リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】劇団ショウダウンPresents竹内敦子一人芝居「蒼のトーテム」

どうも。イマイです。

梅雨明けをしたそうで,外を歩くのはだいぶ暑くて辛い季節になりました。なるべく地下街の冷房が効いているところを選んで歩けないかなと企んでいます*1

さて,本日は私のイチ推し劇団である劇団ショウダウンさんの新作,しかも劇団員の竹内敦子さんが初めて挑む一人芝居「蒼のトーテム」を観に,大阪長堀橋船場サザンシアターまでやって参りました。

こちらの劇場は劇団ショウダウンさんの転機となった,林遊眠一人芝居シリーズが初めて上演された場所であり,劇団ショウダウンさんの聖地とも言える劇場です。イチ推しでありながら,今回初めて訪れました。

f:id:librarius_I:20180630134353j:plain

(トップページからご覧の方は「続きを読む」リンクをタップしてください)

1.はじめに

階段を降りて受付に行くと,そこで票券や金銭の受付として座っているのは,看板女優の林遊眠さんです。普段は舞台上で拝見する方ですが,今回はスタッフとしてご登場です。

物販コーナーには,過去DVDやタオル,トートバッグといったグッズに加えて,今回の「蒼のトーテム」をイメージしたポストカードが。早速,全パターン購入しました。

噂に聞いていたソファのような座りやすい椅子。最前列と舞台の間は1mちょっとしかない,コンパクトで居心地の良い劇場です。舞台上に目をやると,舞台後方から吊られた白い布が前面まで垂れ下がっており,その上に石畳のようにみえる濃い灰色のフェルトが1枚を中心にして9枚周りに配置されています。舞台後方の白い布の後ろには,バッテン印に張られた縄と,額のようなオブジェがあります。

開演5分前になると,1回目はナツメクニオさん,2回目は林遊眠さんが,割と抑えめの声で開演前の注意事項を説明,そして開演時間にはナツメクニオさんが開始の挨拶に出てきて,いよいよ一人芝居の幕が上がります。

では,ネタバレ防止の改行連打を致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.あらすじ+序盤

物語のあらすじは下記の通りです。

目覚めると、上空には抜けるような青空が広がっていた。

周りを見渡せば一面の緑。
草原の先、小高い丘の上に建つ朽ちた灰色の教会。

目的も、
場所も、
そして自分のことも何もわからぬまま少女は教会の扉をくぐる。

( https://stage.corich.jp/stage/91181より引用)

緑と白の明かりに照らされて,少女は次のように語り始めます。

足下には,踵を優しく包み込む柔らかいの草原,はるか頭の上には流れる白い雲から世界を温かく照らす大きな太陽。

劇団ショウダウンでおなじみとなった細かな情景描写から物語は始まります。少女は全ての記憶を失っていました。私は一体何なんだろう?そう呟いた少女の目には,小高い丘の上に建つ,古びた教会が映りました。少女は不安の中,教会へと足を進めます。

そこに登場するのは「白」。この物語の中で,ストーリーテラーとなる白は少女の行動を客観的に語り始めます。少女は森の中で,コテガエルという奇妙な動物に出会いました。おとぎ話の中に出てくるようなやりとりを交わした後,道を示して欲しいと訴える少女に,コテガエルは「何もわからないんだったらさ…,やめちまいなよ」「ずっとここにいなよ」と突き放します。

木々のざわめきに混じって,「ずっとここにいなよ」の声,そして木々の枝が凸状でのようにしなり少女を襲います。少女は,必死に教会へと駆け込み,そして扉の向こうに飛び込んでいきました。

教会の中へと飛び込んでいった少女は,そこで二人の男女に出会います。カイゼル髭を蓄えた尊大な男と,少女のことを「蒼」と呼ぶ気の強そうな若い女。「蒼」と呼ばれた少女は自分の記憶を取り戻すことができるのか,そして,この謎の教会は一体何なのか…。その結末はぜひ劇場で目撃して下さい。

