リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】劇想からまわりえっちゃん10周年記念公演 「約束は溢れる泡沫のよう、掬えもしないのに。」 からまわりレッド王道

どうも。イマイです。
 
毎月二本の観劇ペースは何とか維持できているのですが、感想をじっくり書く時間がなくてトホホであります。(先月分は両方とも短信になってしまいました・・・)
 
今日は毎回、笑いと考察の種を振りまいてくれる劇想からまわりえっちゃんの新作を観に、下北沢は小劇場楽園までやって参りました。小劇場楽園は劇場街で、様々な公演のポスターが貼ってあって開演前からワクワクしてきます。
 

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 1.開演前

受付を済ませて,客席に向かうと,舞台は二面舞台になっています。舞台の上には,セットは何も組まれていません。場内誘導には今回出演されない岸本武享さんがご登場,最前列の席が空いているかどうかを的確に案内されていました。
 
トイレ(今回は入り口近くの方の1つのみ使用)を済ませて,着席。パイプイスではなくちゃんとしたスタッキングチェアが並べられており,荷物を下に入れやすく座りやすい椅子でした。 
 
開演10分前になると,前説要員の青沼リョウスケさんがドラゴンズのユニフォームにピアノちゃんのグッズを持参して舞台上に現れます。あふれ出るドラゴンズ愛とサンリオ愛を散々語った後,からまわりえっちゃんの場内のお約束*1,そしてセットはないので各自の頭の中で物語を補完してくださいとの恒例のお願いが行われました*2
 
前説が終了して,場内BGMが鳴り止み,いよいよ物語が始まります。それではネタバレ防止のための改行連打をします。今回はネタバレなしでぜひご覧下さいませ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2.あらすじと物語序盤

公式Webに掲載されている物語の説明は次の通りです。

約束ばかりが増えていく。
今夜も昔の誰か電話して。あぶくで満たされてる私の安っぽちな器は垢で出来ている。お気に入りの赤色の爪先で突けば弾けてパチン。
ぶくふぐパチン。ぶくふぐパチン。それが私の人生だ。

「もしもし?」

もしも。この掃いて捨てるほどの約束を総て果たす事ができたらその底にはなにがある?
覗き込んでも乱反射する光の奥には仄暗いあの女の子がいると予想するよ。

「ねえ」

約束ってそんな風に言う事じゃないよね?
あなたが泡と例えるならその泡ってキラキラ虹が詰まったシャボン玉の様なものじゃないかな?

「じゃあ変える。約束は私を縛る鎖だわ」

「え、ダサ!!」

約束好きの二人の女のコのお話。
約束ってなんだ??人と人との契りのメッセージ。誠実でいられるか?

舞台が明るくなると,そこは街中。多くの人が無表情にその場を通り過ぎていきます。一人の少女が道行く人に声をかけています。自由研究で夢を集めているのだと。しかしだれも答えてはくれません。
 
道ばたに一人のぼろきれじじい。じじいは科学の進歩と共に夢がどんどん実現していく昔の世界を語ります。では少女の夢は何か?とじじいが少女に問うと,少女はないと答えます。
 
そして,そこへ突然入ってくるオープニングテーマ。メルヘンの歌が鳴り響きます。全キャストが登場して,場内を駆け巡りながら歌い叫び回ります。サントラの2倍増しぐらいの勢いと熱量で迫ってきます。あついぜ。
 
そして冒頭のシーン。妖精が逮捕される世界となった現代。警察から逃げ回っていたエリコとメグミ。なんとか抵抗しようとしますが, エリコは警察に捕まってしまいます。
 
シーンは切り替わって喫茶店「夢見がち」。妖精ロストマンが入店し,店長と暗号のやり取りの後,地下の秘密基地へと移動します。エリコが捕まったことで妖精の秘密基地は重苦しい雰囲気になっています。妖精たちは疲弊しきって,人間たちを助けようとしない状態,それでもロストマンは人間を信じようとしてエリコを助けるために情報を探そうとしますが,妖精たちは協力しようとせず,ロストマン一人が残されます。
 
店長からアメリカンコーヒーをおごってもらい,打ちひしがれるロストマン。そこへメルヘンの世界からの知らせ,ダダンダンダダン反応*3が知らされます。ニュージェネレーションは来るのかと期待し,妖精を呼び戻すロストマン。しかし,ニュージェネレーションはゼロ人だと報告され,一同がっかりで妖精たちは解散していきます。
 
