【観劇ログ】虚飾集団廻天百眼『闇を蒔く 〜屍と書物と悪辣異端審問官〜』
どうも。イマイです。
ニーチェの言葉にもある,「深淵」という言葉は何か不思議な魅力を持つ言葉です。それ自体は深い縁だけを意味する言葉でありながら,暗黒とか悪の行き着く場所のようなイメージが付与されていく衣装をまとった役者のような言葉でもあります。
さて,難しいことはさておき出演者のなにわえわみさんと,小鳥遊空さんにお誘い頂きまして,虚飾集団廻天百眼さんを観に来ました。百眼さんは二度目の観劇で,前回はその世界観に圧倒された記憶があります。気がつけば会場で買い求めたサントラを何度も聞いていた記憶があります。
librarius-theater.hatenablog.com
今回のフライヤーも何か禍々しく,この世のものでないモノがたくさん映り込んでいるような印象的なフライヤーです。
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1.開演前
百眼さんって返り血と呼ばれる赤い液体が舞台上を飛び交うから,たしか四列目より後ろに座ると,飛んでこないんだっけ?というあやふやな記憶を呼び起こしつつ,ザムザ阿佐谷にやってまいりました。
今回は二月四日(月)夜と二月十日(日)昼の二公演を観に来たのですが,どちらもかなり冷え込みが厳しい日。受付時刻には既にお客さんが一〇名以上ならんでいて盛況です。受付では劇団員のワタナベユウキさんが受付をしつつ,寒空にもかかわらずかなりの露出度でセクシーシスターのコスプレをしたお土産屋さん(荊城チカさん)が,ムチャクチャ張り切ってパンフとサントラCD,そしてTシャツを売りあるいていました。白い息とか出ていたので,おそらく摂氏八度を下回っていたのではと思うほどの寒さだったのですが,たくましく売り声を上げていたのがとても印象的でした*1。
開場時間になり,客席へ。土足厳禁のはずのザムサ阿佐谷には一面にビニールシートが敷かれていて靴でそのまま入れるようになっています。
入ると,ステンドグラス風のインテリア(なんとホンモノのステンドグラスだそうです。ご指摘感謝です。 https://twitter.com/MasakubiVariant/status/1094615609537486848?s=19)が天井から四つ下がっています。写真をこのサイズで見ると極彩色のキレイなインテリアステンドグラスに見えますが,中の柄は恐怖感を覚えるようなものがちりばめられていて,拡大しない方がよろしいかと思います。
そして,背景は白い石壁風の壁で,真ん中が四角くくり抜かれていて眼球を模したガラスが真ん中に配置されています。そのガラスの両脇に赤色の骸骨が拝んでいる絵が挟んで描かれています。上手は一段高くなっていてレトロチェアが置かれている中央は四角い台が置かれ、左右は四段の階段が置かれている。左も台。前面に向かって物置になっていました。たぶん写真を見ると一目瞭然だと思いますが,とりあえず言葉でなるべく表現してみました。
この写真でも映り込んでいますが,おどろおどろしいフライヤーとは打って変わって,開演前の場内はとてもフレンドリーな物販空間が広がっています。写真OKということもあって,スマートフォンだけでなく,一眼レフカメラも登場しての大撮影大会になっていました。では,ネタバレ防止のために改行連打をしておきます。
2.あらすじ
公式Webページによればあらすじは下記の通りです。
アングラのその先、アッパーグラウンドへ!
あの世とこの世の境界劇を演じる虚飾集団廻天百眼の劇場最新作!
あなたたちはここで暮らすのだから、
あの違反者に、石を投げなさい。
そういわれると、
妹は刃を研ぎ、
姉は、
上級生を、
密告した。
「世界なんてなくなっちゃえばいいのに」
あらすじ自体にアングラという用語が登場する作品ですが,これだけだとあまり中身が分からないかも知れないので,出演者のなにわえわみさんの動画でのご紹介を引用します。
百眼をみたことなくて、
— なにわえわみ (@naniwae_wami) January 18, 2019
それでもしかして、
「怖そうだからみないー」とか、
「お話が難しそうだからみないー」って思っちゃってる人向けの、
あらすじ紹介動画をつくりました。
百眼、こわくない。
闇を蒔く、むずかしくない。
きょーみをもったら
みにきてね✨ pic.twitter.com/vEsVJ3p7Zn
開演すると,暗闇の中,多くのキャストが登場し,マッチを擦ってろうそくに火を灯します。マッチの硫黄酸化物の香りが辺りに漂います。ヱリコ(紅日毬子さん)が登場し,深淵(左右田歌鈴さん)に向かって叫びます。なぜこうなったのか,これは私が望んだ朝なのかと。作家(十三月紅夜さん)はヱリコの物語がもうすぐ終わりを迎えることを告げます。全てを忘れてしまったヱリコがその中で,ようやく思い出したもの,それはマリサ(柚木成美さん)がお姉さんであることでした。深淵が不敵に笑いを浮かべ,物語が始まります。
