リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】劇想からまわりえっちゃん「俺なんだよ戦記」

どうも。イマイです。

観劇強化月間でして,色々な場所に出向いています。

今日は,副都心線東新宿で下車し,アトリエファンファーレ東新宿という初めての劇場にやってきました。新大久保駅からも歩いてこれるそうですが,軽く迷ったのはナイショです。

溶けて解せないから,継続して拝見している劇想からまわりえっちゃんの「俺なんだよ戦記」を観にやってきました。今回はアトリエファンファーレ演劇祭出展作品とのこと。期待が高まります。

f:id:librarius_I:20180621224323j:plain

 1.はじめに

今回の公演が発表された時に発表されたビジュアルは,1980年代のアイドルを彷彿とさせるというか,それ以外にどの方向を想像できるんだというビジュアルでした。

www.youtube.com

公演前には先だって劇団オフィシャルのグッズショップを開設して,Tシャツの販売を始めるという気合いの入れようでした。

gekisouke.shopselect.net

うっかり私も玉一さんのTシャツを購入したので,当日着用して劇場にやってきました。

f:id:librarius_I:20180621224007j:plain

開場して劇場に入ると,パイプイスで4~5列の客席が組まれていました。受付ではアンケートの代わりに投票券が配られていました。こちらの券には0~2の数字が書かれており,終演後に数字に丸をつけるようになっています。お客さんから集まった合計の数字が一番高い劇団が優勝という演劇祭のシステムです。

なお,三菱UFJに口座をお持ちの方限定で,応援していた劇団が優勝すると200円のキャッシュバックが受けられるというサービス付き*1

舞台上は「純白,もはや穢れ」のときと同様に,何もセットがなく黒いカーペット,黒い幕のみの超シンプル舞台組みでした。

さて,開演10分前ぐらいになると,ほぼ恒例化してきた劇団主宰の青沼リョウスケさんによる開演前の諸注意が始まります。中身は劇場に行ってご確認頂ければと思いますが,ともかくサンリオピューロランド愛に溢れた諸注意でした(なんだそりゃ)。サンリオ総選挙の日程をまさかこの場で確認できるとは思ってもみませんでした。

あふれるピューロランド愛の勢いで,開演2分前になっても劇場さんからの投票システムの説明に繋がないという危険技が披露された後,なぜか中村猿人さんのナイナイ芸を楽しむという不思議空間になり,気がついたら開演となっておりました。

千穐楽前ですので,ネタバレ防止の改行連打を致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.あらすじ

今回の作品のあらすじは下記の通りです。

そう俺は廃人!!悪いだろ!
人生で一番好きな人は誰ですか?君だあああ!君だけだ!!!!
あの時の気持ちは、そのキラキラの高鳴りは脳裏に網膜にハートに骨に喉仏に響きこだまして10数年。跳ね返り過ぎてば倍の倍!ばばばい!今どこ?!?!!
汚ねえと決めつけた俺はもう御免!ほんとごめん!君を取り戻す!!!
そうすれば俺らしい俺が。
俺の好きな俺が。
これが俺だ。
俺の俺なんだよ戦記

http://stage.corich.jp/stage/91610より引用)

あれ?アイドル芝居ではなかったの?と不安がよぎるあらすじとなっております。

暗転から照明が付いて,舞台にスタンバイしていたのは前述のリョウ,ゆきみ,猿人,林,ムトの5名。デビュー曲である「俺なんだよ戦記」に合わせて踊ります。ニワトリやスズメが登場して,このまま騒がしく華やかに舞台が進むかと思いきや,それまでテンションの高かった猿人が「また,この朝か」と吐き捨て,舞台は一瞬静まりかえります。

場面は変わって,何もない舞台上にキャストさんによってギィィといった擬音の1つまで表現された門扉が現れます。私立アイデンティティ高校に猿人は登校します。そこに現れたのは,エリコ先生。生徒の夏休みを没収しながらクズな生徒が集まる0組へと入っていきます。

教室に入ってきたエリコ先生に暑苦しいまでの挨拶をされたムトちゃん37歳は軽くスルーされ,新入生である「ゆきみ」がエリコ先生から紹介されます。しかし,ゆきみの知り合いであると思われる猿人は素っ気ない対応。かるく喧嘩が始まりそうなところをエリコ先生は制して,このクラスに赴任した目的を告げます。

「夏までに0組を0人にします,そう宣言させてもらうわ。それが私の仕事よ」

コンプレックスの塊ばかりが集まる0組を更生させるために,エリコ先生はダンス,シング&卓球という劣等生更生プログラムを発動させます。林から「ハテナが3つあるぜ」ともっともらしいツッコミが出されますが,軽くスルーされ,町内大会優勝のための練習が始まります。

