リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】劇団『劇団』特別企画公演 植木歩生子一人芝居「スプライサー」

どうも。イマイです。

並み居る仕事とイベントのお誘いを蹴っ飛ばしつつ,今月も新幹線に乗って大阪に行っています。 今回は,昨年7月と9月に池袋で旋風を巻き起こした劇団『劇団』さんの新作公演を観に行きます。毎回何かしらの挑戦をしてくる勢いのあるゲキゲキさんですが,今回は一人芝居とコメディーの2作品公演です。

今回の劇場は大阪,長堀橋のウイングフィールドという劇場。初めて伺います。こちらのログでは,「スプライサー」の感想を取り上げます。本当は劇場前のフライヤーを撮ろうと思ったのですが上手く撮れていなかったので,公式からフライヤー画像を転載いたします*1

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参照元 : https://www.geki-geki.com/next-stage )

 

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1.開演前

5階で受付を済ませ,6階への階段を上がります。 舞台に目をやると,「思い立ったら期日」とは打って変わった雰囲気のセットが組まれていました。舞台後方にはパーティションが2枚つるされており,金属の網がパーティーションには架かっています。同様のパーティーションが上手と下手に3枚ずつつるされ,こちらは白から灰色の細長い布が幾重にも垂れ下がっており,生い茂った草むらにも,見方によっては霧のようにも見えています。上手側には四角の箱が2つ,上手側には脇に引き出しの付いた4段ほどの階段が置かれています。

前説では主宰の古川剛充さんが登場,舞台上の注意と共に本作の一人芝居に主演の植木さんが,命を削って挑んでいる旨が語られました。私はきちんと作品を味わおうと,ぐにゃと曲がっていた背筋をぴんと伸ばしました。

2.あらすじ

 以下,ネタバレ防止のため改行を連打します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇のあらすじは下記の通りです。

1900年初頭、
キネマトグラフの開発を機に
急速な発展をみせたフィルム市場。
先進国の事業家ハイクは
日々新たな映像素材の入手に世界中を飛び回っていた。

ある日、数枚の連なるフィルムの断片を見つけた彼は、
美しい女性の姿を写したその写像に興味を惹かれ、
撮影地ザクセンを訪れる。

しかしそこは数十年前に激戦の舞台となり、今はもう死んだ街だった。

戦争の爪痕を残す荒れ果てた地で、彼は断片の続きを探し始めるー。

未完成のフィルムの中に永遠を閉じ込めようとした、
一人の女性と一本の映画に纏わる数奇な人生の物語。

( https://www.geki-geki.com/splicer-site より引用)

「切って貼って繋ぐ,切って貼って繋ぐ」,祈りのように繰り返すストーリーテラー。物語は20世紀前半,ラジオが登場し,映画の危機と言われた時代。映画に夢を託した人々があふれかえった時代のフランスから物語は始まります。

事業家ハイクの元に突然届けられたフィルムの断片,そのフィルムに映し出された女性の姿を追い求め,この映画の続きを観たいとの願いから,助手と共にハイクは撮影地であるザクセンに向かいます。ところがフィルムの女性が出迎えるどころか,街はすっかりと廃墟になっていて,誰も住まない街になっていました。しかし,その街の中で突如として聞こえる手巻き映写機の音。

その音に引かれて二人が建物に入ると,そこでは老婆が一本の映画を上映していました。映画に映し出されているのは,あのフィルムで登場した美しい女性でした。映画作品というのは,余りに日常的な貴族の生活が映し出されるだけの映像。しかし,ハイクはその映像を見て,違和感を感じます。前半は左利きだった女性が後半では右利きになっていることに気がついたハイクは,この間に何か事故があったのではないか,あるいは別人にすり替わっていたのではないかと老婆に問いただします。

老婆は静かに語り始めました。それは映画に残されなかった歴史,語られてこなかった20世紀初頭の舞台裏でした。老婆が語る女の子と,女の子から20歳年上の大金持ち,そして女の子の幼なじみ,そして老婆の4人が中心となって,なぜこの映画が作られたのか,背景が語られていきます。

大金持ちの要望によって,貴族として振る舞おうと努力し,亡き妻を演じようとする女の子。嘘を真実として演じる二人の間は,当初は穏やかな時間が過ぎていきました。しかし,幼なじみが街へ帰ってきて,女の子に思いを告げようとするあの日から,物語は少しずつ破綻を迎えていきます。

