リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】いいむろなおきマイムカンパニー「doubt-ダウト-」

どうも。イマイです。

ダンスとかバレエとか,ご厚意で拝見することが多いのですが,キレイとか凄いとか,いつも以上に感想を述べるときの語彙力が無くなる自分を何とかしたいです。

さて,本日は先月末にメビウスに熱演されていた三浦求さんが出演される,いいむろなおきマイムカンパニー「doubt-ダウト-」を拝見しに,東京駒場こまばアゴラ劇場までやってまいりました。

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いいむろなおきマイムカンパニーさんは,壱劇屋の大熊隆太郎さんがかつてパントマイムの技術を学んだというだけの事前知識しかないのですが,たぶん面白いに違いないだろうと思って,勇気を持って事前予約で乗り込みます。

www.lmaga.jp

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開場時間に少し遅れて劇場に到着,受付を済ませて2階の劇場に入ると,舞台上には白い正方形の箱が7つ置かれています。これ以外には黒い幕が張られている非常にシンプルな空間が広がっています。

分厚い挟み込みのチラシを眺めているとあっという間に開演時間近くになりました。開演前の注意アナウンスでは,どの劇場でも恒例となったスマートフォンの電源オフのお願いが行われます。鞄の中でマナーモードのバイブが鳴ると,当人と周りのお客様がそわそわすると言うアナウンスは,他ではないなかなか踏み込んだアナウンスだと思いました。

公演の説明は以下の通りです。ちょっと長いですが,公式Webより引用します。

「カオが見えるか、見えないか」
 
マイムの訓練の方法として顔を完全に黒いマスクで覆って表情を消すというものがあります。
元々言葉を使わないマイム...さらに顔のわかりやすい表情を使わず、身体で表現できるようになるための、
ある意味「大リーグボール養成ギプス」(古い!)的な訓練方法です。
 
もちろん顔は表情が一番わかりやすく出るところなので、それを奪われた演者は必死で身体を使うわけなのですが、
これは見る側にも違った影響を与えると思っています。
大抵の場合、観客は演者の顔を中心にその身体を見ていると思うのですが、顔を完全に覆ってしまうことで、
その視線の中心は、自然と身体にフォーカスされると考えます。
そして、そこから表情で読み取れない何かをつかもうと観客も想像力をフル回転させる...そんな効果もあると思っています。
 
今回の新作「doubt-ダウト-」
ニュースやSNSの向こう側、もしかしたら地球の裏側の顔の見えない人たちや見たことのない場所のことを想像していくお話です。
 
見えるもの、見えないもの...見えるものを少し疑い、見えないものを想像する...そんな僕の頭の中にある
ことを、少し可愛らしい寓話のように並べていきたいと思っています。
 
doubt...本当にそんな可愛らしい作品になるのか?
それもちょっと疑わしくはあるのですが...。
 

いいむろなおき

http://mime1166.com/stage/archives/32 より)

 

では,千穐楽前なのでネタバレ防止の改行連打をします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の舞台の様子はPVで一部が公開されています。もし見逃した方は是非こちらをご覧下さい*1

www.youtube.com

客席が暗くなり,舞台の序盤ではそしてブラックライトの照明でほぼ暗闇と同じような状態の中,ブラックライトに反応する手が2つ舞台上に浮かび上がります。両手をただ動かしているだけなのに,気がつけば手ではなく,毛羽だった鳥がその場で羽ばたいているかのような錯覚に陥りました。

舞台が明るくなり,今回の全キャストが登場し舞台上でダンスをします。この動きも一つ一つがメリハリが凄く付いていて,例えば,進行方向前方から拳が迫ってきた際に急ブレーキして避けようとするときも,立ち止まるというよりは,自転車で急ブレーキを掛けたときのような制動がハッキリ見える止まり方をします。