3.感想

  • まず第一印象としては,「観に来て良かった,綺麗でカッコ良く,それでいて重厚な世界がまた観られた」という嬉しさがありました。
  • 林遊眠さんの一人芝居シリーズで良く取り上げられる,西洋活劇や,絵本の世界が飛び出してきたようなファンタジーとはまた違った,心の深層とか狂気に近い部分に向き合う不思議なファンタジー世界でした。
  • 冒頭の10分間で,既に汗だくになるような運動量と膨大なセリフ量ですが,それを85分間も,しかも飽きることなく楽しませてくれる作品です。演者にとっての負担はもの凄いのだと思いますが,遠征しても観たい作品です。
  • 色覚異常の主人公が,色の概念を何とか理解しようともがき苦しむ物語です。障碍の描かれ方は,かなり気を遣う所だと思うのですが,StereoTypeとして強引に描かれることもなく,きちんと向き合って書かれている作品のように思いました。
  • 本公演ではなかなか観ることの出来ない,(本来は林遊眠さんが担当する)凜々しい主人公キャラの竹内さんの演技が拝見できるのも本作の特徴です。特にラストシーンの白い照明に包まれて,壁に立ち向かおうとするあたりは,カッコ良いというか,神々しくて心動かされるものがあります。
  • 火曜サスペンス劇場のテーマというコテコテのBGMに対して,「何?この音楽」と冷静にツッコミを入れる台詞は,もしツッコミ台詞がなかったらと言う怖さもあるのですが,本作の爆笑ポイントの1つであります*2
  • 私個人が勝手に考えている,良い一人芝居の目安として,役者さんの顔がいつも知っている役者さんではなく,別の人や物に見えるというものがあるのですが,今回の作品では何度もそのシーンが訪れました。ゾンネンゲルプが蒼を導くシーンでは,一瞬,舞台上に林さんが上がっているのではと錯覚するほど,普段の竹内さんとは異なった表情を拝見できました。
  • 今回は劇団ショウダウンお得意の同じシーンが冒頭とクライマックスで繰り返される通称「天丼」がないのかなと思ったら,何と終盤で冒頭のセリフが次のように,変化して繰り返されていました。台詞を少し入れ替えただけで全く印象が変わってしまうオープニングやシーンの描き方,この一つをとってもお金を出したい作品です。
足下には,踵を優しく包み込む柔らかい灰色の草原,はるか頭の上には流れる灰色の雲から世界を温かく照らす大きな太陽
  • 今回の物販で売られている台本にはキャラクター一覧が冒頭のページに掲載されているのですが,個々のキャラにちゃんと「色」が付いています。1回目の途中に気がついたので,2回目はそこに注目していたのですが,このキャラクター一覧に掲載された(一部は本編上で明かされている)色が,キャラクターの出演場所でちゃんと照明として表現されているのです。ピンクの照明なんて難しいだろうと思ったら,ちゃんと最初の砂漠のシーンではピンクの照明が付いていて,細部に至りこだわっていることが伺えます。ナツメクニオさんに伺ったところ,かなり細かく打ち合わせされていたとのことで,ぜひ照明にもアンテナを張り巡らせてご確認頂ければと思います。
  • 初見時,ラストシーンの蒼の名前は「ソラ」ではなく自ら光を出す「タイヨウ」ではないかと思いましたが,よくよく考えてみれば太陽自体が色を作るのではなく,空に散らばっている塵や雨粒が太陽の光を受けて色を作り出しているのですから,「ソラ」でなければならなかったのだと思い直しました。小話(空はなぜ青くて、夕焼けはなぜ赤いのかな) : 富士通研究所
  • 早くも竹内敦子一人芝居の次回作が見たいという無茶ぶりをしたくなりました。それぐらい,素晴らしいクオリティでしたし,劇団ショウダウンさんの新しい引き出しを見せてもらったような気がします。

正直言って未知数なところもあった今回の劇団ショウダウンさんの新作一人芝居ですが,また違った魅力を見せてもらえる作品でした。遠征して見に行って良かったと心から思いました。8月には東京でももう一度拝見できると言うことなので,今から楽しみです。

stage.corich.jp

 

*1:このブログもクリスタ長堀橋の通路椅子に座って最初の書き出しを書いてます。

*2:リアルタイムで知ってる世代は結構良い歳だろうと