リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】劇想からまわりえっちゃん10周年記念公演 「約束は溢れる泡沫のよう、掬えもしないのに。」 からまわりブルー妄動

どうも。イマイです。

一昨日に引き続き,劇想からまわりえっちゃん10周年記念公演の妄動BLUEを観に,本日も下北沢までやって参りました。エンタメの王道REDに対して,アングラの妄動BLUEと呼ばれる本編はどんなお話なのでしょうか。楽しみにしながら列に並びました。

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 1.開演前

 受付を済ませて,客席に向かうと,階段のところには謎のスーツが掛けてあります。

仕込みではないかと疑いましたが,マジだったようで,重いはずの作品を爆笑しながら客席に向かうことになりました。大失敗。舞台は二面舞台になっています。舞台の上には,王道REDの時とは変わって,白い紙が2面に貼られています。そしてそこには無数の書が貼られています。「思いやり」とか「中日」とか,ここは小学生向けの書道教室かと思うほど無数の書が壁一面に貼られています。場内誘導には今回出演されないマジメなナイスガイの岸本武享さんがご登場,最前列の席が空いているかどうかを的確に案内されていました。前回座らなかった面に一列席が増設されていたので,そちらに腰掛けました。よく見たら入場カーテンの側でして,前説時に「物好きですね」といじられましたが,実は結構幸せな席でした。

 
青沼さんは結婚式に出席中のため,今回はムトさんが前説担当。六甲おろしを斉唱してハチャメチャな雰囲気を出しつつ*1,青沼さんよりも真面目に感じで注意事項を説明していきます。バックステージでスタンバイしているキャストさんの応援も借りながら,無事ムトさんは前説を終えることができました。
 
前説が終了して,場内BGMが鳴り止み,いよいよ物語が始まります。それではネタバレ防止のための改行連打をします。本編未見の方はネタバレなしで観るのがオススメです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2.あらすじと序盤

 説明事項は王道REDと同じなので,省略します。

(物語の序盤部分は時間があれば書き足しますー)

3.感想

  • 王道REDが悪役と戦うヒーローたちという分かりやすいストーリーなのに対して,妄動BLUEは物語とは何だ,演劇とは何だというのをかなり真剣に悩んで考えたのがそのまま舞台上に提示されていて,わかりやすさはないかも知れないですが,悩んでいるところもごまかさず全て赤裸々に提示しようとする,からまわりえっちゃんの謙虚なところが出ていて,違った意味での感動がありました。
  • 王道は行動を起こすことから始まってしまうとして,時計のSE音すら止めて,何もしないという中盤のシーン。ケージの「3分34秒」を彷彿とさせて,観客そのものが試される実験的なところがあります。この時間は,私は客席をキョロキョロしながらどんな反応で皆さん待っているのかと観ていましたが,待っていることが可笑しくなって,うっかり声を上げて笑ってしまいかけました。
  • からまわりえっちゃんの凄さは,狂気とも思えるほどの感情と身体のからまわりっぷり,それが荒削りでも正面からぶつかってくるところにあるのですが,今回もそれは健在でオープニングから抱きしめたくなるほどの不器用さがあります。でもどこかでみた感じでない新鮮な見え方がするのもまた不思議。
  • ちなみに不器用と書きましたが、からまわりえっちゃんは、不器用であって稚拙とかでは全くありません。「メルヘンの国からやってきた」のナンバーに乗せて歌い踊るところは、相当の鍛錬と練習に裏付けられてるのだと思うほど、一体となって魅せてくれます。
  • 個人的には終盤の書をかき集めていくシーンは,謎の感動があって好きなんですよね・・・。絶望的なところから立ち上がろうとする王道的な展開に見えて,ちゃんと「中日」とかのボケの書を拾ってそれを裏切っていくところとか,今まで違ったものを作ろうとする,からまわりえっちゃんの挑戦が見えて好きなんです。
  • 青沼さんの脚本は,嘘がないところが好きです。本作では好きなものを好きで居続けようとすると当然のようにやってくる嘲笑とか,覚えのない批判とかを単なる絶望だけではなくて,抵抗しようとする,ある種情けない自分も合わせてちゃんと描くあたりは,割と難しいのではないかなと感じました。オタクとして否定されたりとか,あの辺りは思い出したくないという人も多いと思うので。

4.キャストさんご紹介

というわけで,王道REDに引き続き,魅力的なお一方お一方を紹介しないわけには行かないでしょう。ということで,Corichの掲載順に従って役名と共にご紹介申しあげたいと思います。