敗戦国の「エコク」は占領下に置かれ,敵国の宗教の寺院が支配する世界でした。その「エコク」で悲惨な生活を送っていたヱリコとその姉であるマリサは,欲に目がくらんだ母親と間男のせいで,ある日借金取りラハブ(相田健太さん)に売られ,取り巻きの男たちに乱暴されます。絶望にたたき落とされた二人の前に,深淵が現れ,一つの書物を渡します。「ぶっ壊してしまいましょう」と話す深淵。板状の鍵でその書物を開けて,ページに書かれている言葉を述べれば,屍が現れて相手を亡き者にしてくれるとのこと。
二人は鍵で書物を開き,「アペリミアビス」*2と唱えたところ,屍ゴーダン(桜井咲黒さん)が舞台中央から現れます。取り巻きの男たちと借金取りを亡き者にした屍。行く宛てのない二人は,深淵の導くまま,寺院へと向かうことになります。
寺院では懺悔の時間となっていました。ヘカテー(こもだまりさん),エンプーサ(なにわえわみさん),モルモ(湖原芽生さん),ヘカテーのホムンクルス(CHOさん)が
見守る中,レイジン(辻真梨乃さん)と,ヨウシュ(南条ジュンさん)が中級生の懺悔が無罪か有罪かを決めています。フツバ(ドドメリナさん),クガイ(小鳥遊空さん),マキ(伊井ひとみさん),モグサ(ハラグチリサさん)の四人がそこでは懺悔をしています。
フツバが荷物を運ぶときに水を飲んだこと,クガイがつまみ食いをしたことは無罪になりましたが,モグサの母の夢を見たという告白は,ヘカターを母と仰がなかったことにつながるとして有罪が言い渡されます。アングルワイダーで口を開きながら書物を読み上げさせられ,醜い屍を呼び出されただけでなく,相当に痛めつけられる*3始末。
そこに立ちあっていたヱリコとマリサは手を下すように促され,マリサが意を決したかのように,モグサの実体を槍で突き刺します。やりすぎではと周りがどよめく中,こうしなければ生きていけないのだとマリサは余り気にする様子もありません。
この間に,既に血しぶきが舞台上には散っていたり,ウォーベン(西邑卓哲さん)のドラムが投入されたかカッコイイオープニングがあったりするのですが,まあそれはさておき,舞台はどこかの酒場に切り替わります。
ラハブの妹,ニーナ(大島朋恵さん),レイジンの弟シクラム(邑上笙太朗さん),カガミ(飯原優さん),シモン(阿部志鴻さん),エマ(鳥井響さん)が切り盛りする酒場に,作家とおぼしき人物が訪ねてきて酒を注文します。このような場所をよく「エコク」人が借りられたなとの会話を交わし,作家は去って行きます。
そこへ致命傷を負ったラハブが帰ってきて,ニーナが取り乱し・・・物語は復讐と憎しみの連続が連鎖していきます。
この物語の結末は劇場もしくはDVDでぜひご覧になってくださいませ。
3.感想
- 廻天百眼さんは二作目なのですが,どうやら楽しみ方を覚えたらしく,序盤からニヤニヤしながら退廃的な世界にガッツリ嵌まっておりました。演劇だからこそできる表現も多数散りばめられていて、虚構の世界を存分に楽しんできました。
- 絶望とか、退廃とかリアル世界なら確実に警察ものの素材がダース単位でそろってる世界ですが,なんだかカッコイイし,普段抑圧されている感情が漏れ出てきたのか,どこかにスカッとした快感のようなものを感じている自分がいました。
- 決して大きくはない舞台で,殺陣もあって役者さんが舞台上を躍動する姿に突き動かされるものがありました。マッチの匂いとか,蝋燭の熱とか,空気も含めてライブでこそ味わえる圧力がそこにあります。
- 普通に大鎌とかが人のギリギリの所を通過していく感じは計算され尽くした舞台だと感嘆する次第です。計算され尽くしているからこそ、できる迫力や凄みを存分に感じてきました。
- 調子に乗って二回目の観劇では,返り血という設定の赤い液体が飛んでくるかもしれない四列目に座ったのですが,バリアーの尽力甲斐なく多少被弾しておりました。帰ったら洗濯しなきゃなぁと思いつつ,嬉しくなっている自分は何か変ですね。
- 赤い液体を顔一面にかぶったお客さんが困惑することなく終演後ニコニコしている様子にフィクションでよかったなと思うととも(場所が違ったらただの事件現場です)に、指を真っ赤にしてフリック入力して感想を書いてる自分に思わずニヤツいた不思議な時間でした。
- とにかく曲が素晴らしくて,正式版のサントラCDが出たらたぶんすぐに購入するだろう勢いで気に入りました。二回目には振り付け講座で覚えた振りもほぼ真似できるようになるくらいにお気に入りです。
- 十三月紅夜さんの作家が,宝塚の男役トップスターがそのまま出演していると錯覚するほどに,カッコ良くて見事でした。
- 屍のゴーダンってそうとう冷酷な設定なのだと思うのですが,桜井咲黒さんのコメディっぽいシーンもあってか,何か人間くさい親しみやすさのようなものを感じました。もしかしたらヱリコの父親がモチーフなのかも知れませんね。
- お誘い頂いた二人とも舞台の上を躍動しまくっていました。それ以外のキャストさんたちも表情とか声は悲痛なものだったりするのですが,とても楽しそうに駆けずり回っているのが印象的でした。
これだけのエネルギーが生まれる舞台ならば,次もぜひ見届けてみたいと強く思いました。素晴らしい作品にお誘い頂いたなにわえわみさんと,小鳥遊空さんには改めて感謝です。