リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】コトリ会議 演劇公演16回め 「しずかミラクル」

どうも。イマイです。

個人的には6月上旬の大繁忙期を乗り切りまして,少しホッとしております。

1.はじめに 

何回か観に行っていたクロムモリブデンさんの無期限活動休止のニュースが飛び込んできて,最終公演を観に行けなかったことを強く後悔しています。演劇作品は観られる内に見ておこうと決意し,この6月は演劇を沢山見ることにしました。

今日は,昨年「あ,カッコンの竹」で拝見したコトリ会議さんを観に,駒場東大前のこまばアゴラ劇場までやって参りました。

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2.開演前

受付で当日精算の手続きを済ませて,待合室のチラシボックスをチラチラ見ていると,せんがわ劇場演劇コンクールのチラシが目に飛び込んできました。勤務先直近の劇場で行われる演劇コンクール,そういえば,今回はコトリ会議さんが関西から出場されるのでした。(当日用事が入ってしまい,見に行けないのがちょっと悔しいです…)

第9回 せんがわ劇場 演劇コンクール 7/14(土) 13:30コトリ会議 『チラ美のスカート』|調布市 せんがわ劇場 公演情報

客席開場とともに,舞台最前列の席に腰掛けました。かなり低い座席なので,足を組み替える必要が私はあったのですが,なにぶん最前列なので,とても快適な座席でした。開場とともに,劇団の名制作さんかつ役者さんである若旦那家康さんが,忠犬スーツに身を固めて,場内誘導を行っていらっしゃいます。

舞台に目を向けると,枯山水のような世界が前に広がっていました。

  • 舞台前面左右には細かい白い石が敷き詰められ,その上に枯れ木のオブジェが横たわっています。
  • 舞台中程から後方にかけて,小上がりのような正方形の舞台が組まれていて,正方形の舞台から上手側に細い通路が延びていて、途中から三段の階段が組まれています*1
  • 階段の下手側には石,そして枯れ木がひとつ生えています。
  • 舞台の周りには枯れ枝がしつらえてあり,正方形の舞台の一番下手寄り後方にはドアが一つ設置されています。そして,舞台上にはブランケットが一つ畳まれています。

少し寂しい印象があるこの舞台で,どのような物語が展開されるのでしょうか。東京公演は千穐楽がまだなので,ネタバレ防止の改行連打をしておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.物語のあらすじ

物語のあらすじはCorichに掲載されている最新版(!)*2によれば,以下の通りです。

25世紀。
地球は、無くなる一年前を迎えていた。
干上がった海を眺めて語り合う人間の男と宇宙人の女。
宇宙人は今日、人間から名前をもらった。
水のない、静かな海からとった名前「しずか」
宇宙人は喜んで、人間のことをたくさん尋ねた。人間の男はたくさん話した。
人間の戦争の歴史。日本の四季。神さまのこと。科学の発展。有名な小説。
ほとんどがもう、この世界からなくなったものだけど、一年後には、本当に全てがなくなってしまうけれど、人間の男は宇宙人の女に聞かせてやった。
なんでも、無くなってしまって構わない。
この宇宙人の女は、今、ここで喜んで聞いてくれた。
それが、男にとって大切なことだった。
宇宙人の女が死んだところから、物語は始まる。
( http://stage.corich.jp/stage/89399 より引用)

舞台の最初は,このあらすじに書かれているシーンから始まります。宇宙人の女「シズカ」が一人で通路の階段に腰掛け,スポットライトがゆっくりゆっくり,少しずつ少しずつ女を照らし出していきます。シズカは波の音「ざあぶざぶ,ざんざん」を繰り返し口まねします。そこへ男「とおる」が語り掛けます。海はもうなくなってしまったこと,海が昔は深かったことを語りながら,砂浜に建つ海の家の前で二人は静かに語り合います。

ほどなくして,海の家の客前に場面が変わります。シズカが寝ているところにとおるが不安そうにのぞき込んでいます。そこへ2人の宇宙人「ジョン」と「ハト」が訪ねてきます。やりとりをする中で,シズカが死んでしまったこと,ジョンとハトはとおるがシズカを手に掛けたのではないか疑いを持っていることが明らかになります。そして,砂浜の家の床下にずっと前から住み着いている女の住人「ちえこ」も話に加わってきます。

