした。優しそうな口調で言っているのがことごとく嫌みになるというのは,なかなか現実世界ではむかつくので,お芝居の世界でたくさん目撃できるのは有り難いことです。
  11. 宇佐の父役の佐藤新太さん。カーテンコールの名ツッコミ役も流石でしたが,酒に溺れつつも,晃の凍てついた心を日常会話から少しずつ溶かしていく実は良い人ポジション。実年齢とはかけ離れているはずなのに,実際にいるかも知れないおっちゃんがその場に現れていて,役者さんって凄いなと改めて思います。
  12. 宇佐の母役の脇領真央さん。忍者シーンのモブや,夜の公園で犬がいるように演技しているというなかなかの笑いどころでの印象とは異なり,母役のところは起きていく様々なことを淡々と受けとめていく懐の広さを思わせる演技がとても印象的でした。

気がつけば,こんなに長文書いてしまいました。でもそんだけからまわりえっちゃんが私は大好きです。かなりの確率で来るであろう決勝ではどう変わっていくのか,それを妄想しつつ,週末の時間を過ごしたいと思います。とても面白かったです。 

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