こうした学校のシーンと並行して挿入されるのが,TAITOゲームセンターのシーンです。単なるゲームセンターではなく,TAITOであることが重要なゲームセンターです。ここでは林がいわゆるメダルゲームに没頭しているのですが,そこへ「めぐみ」という黒ギャルが興味を示して声をかけてきます。物語が進むと分かるのですが,林がとことんネガティブなのに対して,この「めぐみ」はどこまでもポジティブで,かつ「めぐみ」は林に好意を抱いていることが分かります。

このゲームセンターのシーンと,学校の卓球シーンが入り交じりつつ,物語が進んでいきます。そして,町内では滅法強い「青空ファイファイファイターズ」と0組のチームは対峙します*2

果たして0組は更生できるのか,卓球勝負の行方は?,そして恋の行方は…?続きは劇場でぜひ目撃して下さい。

3.感想

  • 「溶けて解せない」以降しか拝見していないのですが,一番肩の力を抜いて,難しいことを考えずに最後まで拝見しておりました。 ストーリー自体はとても分かりやすく見えるけれど、だからこそ何かとんでもないものを見逃してるのではと思える作品。
  • 細かい擬音まで全て口で表現し,ギャグだろうがマジメなシーンだろうが汗水流して本気でぶつかり,そしてシリアスなシーンはシャイだから全力でギャグが邪魔をする,劇想からまわりえっちゃんの特徴が全て詰まった作品です。からまわりえっちゃんの入門編としては最適の作品だと思います。
  • 特に冒頭の学校のシーンで,全員のキャラがわざわざ教室のドアを「ガラガラ」と言いながら開け閉めして出て行くところは,からまわりえっちゃんの世界を理解する上でも必見だと思います。
  • 軽く観られるけれど,役者さんとしては,身体表現やセリフの表現で相当に吹っ切れた系のパフォーマンスを要求されていると思われる演出なので,ムトさんをはじめとするキャストさんのほとんどが汗だくになっていたのは印象的でありました。
  • からまわりえっちゃん特有の全編に渡るギャグシーンの弾幕,そして肩の力を抜いて楽しめる分,見落としてしまいそうになるのですが,今回の作品は割と闇が深い気がします。例えば,股間に伝説の剣「マジンガーZ」が刺さっているという斜め上の設定がありながら*3,本編ではエロスを含んだ演技になっていました。あと,台本を見るとリョウは結構追い詰められてますし,林の壊れっぷりは結構なものがあります(ギャグのおかげで,そんなに心に負担を感じずに観ていられるのですが)。荒唐無稽なように見える設定を紐解いていくと,それなりに生々しい青沼さんの記憶にたどり着くのではないかなとの予感はあります。
  • 終演後に,この物語は神の視点なのか,それとも登場人物の誰かの視点なのかということをふと考えました。神の視点にしては,ハチャメチャすぎる世界ですし,エリコ先生は「大人だから」強がるとか,割と都合の良い大人に描かれていて,観客が客観的に世界を観ているという解釈を容易に取れないかなと考えたのです。ただし,登場人物の誰かと仮定するには,シーンがキレイに切り替わっていて難しいかなとも思います。でも例えば猿人と林からは,世界があのように見えていたとするならば,猿人の諦めによって省略された記述,林のネガティブによってねじ曲がって見えたコミュニケーションというのが,理解できるのかなと思うのです。まあ,そもそも世界がマトモである必要はないのかもしれませんが。
  • 毎回このブログでは,青沼さんが描き,からまわりえっちゃんが演じる「人の幼さ」が良いと申しあげてますが,今回も台本で言うと19ページから20ページにかけて,「青空ファイファイファイターズ」に敗れて反省会をしている際の喧嘩のシーンがその観点では印象的なシーンでした。このシーンのセリフ自体もそうなのですが,間の取り方とかも含めて,子ども同士がリアルに口喧嘩している様子が思い浮かんできました。
  • 台本見て気づいたのですが,タイムリープしているのは猿人だけでなく,めぐみもなんですね…。猿人は飽きるという態度を取ったのですが,めぐみはひたすらに励ますという方法をとっていました。猿人はもうタイムリープが終わっていますが,エンディングでも「めぐみ」タイムリープはまだ続いているようで,あのポジティブが戦略として行われているとしたら,めぐみのタイムリープが終わった後の世界があるとしたら,めぐみがポジティブでなくなる可能性があるわけでちょっと怖いものを感じました。
  • 青沼さんが伏線たっぷりとTwitterで仰っていましたが,まさにそうでして,ムトちゃん幽霊と,タイムリープネタを念頭に入れつつ,2回目を観ると印象が変わるシーンが目白押しです。

