リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】満月動物園 第弐拾八夜「レクイエム」

どうも。イマイです。

青いスポットライトが一番好きです。上演前の舞台に一つスポットが照っている状態をみたらそれだけで盛り上がれるくらい好きです。

今日は久しぶりの満月動物園さんです。西原さん出演,戒田さん演出のindependent一人芝居を観たのがこの前ですが,劇団さんとしては観覧車シリーズの最終作以来です。今日も大阪日本橋のシアトリカル應典院にやって参りました。

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本作はシアトリカル應典院で展開される演劇祭space x dramaの一環として上演されています。そのため,劇場入り口はこのように幟が立っていて固有のフライヤーが掲示されておらず,一瞬会場を間違えたかなとビックリしたのはここだけの内緒です。

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1.space x dramaについて

今回,満月動物園さんが参加されている演劇祭space x drama○は,これまで14年間開催されてきた演劇祭の集大成,いわば最終回として開催されています。会場ロビーに入るといつもの劇団さんの受付以外にこんな催しも行われています。

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なんと,他の劇団であるステージタイガーさんが会場でホットドックを販売しているのです。今回ステージタイガーさんは客演されている方はいないのにも関わらずです。高校とか大学の文化祭のノリを思い出して,気がついたら1つ買い求めておりました。

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トッピングもかなり豊富な感じで,好きなものを好きなだけとのこと。「それぞれの人の宇宙を表現して頂きたい」との売り文句には思わずグッときました。とても美味しかったです。昼公演だけでなく夜公演でももう1回買い求めるほどでした。

受付を済ませて,客席に向かう階段を上り,お地蔵さんを左に観ながら2階へと上がります。

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2階に上がる階段の右手を観ると,いつもと何か様子が違います。よく見ると色々な劇団さんのフライヤーが掲示されています。

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これほど多くの劇団さんがspace x dramaに参加されていたとはと驚きました。一度も訪れたことがないのはもったいなかったなあと思いました。フライヤーは2階の柱まで続いていて,その気持ちを強くしていました。

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あれ?何か見たことのあるフライヤーが…,space x dramaに来るのは初めてだなと錯覚していたのですが,2012年に月曜劇団さんの「SF」を観に来ておりました。失礼いたしました。その時はまだちゃんと記録を取る癖がありませんでして(←言い訳

「アーカイブ×スペドラ」第10回 ~space×drama2012 | 應典院舞台芸術大祭 space×drama ◯ スペースドラマ わ

さて,客席に入るまでの間にだいぶ盛り上がって文字数を使ってしまいましたが,そろそろ本公演の話に入りたいと思います。

2.あらすじなど

客席に入ると,舞台中央に青いスポットライトが1つ。舞台上を照らしています。一段上がったところに長細い木の板を組み合わせた床と壁が組まれています。木枠の箱が4つ置かれています。満月動物園さんの舞台ではよく見かける箱が置かれています。

BGMにはギターの曲が使われていて,落ち着いた雰囲気になっていました。開演時間になると,この曲がジャズのような曲に変わり,そのまま役者さんが舞台上に登場し,物語が始まります。

千穐楽前ですので,恒例となりましたネタバレ防止の改行連打をしたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語のあらすじは下記の通りです。

「私たちが埋めたタイムカプセルを一緒に掘りに行きませんか? ハマダヨウコ」 同窓会前日に届いた一通の手紙から、その悲劇は始まった。シヌキデオモイダセ。 丸尾丸一郎の怪作・伝説の監禁ホラー劇「山犬」が、戒田竜治演出により満月動物園の「レクイエム」となって甦る。 大阪箕面市にある女子校のコーラス部OBに、恐怖の歌声が迫り来る……。

https://stage.corich.jp/stage/82271 より引用) 

 幕が上がるとキャストさん達が集まって,ある歌をアカペラで歌い上げます。楽しげに何人もで斉唱する様子が続くかと思いきや,急を知らせる音楽が鳴り,ストロボ光の中,「或る女」がダンスを踊り始め,チェンソーを持った男が乱入し,男性を守ろうとして女性が庇いシーンへと切り替わります。女性が傷つきながら,舞台上を去る中,服部先生と後に呼ばれる男性が語り始め,物語が開始されます。

箕面市(みのおし)の駅前,かつてこの地域の女子高でコーラス部の顧問をやっていた服部と呼ばれる教師が立っています。手には招待状を持っています。そこへコーラス部の部長であった石橋直子から電話がかかってきます。服部に好意を寄せている会話をひとしきり行った後,招待状の話題が出てきます。

招待状には10年前のタイムカプセルをあけるために,本日行われる同窓会の後,ちょっと集合しようと書かれていました。差出人の名前はハマダヨウコ。しかし二人には全くハマダの記憶がありません。服部先生は同窓会会場に向かう道の途中,ハマダユウコと呼ばれる市の職員に出会います。観光案内でもしましょうか,いや私はここが故郷でしてとありきたりな会話を交わしながら,少しずつ昔の話が舞台上に現れてきます。