そこへ突然現れたのが,ハロー!ガーディアンオブこの街という妖精。新入りだと名乗ります。ニュージェネレーションはいないはずだと訝しがるロストマンですが,上手く丸め込んで,店長とロストマンは飲みに出ていきます。
 
場面は変わって晃の家。そこでは男市が人形遊びに乗じています。ひとしきり男市の不思議ワールドが展開された後,晃がその場に帰ってきます。空想遊びはやめろ,現実を見ろと叱り,男市は部屋に閉じこもり,晃はその場を離れます。男市が一人遊びを始めようとすると,人形が突然動き出し,家を男市は抜けだします。
 
 居酒屋に向かった店長とロストマンとガーディアンの3名が騒ぎを起こしてしまいますが,その後始末の中で3人は男市に偶然出会い,魔法を披露,喜んでいる姿にロストマンはやる気を取り戻します。
 
その脇では人気歌手の飢野が路上ライブをし,ファンが殺到しています。その場にリップが迎えに来て・・・。
 
さて,妖精たちはエリコを取り戻せるのでしょうか。そして男市と晃の関係はどうなるのでしょうか。そして荒れた人気歌手飢野とリップちゃんは今後どうなるのか。結末はぜひ劇場で目撃してくださいませ。

3.感想

  • とにかくエネルギーの塊が舞台上から客席にぶつかってきます。冒頭のシーンから千穐楽ではないかと錯覚するほどの勢いのすごさがあります。元気玉が正面衝突でぶつかってきた感じで,年末の疲れもすっかりすっ飛ぶほどの力がわいてきました。偽物や空元気ではない,フルパワーの元気がそこには存在していました。劇場で目撃したい勢いのすごさでした。
  • エンタメ路線と仰っていましたが正にその通りで,物語に影が差そうとしているところで,見事などんでん返しのハッピーエンドが待っていました。エンディングが終わった後は,テーマパークのショーを観ているような爽快感が残りました。ただちゃんと影もきちんと見え隠れしていて,深く考察しようと思えばちゃんとできる物語の深さがあるのも青沼さんの脚本の魅力だなと思います。
  • ワチャワチャしているシーンは本気になってワチャワチャしているためか,静かなシーンに切り替わった時のコントラストはかなりのもので,思い出すと印象的なシーンが多くありました。私のイチオシは最初の妖精たちの会議シーンで,妖精たちが不機嫌そうに時間を過ごしているところです。ぜひお見逃しなく。
  • メインキャストをはじめとして,今回個々のキャラの決めぜりふがどれもカッコ良いです。お目当ての役者さんの見せ所はお見逃しなく(2回目)。
  • ここで書かないと存在していなかったことにされるのが悔しいので,敢えて書きますが,晃らの出動シーンで発せられた「サクラ大戦みたいだろ」という台詞,確かに受け取りました。仰るとおりサクラ大戦でした(汗)。
  • 今回,悪役がわりと感情のブレがなく悪役に徹していたのが,なぜ?と思っていたのですが,どうやら当日パンフを見ると晃が10年後を妄動した世界が今回の王道レッドなようです。なるほど。あそこまでに役割に忠実に動けるのはおそらく妄動編に何かがあったのですね(ということで早速妄動編が気になっています)
  • 序盤に漂っている重苦しい雰囲気は,おそらく晃の絶望を引きずっているのかなと思いました。男市も最初はかなり絶望しているところから始まっています。ただ,それが晃が実現させようとする企みと,ハロー!ガーディアンオブこの街という人間が紛れ込む中で,少しずつハッピーエンドに軌道修正していっている感じがします。序盤の重苦しさもあって,最後は悲劇も覚悟していたのですが,そこはちゃんとハッピーエンドにする辺りはまさに王道だなと。
  • 色々エネルギーのすごさで隠れてしまいがちなのですが,今回の特徴である二面舞台を,かなり自由に使っていたように思います。二面舞台の角には柱が一本立っているのですが,この柱をぐるっと回り込んだり,柱に向かって激突するといったシーンがちりばめられていて,本来なら制約条件になりそうな柱を自由に使っていたのが,とても気に入りました。
  • からまわりえっちゃんは杉本惠祐さんの歌を含め,劇中歌がものすごく良いのです。1週間のうちに1回は聞き直すほどのヘビロテ振りです。歌詞がギャグなのですが,気がついたら何度も聞いている不思議な魅力があります。もちろん今回もその魅力は健在で,サントラ6曲入りを早速買い求めて,iTunesで取り込みました。明日から,あの世界を思い出すために活用したいと思います。
  • からまわりえっちゃんは「溶けて解せない」から5作目の観劇ですが,この王道レッドが一番見やすくて,それでいてワクワクしながら,カッコ良いところはきちんとカッコ良いという作品でした。もしかすると,アングラと呼ばれている妄動編と王道編が切り離されていたからかも知れないのですが,今回に関しては「ギャグが全力で物語を邪魔する」という能書きが必要ないのではと思うほど,余計なフィルターを入れず,力を抜いて楽しめる作品だったように思います。
  • 長く書いているのだけれど,要するに面白かったんだぜい!