  1. クリムゾンポメラニアン役の福冨宝さん。王道編から何となく予感していましたが,嘲笑を喜んでくれていると思わなければいけないくらい,前向きだけれど報われない役どころでした。健気なところを晃は観ていたんだろうなあ・・・。ヒドラを励ましているところは観ていて思わず悲しくなってしまいました・・・。
  2. ばばあ役のムトコウヨウさん。狂気に塗れたキャラですが,おかしくなってしまったというキャラなので,ギャグはほぼ封印という役どころ。王道REDの時にも感じましたが,舞台上を歩き回っているときに,目が据わっているところとかムチャクチャ迫力があって恐ろしくなったほどです。キャピキャピしてないムトさんの魅力が今回はたくさん楽しめて幸せです。
  3. ウギバ役の中村猿人さん。王道REDでのクールな悪役が誕生する背景は,ここまで不器用なのかと思うほどに,メグミの繰り出す王道を何とかして止めようとする役どころ。もがくような哲学的な台詞も多く,狂気と理性の間で戦う姿はとても魅力的な人間くさい役でした。
  4. ヒドラ役の玉一祐樹美さん。会場に入った瞬間に目の前に広がる,書道の書の作者として本編には不可欠ですが,王道REDでは一人三役以上の役の切り替わりが起こるのとは対照的に,本編はヒドラといういじめられっ子をずっと演じ続けます。コミュニケーションも表現も特技も,周りを見返せるものが何もないような役がクリムゾンポメラニアンと泣き合うところは,どうしようもなく行き詰まっている感が凄くて,グッときました。
  5. 晃役の林廉さん。本編の主人公。劇団名と重なるからまわりの連続で,生まれたての子馬かと思うほどのドッタンバッタンっぷりと,次々と解き放つ感情でも壊れない声の強さは,流石だなと思います。レッテルを貼り続けることへの抵抗とか苛立ちとか,まるでそれを体感している本人が率直に叫んでいるのではと錯覚するほど,迫力や現実味がそこにはありました。書道の書から自分たちの王道を創るために書をかき集めていくシーンは,ギャグも盛り込まれているのですが,焦燥感がすごくてもう一度みたいと思うほどでした。サクラ大戦は3も好きですが,私は5が好きなんですが(←聞いてない
  6. エリコ役のmacoさん。本編のヒロイン。王道REDでもどこか屈折したような視線や台詞が隠れていたのですが,妄動編を観てその理由がよく分かりました。優等生キャラではあるけれども,ある種の善悪判断がぶっ壊れてしまうほどの過酷な環境にいて,あれだったら正常な判断はできなくなるなあと。屈折した感情と健気で美しい外見のギャップは,観ている方の感情をひたすらに揺さぶってきます。
  7. メグミ役の石澤希代子さん。王道REDで「言ってもわからない」と匙を投げられていたのがハッキリ分かりました。優秀で強力な魔法を使えて可愛らしい台詞や姿に隠れて,王道であれば結果はどんなものでもよいという狂気が隠れていた妖精だったのですね。王道REDでは,割と苦労する役どころなのでしたが,晃からみるとその辺はちょっとした復讐が隠れていたのかも知れません。
  8. 飢野ハングリー役の杉本惠祐さん。売れないミュージシャン。終演後に少しお話させていただきましたが,プロのミュージシャンの方にジャイアンリサイタルをやらせるという恐ろしい作品でした・・・。下手に歌うのは上手い人からするととても大変だと聞いたことがありますが,それでもこなしてしまうのは流石です。王道REDの傲慢な役とは打って変わって,ピュアさが残っているのもまた見所です。
  9. ロストマン役の佐野晋平さん。ある種,王道REDとそれほど変わらない真っ直ぐさ。むしろ変態成分が薄めになって(慣れただけとも言う),カッコ良さが増えて,ツッコミが増える役どころです。メグミには歯が立たないところが王道REDでは,諭す役まわりになっていて,その辺も晃の思いやりなのかなと(ちなみにOPでスカウターを使って天狗にならないように・・・と心配しているのでキャラはちゃんと一貫しています。)。
  10. 王道ファン2役の一井彩乃さん。オープニングであのカッパの格好で出てきたので,もしかして本編もそんな感じかと思いきや,晃に向かって容赦なく,王道を求める台詞を投げかける役どころです。だから小劇場はダメなんだという台詞がメタ台詞になっていて印象的でした。
  11. リップちゃん役の大山杏奈さん。晃とはたぶん接触時間が少なかったんだろうなと思うほど,王道REDで出てきたときのキャラ付けとは大きく異なっています。純粋に飢野を助けてあげたいと思って,エンゲージしようとしている前向きな役どころです。
  12. 王道ファン1役の野仲萌里さん。こちらも王道を望む台詞を投げかけて,晃を困惑させる役どころです。ファン1としては登場時間が僅かなので,モブの通行人から,女生徒まであちこちで登場されていました。本作はモブキャラの方は衣装チェンジが多いと思うのですが,本編ではそんなことを意識させないので,流石だなと思います。
  13. 一直線寺竜也役のハルナカネコさん。オープニングで出てきた時,同じ妖精役かなと思いきや,こちらは真っ直ぐな少年役。おそらくはスーツを忘れて名古屋に行ったハローガーディアンの少年時代なのでしょう。気だるそうにタバコを吹かしていたキャストさんが,次の作品では天真爛漫な子どもで飛び回っている(これが疑うところを知らないピュアさ満点な子どもなんですよ)ところは,役者さんって凄えと,改めて感じた次第です。
  14. 店長役の前原一友さん。王道REDでは物静かな理解者でしたが,こちらは下心全開の積極的なオヤジになっていました。エリコに「本当のことじゃん」と錯覚させるような,少女を手玉に取る悪い大人が見え隠れしていました。次から次へレッテルを貼っていくあたり,間違えないように貼っていくのは意外と大変なんだろうなと余計な心配をしてしまいました。
公式Web:
 
Corichのページ:
ナタリーのページ(ネタバレ写真あり注意!):

natalie.mu

 
 
 

おまけ:

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名古屋に行けなかった青沼リョウスケさんの婚礼用スーツを,素敵な音楽を奏でてくださる杉本さんとともに撮影していただきました。いやあ,あまりにも絶妙すぎて,仕込みかと疑ってしまってごめんなさい・・・。

(そういえば杉本さんと長めにお話しさせていただきました。その時にも申しあげたのですが,えっちゃんのサントラは「溶けて解せない」以降毎回購入させていただいております。一生懸命なえっちゃんの舞台に,杉本さんの生歌が挿入されることでさらに魅力的なステージになっているような気がします。他の劇団さんだと1~2回聞いて終わりのサントラをかなりの勢いで聞いております。今回の「クリスマスソング」も大好きです)

*1:ネタをちゃんと拾えずにゴメンナサイ・・・