同窓会の会場は居酒屋「箕面の滝」でした。会場を手配したコーラス部員の川西亜紀が,同じく部員だった中曽根純子と桜井萌ととも酒盛りを始めようとしていました。ビールを持ってくる店員は,コーラス部の部員だった山本雲雀(ひばり)。バイトながらこの店の店長をしています。

そこに,服部先生が顔を出すのですが,あからさまに川西たちは服部を毛嫌いします。あの日,服部のせいで合唱コンクールに出られなかったと口汚くなじり,席を変えて離れて行ってしまいます。来なければ良かったなとぼやく服部のもとに,石橋とひばりがあつまり,ひとしきり会話をした後,例の招待状の話になります。誰も記憶がない,ハマダヨウコからの手紙…服部の携帯に一本の電話が入ります。ハマダヨウコは先に行って待っているとの電話でした。

学校裏手の山に登り,タイムカプセルが埋められている場所へと向かう3人。タイムカプセルを開けながら,言い争いしながら過去を振り返り,他愛もない同窓会は終わるはずでした。しかし,三人が普通に山を下りてくることはできず,謎の襲撃を受け,山小屋へと監禁されます。かつて,女子校の食堂で勤めていたコックが犯した連続バラバラバラバラ殺人の現場である山小屋,そこに閉じ込められ錯乱する中で,3人が語る物語とは,そしてハマダヨウコとは誰なのか…。物語の結末は劇場で目撃して頂ければと思います。

3. 感想

まず何より先に申し上げたいのは,これだけ重い話でちょいとスプラッタ系の表現があってハッピーエンドな結末でもないのに,観劇後は重荷を降ろしたような爽やかさがあって、不思議な感じがしたことでした。二回目の観劇をする中で,色々その原因を考えていたのですが,今のところの解釈としては,次のようなことを考えています。あの物語の中では,登場人物達の過去の悪事が白日の下にさらされて,意図しているか否かにかかわらず,それぞれが懺悔し,他の登場人物に受け止められています。

演劇においては観客は特段の指定がない限りは,神の視点から見下ろしていることが前提となっているのですが,まるで登場人物達が自分たちの犯してきた罪を告白していて,それぞれの登場人物は物語の中でそれぞれの文脈で赦されているのではないかと感じています。そこまで踏み込まないでも,登場人物達の伏線がほぼ残らず回収され,見通しの良い状態でラストシーンを迎えたことがそう思わせているのかも知れませんが,私はこの舞台のタイトルが初演時の「山犬」ではなく,「レクイエム」というタイトルを冠されていることを踏まえて,前者の考え方をしておきたいなと思います。

それから,満月動物園さんならでは優しさや笑いもちゃんと織り交ぜられていて,「に」と「く」の間に挟まる言葉シリーズは,切羽詰まったシーンでありながら爆笑できるシーンになっていて,もうなんだかズルいという感じでありました。

 あと,終盤のコックが用いたチェーンソーのエンジンの匂いがハッキリと分かるレベルで客席に流れてきたのは,小劇場ならではの臨場感があって,私はとても印象に残っています。

いくつか残された物語への余白へも思索を巡らせてみたいと思います。例えば,ラストシーンで猫は人になれたのかという点は大変興味深い余白です。あのシーンで服部先生を守ったのは猫なのか,それとも或る女だったのでしょうか。私は後者の人間になれたという解釈で考えています。もちろん猫だったときの修正は抜けていないので,服部先生にまるで猫が動くように接してはいるのですが,人間だと考えています。

それは,もう一つの余白とも関わっています。それはラストシーンで舞台セットの後ろが一度開き,白い幕が見えた後にまた閉じられるシーンの所です。私はあのシーンは2つの意味があると思っていて,1つは山小屋の出口が開いたという意味,もう1つは服部先生がハマダのことを忘れていた罪が許されたという意味です。出口が開くためには,ハマダの姉が開けに来るか,それとも何か別の出口が開かないといけないわけですが,私は「或る女」が助けに来たことで出口が作られたと考えてみました。もちろん猫が普通に助けに来て,ラストシーンではハマダの幻影が見えて服部先生は懺悔しました,山小屋の出口が開いたかどうかは分かりませんでしたとするのが素直な解釈なのですが,私としてはそこまで考えた方が落ち着きが良かったので,こちらの解釈を取ろうかと思います。

 