4.キャストさんご紹介

感想でも取り上げましたが,今回はキャストさんの躍動と,はっちゃけっぷりは特筆すべき事項でした。そうであれば魅力的なお一方お一方を紹介しないわけには行かないでしょう。ということで,Corichの掲載順に従って役名と共にご紹介申しあげたいと思います。

  1. ハローガーディアンオブザこの街役の青沼リョウスケさん。弱くて口ばかり,でも妖精に憧れてみんなを幸せにしたい人間。不器用さが前面に出ている役なのですが,最後の手紙のシーンも含めて細かいところがいちいちカッコ良くて腹が立ちます(笑)。
  2. クリムゾンポメラニアン役の福冨宝さん。妄動編で何があったのかと勘ぐりたくなるほどの屈折した役。実験室で壮絶にお茶をこぼすコメディエンヌに見えながら決してそうではなくて,悲しみをまとったキャラクターが印象に残りました。ラストシーンで唯一妖精の国に帰らないのもなんだか納得です。もちろん,オープニングとエンディングはマイクを持って大暴れしてくださいます。
  3. 男市役のムトコウヨウさん。飛び道具的なポジションでお馴染みのムトさん。もちろん今回も役や台詞回し自体ははじけ飛んでいるのですが,所々に見える表情の一つ一つが格好良くて二枚目キャラなんです。過去作品だと割とフワフワ飛び回る風船のようなイメージがあったのですが,今回は何かどっしりとした土台があって,それを足がかりにしながら飛び回っているような安定感を感じました。マジメなヒーローのムトさんを見てみたいと本気で今日は思いました。
  4. ウギバ役の中村猿人さん。前説で「ないない」ネタを炸裂させながら,本編では静かに役割を遂行する役どころ。静と動の切り替えにハッとさせられる方です。ラストシーンで割とあっけなく死ぬなあと思っていたら,そういう理由があったんですね。そりゃ良いやつだわ・・・。長すぎる出撃シーンはあちこちからツッコミをもらうシーンですが,中村さんの身体能力の高さを堪能できるシーンなので,ぜひ劇場でご確認を。
  5. キャサリーン愛内役の玉一祐樹美さん。本役を含め,一人何役だったんですか(私が記憶しているのは3役)と思うほどの,色々なキャラクターを演じ分け,しかもそのどれもが,振り切っている系の叫び声も多い役どころかつ出ずっぱりの役どころです。アフロは確かにお似合いでした。エネルギーの消耗率はとんでもないんだろうなと思いますが,千穐楽までどうぞご無事で・・・。
  6. 晃役の林廉さん。淡々とした物語の黒幕と思いきや,真っ直ぐな思いを実現させたくて,健気に動いていた警察官。ラストシーンでポメラニアンにBYEBYEウイルスを打ち込まなかったことを踏まえても,妖精のことを心から大切に思っていたんだろうなと思います。スーツの似合うクールな役どころだなあと思っていたら,吹っ飛ばされてビターンと床に向かってダイブするお馴染みの体当たりをかましてくださるサービスっぷりは必見です。
  7. エリコ役のmacoさん。冒頭で連れ去られて悪落ちしたキャラかと思いきや,実はちゃんとハッピーエンドに連れて行っているヒロイン。悪落ちキャラとしてクールな立ち居振る舞いも見所ですが,メグミやロストマンと小さな舞台を駆け回る対決シーンも見所たっぷりです。
  8. メグミ役の石澤希代子さん。冒頭で連れ去られたエリコのことを大切に思っていることが前面に伝わってくる妖精。ロストマンとの衝突を含め,感情を爆発させまくる役者さんのエネルギーがたくさん必要な役どころ。声や動きも魅力的ですが,眼力というか見つめる力がとても印象的な方でした。
  9. 飢野ハングリー役の杉本惠祐さん。心優しいミュージシャンの役どころで拝見していることが多かったので,今回の荒れまくってリップちゃんにあたりまくっている自分を見失った役というのは,これまでのギャップもあってキャラクターに感情移入(目の前の人を大切にしろよーとフィクションなのに思ってしまいました)していました。台詞をまくし立てた直後に,劇中歌を発しなければいけないのは,想像以上に大変だと思いますが,最高でした!