4.キャストさんひとことコメント

勢いに乗ってきたので,このままキャストさんの役名とお名前を紹介しつつ,コメントを書きます(役名は当日パンフに準拠します)。

  1. エリコ先生(22)役の安崎ちひろさん。厳しめなスパルタ教師とおもいきや,0組の生徒を斜め上の方向から更生させようとする新人教師。ぶっ飛んだ役ですが,立ち居振る舞いや台詞回しから伝わる優しさがあって,本当は0組のことが好きなんだと思いました。モブ的に場面描写で登場するときも,主役級なのに,全力で表現されていたのが印象的でした。
  2. 猿人(17)役の中村猿人さん。タイムリープ3万回で感じた無力のために飽きて最近は何もしていない二年目の生徒。本作品の中では,静から動まで一番振り幅が大きく,しかも突発的なギャグを要求される恐ろしい役どころですが,縦横無尽に躍動されていました。
  3. リョウ(17)役の青沼リョウスケさん。股間のマジンガーZというパワーワードにこちらの頭がクラクラする,愚直に生きる0組二年目の生徒。毎回,何かしら物語上で,暴れ出す役者さんのブレーキ役になっていますが,今回は一切そのようなことはなく,本作品は前説から最後まで青沼ワールド全開でした。突発的なトラブルでさえ笑いに変えていくあたり,流石だなと思う次第です。
  4. 林(16)役の林廉さん。ドキドキすると月が降ってくるというまことに特殊な能力を持つ0組1年目の劣等生。床へのうずくまり方とか,好意を持たれていることを受け入れられないでパニックになる所とか,ポイントポイントでの演技がとても際立っていました。落ち込んでいるシーンとかは,笑うところではないはずなのですが,ついつい何回も笑ってしまいました。
  5. ユキ(16)役の玉一祐樹美さん。猿人の幼なじみで同じクラスになりたくて,0組に男装して乗り込んできた1年目の劣等生。お馴染みとなった台詞回しと身体の動きだけで繋ぐ長めのギャグシーンをはじめ,縦横無尽に駆けずり回っていらっしゃいました。デビルマンに身体を乗っ取られて,デビルスサーブをするという演技は,あとあと台本で見ると,果たしてどうやって演じるのかと「?」がたくさん浮かんできますが,もちろん舞台上ではこれらのシーンをキッチリこなされていました。そうするしかないですよね。
  6. ムトちゃん(37)役のムトコウヨウさん。実は死んでて幽霊になっていた0組10年目の劣等生。でも卓球がめちゃ強い娘を育てたスモールダディ。「溶けて解せない」以降は,割と抑えめなムトさんを観ることが多かったように思いますが,今回は全開フルスロットルで,多少不安があろうが,さつま揚げを最後まで押し切って笑いを取っていくムトさんの本領発揮を目撃することができました。物販の時に声を飛ばしかけていたようなので,千穐楽までノドが持つことを祈っております…。
  7. めぐみ(16)役のハルナカネコさん。ギャルギャル高校一年生で明るい黒ギャル。割とネガティブキャラが多い本編の中でも,最初から最後までポジティブなキャラ。この作品で肩の力を抜いて観られたのも,めぐみがポジティブなキャラだったからかもしれません。設定上,全キャラの中では動きは少ない方ではありますが,終盤の格闘ゲームの辺りを含め,躍動する箇所は結構あるのでご注目を。
  8. キャップ(17)役の当日ゲストさん。本日は河合亜由子さんがご登場でした。ゲストさんなのに,突拍子もないセリフや,身体をフルに使った表現満載で,なかなかに大変な役どころだと思いました。ライバルとして立ちはだかって,最後は父の幽霊と勝負するというだけの役なのですが,強烈な印象を残していかれました。

全編おふざけに見えるようで,鍛練を重ねてきた方々が全力で挑む世界がありました。もう一度書きますが,ストーリー自体は分かりやすく見えるけれど、だからこそ何かとんでもないものを見逃してるのではと思える作品でした。「This is the からまわりえっちゃん」と紹介したい作品です。残り3回の上演,最後までお怪我のないように祈っております。

stage.corich.jp

*1:前説時に青沼さんが「もし,三菱UFJに口座を持っていなかったら,僕の口座を教えるから終演後に聞いて下さい~」と言っていたのはスパイスの効いたすれすれのギャグで面白かったです。

*2:なお,このチームの「キャプテン」が毎ステージごとゲストさんとなっております。

*3:しかも観劇した回は途中でひもが切れるという大トラブルでえらいこっちゃ。