4.キャストさんへのメッセージ

では,まだブログを書く時間がありそうなので,出演者の皆様の役名を紹介しつつ,それぞれの見所を紹介申し上げたいと思います。

  1. 山本雲雀役の西原希蓉美さん。いつも笑顔のピュアな役どころが多い方ですが,今回は復讐劇も成し遂げる影を持った役どころでした。いつものピュアな役どころかなと思わせるシーンがちりばめられているが故に,狂気に駆られたシーンではより一層増幅された怖さがそこにありました。
  2. 石橋直子役の丹下真寿美さん。物語を振り回す部長そしてキャバクラ嬢としての虚栄に満ちた役どころを,ハッキリクッキリとした台詞回し,そして機敏な動きで的確に表現されていらっしゃっいました。良く思われたいという気持ちが前面に出すぎて,嘘という罪を重ねていくうちに自分すら見失っていくさまは何か悲しい者すら感じました。
  3. 服部先生役の戎屋海老さん。調子に乗っていたはずの10年前と,乗り越えられない過去を抱えている今を,義足故に足を引きずるという動き以外でも台詞や雰囲気が包んでいて,どこか悲しい役なのですが,最後に思い出すことで救われたのだなと思います。教師としての振る舞いは周りからはなじられていますが,同業者としてはあれで正解だと思いますし,人ごとではないなと冷や汗をかいております…。
  4. ハマダヨウコ役の河上由佳さん。不器用で服部先生への恋心を伝えられないまま,先生を庇って車に轢かれてしまう可哀想な役どころ。でもコックに両親を殺されたことを知っているのにもかかわらず,カレーをご馳走してもらった時には御礼を言い,最後には殺さないでと言わず,犯行を受け入れるという心の広さを持っています。あの物語の中で一番一途で一番優しい役なのではないかと思います。体操服のシーンでこの上なく恥ずかしがっている様子がちょっと可愛かったです。
  5. 或る女役の諏訪いつみさん。最初の歌うシーン以外は台詞らしい台詞が一切なく,踊りと身振りだけでその後のシーンは全て登場してくる役どころです。特に私は物語のポイントポイント,様々に光る照明の中でダンスをしながら場面転換をしていくところがとてもカッコ良くて美しく,すっかり見とれておりました。会話で進んでいく中にダンスが一つのアクセントにもなっている素晴らしいパフォーマンスでした。
  6. コック役の近藤ヒデシさん。もっと飄々とした役をイメージしていたのですが,今回はとにかく目を見開いている様子がひたすら恐怖を感じる役どころでした。歌を歌いながらカレーを作るシーンは最初こそコメディチックに聞こえるのですが,終盤になるにつれて「…やばい,この人本当に殺している」と感じるようになり,恐ろしさが増幅されていきました。チェーンソーでハマダヨウコをバラバラにしていくあたりは多分相当立ち回り的に難しいのかと思いますが,迫力或シーンでした。
  7. 川西亜紀役の中村ゆりさん。観覧車シリーズではひょうきんな役どころだったのですが,今回はコーラス部の中で「一般人」として,服部先生や石橋やひばりの犯した罪の大きさ(=簡単には赦されない)を印象づける,的確な嫌味をぶつける役どころでした。酒盛りのシーンでは人生に対して上手くいっていない感じが強く出ていて,事件の影響はかなり大きかったのだろうなと推測した次第です。
  8. 中曽根純子役の笹川未希さん。出番としてはそれほど多くありませんが,おそらくはコーラス部の中でまともな幸せを掴んでいるタイプのキャラクターかと思います。育ちがよさそうな感じの品の良さが印象に残っています。
  9. 桜井萌役の湯山佐世子さん。ロリータファッションで王子様を夢みながらも,割と普通の母親生活を送っていて,事件の影響を引きずっていながらもそれなりに幸せを掴んでいるキャラクターでした。可愛らしい印象が強く記憶に残っています。
  10. 声の出演で登場された乃神亜衣子さん,原典子さん。おそらく猫の心の声と,ハマダユウコの電話の声をやっていらっしゃったかと思います。キャスト表を最初に見たときには本当に一部の出演からと思いきや,がっつり台詞がございました。猫の声は常に寂しそうな雰囲気があって,ラストシーンではやっと守れたことへの喜びが強調されていたように思います。

久しぶりの満月動物園さんを拝見したのですが,やっぱり「メルヘンで優しくて,ハード」というキャッチフレーズがピッタリの魅力がそこにはありました。観覧車シリーズの号泣とかそう言ったものとはまた違うのですが,色々思い出しながら味を噛みしめる面白さが本日の舞台にはありました。

何とか予定を調整して,拝見できてとても幸せでした。また新作でお目にかかれるのを楽しみにしています。

www.fmz1999.com

stage.corich.jp

おまけ:

終演後にロビーに行くと,baghdad cafe'の皆さんが「バグのかふぇ」というカフェスペースを作ってくださっていました。100円で飲み物を頂き,その場にいらっしゃった石田1967さんやステージタイガーの皆さん,baghdad cafe'の皆さんと関西小劇場が楽しいという話をして参りました。

大阪遠征時は特にそうですが,終演後に私はぼっちでTwitterとかブログに感想を書くだけのことが多いので,こういう機会はとても嬉しかったです。うっかり話しすぎて謙虚さが足らないようなことをしでかしてないかが,ものすごく不安ですが,空飛ぶ観劇部で拝見していて憧れの泉さんや一瀬さんを間近に感想を語れる幸せ体験をして参りました。ありがとうございました。

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