なぜ,街は滅びてしまったのか,老婆は何者なのか…。その答えや結末は是非劇場で目撃して下さい。

3.感想

  •  今回,前売り通常料金が2500円だったのですが,おそらく4倍の価格でも私は観ていたのではないかと思うくらい,舞台に引きつけられる作品でした。2回目が観られないのが心から残念だと思うほどでした。
  • セリフ量はひたすら膨大で,冒頭数分は早口でまくし立てられていくのですが,その表現から,どんどん物語の世界に引き込まれて行きました。
  • 主宰の古川さんが映画を以前撮っていたという背景があったからかもしれないのですが,本編に流れる映画愛,そして映画という記録に残されなかった歴史という題材やモチーフが,迫力を持って私の心をえぐってきました。
  • 主演の植木さんは,劇団ショウダウンさんやゲキゲキさんの本公演で,ヒロインや勇ましい戦士の役柄を何度も拝見していたのですが,これほどまでに沢山の引き出しをお持ちなのかと思うくらい,千変万化の演じ分けでした。特に低い声の迫力は特筆ものであり,宝塚の男役さんを思い浮かべるほどの魅力がありました。こんなことは起こらないはずなのですが,照明の切り替わりタイミングで,植木さんであって植木さんでないような,まるで別人が演じているのではないだろうか瞬間が複数あったことも印象的でした。
  • 舞台上の階段が効果的な使用方法で,割と平面になりやすい一人芝居の舞台に,上下移動というアクセントを加えていました。
  • 照明や音響も非常に印象的なタイミングで用いられており,特に終盤に後方から2本のスポットライトだけで照らされるシーンは,暗いシーンのはずなのに,イメージをかき立てるような鮮やかさがありました。
  • 小西さんの脚本も綺麗で印象的な言葉が多数並んでいて,しっかりとメモを取っていないので,この通りかは分かりませんが,「水を知らない獣が湖の大きさを推し量ることができない,恋を知らない女の子が本当の愛を見分けることができない」という台詞は,1回しか登場しない台詞なのですが,うろ覚えでもブログに書きたくなるほど,美しい表現でした。正直,8月公演限定で台本を売ってくれるなら,その場で5冊買って,1冊を分析で書き込む用,1冊を保存用,1冊を普段読む用,残り2冊を布教用に使いたいくらいの魅力があります。
  • 物語の中盤で,大金持ちが亡き妻の姿を追っているあたりで涙がグッとこぼれてきました。おそらくは悲哀に満ちた男性の叫びに自分を重ねたのだと思います。そして物語の終盤で,女の子の避けることができなかった悲しき運命に,また涙の流量は増していきました。
  • しかし,観終わった瞬間,背筋にゾッとした感覚がありました。ハイクと大金持ちが父と子の関係であったとするならば,あのハイクの行動は父と重なってはいないのか,もしや父親の罹っていた狂気にハイクも罹っていたのではないかと考えたからです。父親も母親もこの世にいなくなったのにもかかわらず,二人の残した呪いから解き放たれるどころか,真実を知ることでより縛られてしまうということがあるのだとしたら,この物語はハッピーエンドどころか,To be continuedであり,終わらない悪夢であるとも考えられるからです。
  • もうちょっとこの考察を補足します。ハイクの行動は真実を初めて知ると言うよりはむしろ類推を補強する行動でした。最後の「部屋の中から音がする」という台詞以降は考え直すともの凄く恐ろしいシーンでした。老婆が認識していない(=知っていたら種明かしをしているでしょうから)のに,母親が生きているとハイクが認識することは,かつて父親が死んだと思っていた妻を追い求めようとした行動に重なるからです。つまり,奇しくも父親と全く同じ行動を取っていたわけで,この行動の結末はハッピーエンドではなく,狂気に満ちた破滅が予想されます。
  • ストーリーテラーであった物書きが敢えてその先を語らなかったのは,単に観客に対して想像を膨らませるというリップサービスの意味もあるかと思いますが,破滅だからこそ敢えて語らないということも考えられるなーと思います。記録に残されなかった物語を見つめてしまったことで,いわゆる深淵に覗き返されていたのかなと。
  • こんな感じで,一筋縄ではいかない複雑さも持ちながら,表面としてのカッコ良さ,敷居の低さも併せ持っていて,不思議な魅力に満ちた舞台でありました。まあ,とにかく観終わった瞬間にあれこれ言葉を尽くして語りたくなるほど,沢山の引っかかりどころが用意された作品です。公演DVDはもちろん予約しましたが,近い将来再演があるのであれば,何とか時間を調整して見に行きたいと思うほどの力を持った作品でした。

絶賛じゃないかと思う方,はい。絶賛です。正直,この再演も観て見たいですし,ゲキゲキさんの他のキャストさんでこの演目を観てみたいと思うほどの力を持った作品だと思います。公演DVDが到着するのが待ち遠しいと思える作品です。超おすすめな作品です。

www.geki-geki.com

stage.corich.jp

*1:問題がありましたらすぐ消します…