気がつけば,私は口を半開きにして,セリフは全くなく,小道具もない目の前の「凄いもの」にただただ見とれていました。舞台上でのダンスシーンは数多く観てきたのですが,半開きにして見とれていたのはたぶん初めてだったと思います。少なくとも今までに見たことのないもの,初めて見るものであることにただただ驚いて,嬉しかったのだと思います。

再び舞台が暗くなり,複数の白い手袋もとい白い小鳥が羽ばたき,ランデブーを始めます。まるでコンピューターグラフィックスで舞台上の暗闇に合成しているかのように見えて来ます。そして5羽の小鳥が形を変え,本公演のタイトルである「doubt」を描きます。自分の顔が思わずにやついているのが分かりました。カッコイイ。

再び舞台は明るくなり,舞台上にはいいむろなおきさんが黒いマスクをかぶって宙から降ってきます(これは本当に宙から降ってきたように見えるムーブです)。1つの白い箱に腰掛け,アタッシュケースを眺めつつ,中に入っていた地図のような紙片を眺めています。

黒いマスクに覆われているから表情は全くうかがい知れないのですが,腕や頭の向き,身体のひねり方など全てを駆使して,戸惑いや焦り,困惑などが全て分かるようになっています。まさにノンバーバルコミュニケーションが展開されています。

舞台上はやがて列車の車内に切り替わり,多くの乗客が乗車してきます。戸惑う主人公の周りには代わる代わる客が着座し,そして下車していくのが分かります。終着駅とおぼしきところで車掌に肩を叩かれ,主人公が顔を上げ,紙片を見せようとすると,車掌はそれを断り,他の方向へと腕をさしのべます。

その瞬間,電車ではない街の雑踏が現れ,主人公は紙片に書かれた目的地を目指して歩き始めます。紆余曲折しながらたどり着いたと思われる場所,そこからまたループして列車内に戻る主人公,果たして真の目的地に主人公はたどり着くことが出来るのでしょうか。結末は舞台上でぜひ目撃して頂ければと思います。

終演後に三浦求さんに面会できて「面白かったですか?」と問いかけられて,すぐさま「見に来て良かったです!」と申しあげるほど,素晴らしい舞台でした。終盤,でたらめ外国語でキャラクターたちが争う以外,声すら発することが皆無でありながら,それでも物語の大筋だけでなく,キャラクターの喜怒哀楽でさえ,声を使わなくても伝わるのだと発見することが出来ました。

結構PVからの印象だとシリアスな舞台のようにコメディチックなシーンも数多くちりばめられています。多くは滑稽な動きのリピートで思わず笑ってしまう感じなのですが,紙片をめぐる不条理な扱いとか,分かりやすい三角関係のもつれとか,多彩な笑いの場面がちりばめられています。

それぞれのキャラクターの癖(例えば,よだれを拭き取るムーブなど)がハッキリしていて,非常に見やすい舞台だと思いました。劇団壱劇屋さんの「五彩の神楽」に外国人の方が来訪されたことは先週触れましたが,こちらの舞台も観劇した回に外国人の方がいらっしゃっていました。言葉がないからこそ,伝わりやすい見やすい舞台というのがこの世界にはあるのだと認識できた作品でした。

そういえば,終演後の壱劇屋さんの舞台稽古場面で登場して以来,機会があれば手に入れてやるぞと意気込んでいた「黙劇」Tシャツを無事手に入れることが出来ました。カッコイイ。万が一舞台稽古なんかをする日が来たら,まず身につけてみたいアイテムです。

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自分が観ているこの身体の動きについて適切な言葉を出せない,知らないということが思わずもどかしくなるくらい,自分にとっての新しさに満ちた舞台でした。こういう新しさを発見できる作品に出会えるからこそ,観劇趣味はやめられません。

まだお席はあるようですので,お近くの方は是非に。

mime1166.com

stage.corich.jp

*1:台本とかDVDが物販で売られていないので,今回の観劇ログを書くに当たって記憶を掘り返すのにとても助かりました…。