  10. ロストマン役の佐野晋平さん。ロングコートの下はおむつ一丁という,一つ間違えたらリアルで監獄にレッツゴーできる昭和世代のベテラン妖精。膝を痛めながら,メルヘンの力を信じて人間を幸せにしようと考えている心優しいヒーロー。登場した最初のシーン以外はおむつ一丁だったということを忘れるほど,健気さとかダンディズムに溢れていました。
  11. しまちゃん役の一井彩乃さん。どこに行っても「帰ろうよ」が口癖のカッパの妖精。この口癖がまさか終盤の布石だったと膝を思わず打った次第です。中盤の「夢見がち」の店長から,コーヒーをおごってもらったシーンで,他の妖精がコーヒーを口にする中,ちゃんとお皿の方にコーヒーを注いでいるところは見事だなぁと思います。
  12. リップちゃん役の大山杏奈さん。「純白,もはや穢れ」に登場した妖精リップちゃんを思い浮かべますが,こちらは本当の妖精です。飢野の運転手をしているあたりの言葉足らずのやりとりは,シーンの滑稽さを強調していますが,終盤ではちゃんと言葉を使いこなしていることから考えても,あれは飢野のことをきちんと分かっていて(たぶん諭しても分かってくれないと知っていて)振る舞っていたんだろうなと思いました。あの妖精の中では表と裏を一番使い分けている賢いキャラのように感じました。
  13. かおる役の野仲萌里さん。飢野に「なんだこのヒラヒラ」とツッコまれる妖精モブキャラの方が登場時間が多いですが,終盤のキャバクラ「マザー」で,男市を慰める重要な役どころです。そういえばあの世界は甘えられる場所が全くないんですよねー。晃の理想としている社会だから甘えは許されないんだろうなと思いますが。
  14. とげぴー役のハルナカネコさん。前回「俺なんだよ戦記」のガングロギャルメイクでメグミ役が印象的だった方ですが,今回は黒髪でのご登場。おおこの方だったのかと途中まで気がつかないほどでした(お美しい方です)。エリコがさらわれた直後,ロストマンが喫茶店に戻ってきたところ,メグミがひたすら自分を責めるシーンで,タバコをプカッーとふかして気だるそうに様子を観ているところが,シーン自体の静かさもあってとても印象に残りました。
  15. 店長役の前原一友さん。多くは語らないダンディですが,キャラたちの背中を押してあげる大切な役どころ。ほぼ唯一,感情を爆発させないキャラなのですが,だからこそ一つ一つの台詞の質や重みが,他のキャラとはまた違って,あの世界を舞台につなぎ止めておく碇のような役割があったように思います。
 と,気がついたら今回もうっかり長文のブログを書いてしまいましたが,それだけつなぎ止めておきたい,記憶しておきたい,とてもとても楽しい時間でした。(妄動編ではどんな揺り戻しが来るか,今からドキドキしています。)このクリスマスの時期に,元気をなくしている方には是非ともオススメしたい,元気いっぱいの作品でした。
 
私が拝見できたのは10年のうちのごく僅かなのですが,この勢いと熱量を10年続けてきたことは本当に素敵だなと思います。そして今回の公演でもまた新しい魅力を披露してくれたからまわりえっちゃん,妄動編だけでなく,今後の活動がとても楽しみです。
 
公式Web:
 
Corichのページ:
 

*1:入退場のカーテンの位置まで示して,全てのお客さんが快適に過ごせるように気遣いをしている辺りは流石だなと思います。

*2:ちなみにガルシアがいなくなって10勝勝てるピッチャーはいるのかという話でしたが松坂大輔がやってくれるのではと思わず口に出かかった私は松坂世代です。

*3:ターミネーターはそろそろ時代物では・・・