場面は変わり,2人組の男女「村上」と「文代」が大慌てで,上手の枯れ木に駆け寄ってきます。村上は時間トンネルを作り,元の時間へ帰ろうとします。一方,文代は「君江」という一緒にこの時代に来た女の子のことを心配しています。村上ひたすらに元の時間へ帰ろうと焦り,文代は君江をどうするのかと問いただし,押し問答になります。結局二人は,時間旅行の時に必ず飲まなければいけない「タイムトラベル薬」を散逸させてしまいます。

海の家に,勢いで飛び込む二人。そこへジョンとハトが現れ,時間旅行は重罪であること,宇宙人が地球を滅ぼした理由は時間旅行を止めない人類が原因だったことが告げられます。

様々なやりとりがあった後,ようやく宇宙人に中途半端に改造された「君江」が宇宙人に改造された名犬「ポチ」とともに登場します。この物語はどう収束していくのでしょうか。劇場でぜひ目撃してみてください。

4.感想

初日アフタートーク山崎健太さんの劇評を伺っていて,「そうそう,仰るとおり」とひたすら頷きながら同意していました。同じような感想を書くのは気恥ずかしいのですが,せっかくなので思いついたことを全部書いてみたいと思います。

  • 開演直後の,シズカ役の三村るなさんに,BGMもなく,じわりじわりとスポットライトが当たっていくところが実はとても好きでした。最前列からでないと分かりにくいのかも知れませんが,少しずつ強くなっていく光を観ているだけで,気持ちが盛り上がっていたのを覚えています。
  • それから,階段前でのとおるとシズカのやりとりがとても引き込まれる魅力がありました。派手なシーンではなく,むしろ静かなシーンなのですが,とても演劇らしいというか,非日常に引き込まれる魅力がありました。
  • とおる役の大石英史さんは確か,劇団壱劇屋さんのWindows5000で拝見して以来だったのですが,落ち着いた台詞回しがちょうどこの冒頭のシーンにピッタリでした。
  • ちょうど日曜日に能の舞台を観てきたばかりだったので,通路の箇所を橋掛かりではないかと考えていました。さらにアフタートークで山崎さんはこの世とあの世の区別があの通路にあったのではとの分析もされていて,思わず首を縦に何度も振って同意したほどでした。
  • 作品全体はSFなのですが,SFとカテゴリをつけることがためらわれる感じの曖昧さというか,区別とか境界線がふわっとした感じがあります。ちょっと涙を誘うかなと思った直後に,すかされたりするので,拍子抜けするとこもあるのですが,でもそのあたりがなんだか愛おしくなります。
  • 滅亡する世界は大騒ぎに描かれがちだと思いますが,淡々と静かに壊れていくこともあるのかなと思うほどに「シズカ」な世界が魅力でした。
  • アフタートークで明かされた事実ですが,何でも大阪公演とかなり変えたシーンがあるとのこと。例えば海の家で,のたうち回るとおると村上に向かって,シズカと文代がはやし立てる台詞は大阪では「かっこいいよ」の繰り返しだったそうですが,東京では「かっこいいよ」「許さないよ」の組み合わせになっています。あと,大阪では,終盤でとおるとハトは対決し,君江が止めに入るという設定だったそうですが,東京ではそれ以前に君江はとおるに銃で撃たれていて,とおるとハトの対決は最後までありませんでした。大阪版をもし私が観ていたら印象は大きく違っていたと思います。
  • ラストシーンは,それまでの破天荒さを忘れてしまうような暗さや静けさの中で,穏やかにとおるとシズカの間で言葉が交わされるシーンでした。ひと言で説明するのは難しいですが,儚さに包まれたステキさがそこにはありました。
  • 日曜日に能の舞台で,「静」へのアンテナ感度が上がっていたこともあったのか,細かい所まで魅力に気づけたので,個人的にはとても満足です。

1回で良いかなと思っていたのですが,本気で2回目を観られないかどうかを検討しております。ステキな作品です。

stage.corich.jp

*1:アフタートーク山崎健太さんが能舞台の橋掛かりを意識されていたのですかと,演出の山本正典さんに伺っていましたが,山本さんによれば特に意識していた物ではないとのこと。

*2:何と,仮チラシ版,最初の2つもそのまま掲示されています!