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リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】とっとと「いとま」

どうも。イマイです。

ご贔屓の劇団さん以外の観劇のきっかけというのは巡り合わせとか,偶然によるものが大きいです。

今回会議のスケジュールを一週間勘違いしていて、日曜日のお昼が偶然空きました。何かお芝居でも見るかと思い、Twitterを眺めていたところ、フォローしていた役者さんの書き込みが目に留まりました。

その役者さんとは、根本沙織さんと、山口敦司さんです。お二人は昨年、劇団ショウダウンさんの「パイドパイパー」に出演されていました。

パイドパイパーでは,根本さんはアーシェという変人に振り回されながら最後は大きな選択を迫られる諜報機関の女スパイ,山口さんがイグリッドという歴史の教師でストーリーテラーかつ実は最後の大ボスという役でした。同作品は先日ポストしたように未だにお気に入りのシーンをDVDから再生するレベルで気に入っておりまして、お二人の作品が見られるのであればと予約のメールを打ち込んでおりました。

というわけで、東京は新御徒町駅からすぐそばのGallery & Space しあんという場所にやってきました。

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 新御徒町の駅に降り立つとそれまで曇天だった空は晴れ上がっておりまして,すっかり夏の気候になっていました。周辺はオフィス街のようで,日曜日は飲食店も閉店というところが多いところ。都立白鴎高等学校がすぐそばにあります。

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開場となっておりますGallery & Space しあんは元々は築60年の民家だった場所です。その一階部分をギャラリーおよび小さなイベントスペースとして使えるようになっています。開場待ちまでの列の並びは,劇場の開場待ちとは異なった雰囲気で,ちょっと小洒落た小料理屋さんに列をなしているような錯覚に陥りました。

入り口は民家の玄関そのままになっていて,今回は上がり口の所に背の低い木の机が置かれて受付となっていました。普通受付というとパイプ椅子が組まれていることが多いのですが,ここは民家。板の上に座布団を敷いて受付が行われます。受付が終わったら靴を脱いでイベントスペースへ。昭和の時代に誰かの家を訪問しているかのような錯覚に陥りました。

元々は居間であったろう場所へ進むと,こんな感じで客席がセッティングされています。パイプ椅子ではなく,低い木の椅子。椅子には手作りのフライヤーがセットされています。いつもの劇場よりもだいぶかがんだ状態で腰掛けます。

 座って前を見ると,下手には古風な長いす,上手にはウクレレと腰掛け,そして前方にはガラス戸から庭が見えています。庭の木には雀が止まっていて,蚊取り線香の煙がちらりちらりと顔を覗かせています。写真はだいぶ暗く写っていますが,もう少しほんのり明るい感じです。

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 開演直前に茨城県震源とする震度4の地震があり*1,2分ほど開演は押しましたが,特にそれ以上のことはなく,開演時間となりました。

もう千穐楽はこれを公開する頃には終わっているはずですが,一応ネタバレ防止の改行を連打しておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とっとと」というプロジェクトは芝居と,落語と音楽と,あと色々つくるということが目的となったプロジェクトです。今回の作品も1本のお芝居をひたすら見せるという形ではなく,下記の5つの出し物によって構成されています。

  1. 落語「猫と金魚」(参考:猫と金魚(ねこときんぎょ) : 落語あらすじ事典 千字寄席
  2. 落語「鏡屋女房」(参考: 鏡屋女房 - Wikipedia
  3. 演劇「海底を散歩するねこの話」
  4. ウクレレ&歌「もしものうた」
  5. 演劇「あしから花が生えた話」

根本さんと山口さんの冒頭の挨拶を終えた後,山口さんが奏でるウクレレと笛で,毎度お馴染みの笑点のテーマが演奏され,落語初挑戦という根本さんから落語「猫と金魚」が語られます。

それまで「初めてなので授業参観を見るような気持ちで見てください」と自信なさげに仰っていた根本さんが一言語り出した瞬間,それまで散漫にしか集中できていなかった私の集中力が,一点に集まるのが分かりました。気がつけば明瞭な発声と身振りですっかりとお話しに集中していて,ギャラリースペースで座ってみていることを忘れてしまうほどでした。

続いて,根本さんの衣装を着替える間に,山口さんから小咄が一つ。「この回はほぼ100%根本さんのお客さんなのでアウェイな感じです」と笑いを取りながら,「鏡屋女房」の一節を語ってくださいました。山口さんは関西小劇場の役者さんを中心とした落語一門「焼酎亭」で焼酎亭さかなというお名前で活躍されています。ほんのわずかの時間でしたが,焼酎亭さかな名義での寄席に伺って,色々な話を聞いてみたいと思うほど楽しい時間でした。

続いて,山口さんがそのまま落語の語りを引き継ぎながら,小作品「海底を散歩するねこの話」へと移っていきます。お話しは猫が海底を散歩しながら,様々な海の生き物と出会いやりとりしながら,冒険をしていくというストーリーです。根本さんがTwitterで子供に優しい団体を目指すと仰っていましたが,おそらくこの作品であれば子供も楽しいだろうなと思いながら,山口さんの奇抜な「タコ」「カメ」の演技に爆笑しておりました。

ウクレレ&歌「もしものうた」では,旗揚げと言うことで実験・挑戦をしたいという根本さんの希望で1ヶ月でウクレレを練習したらどこまで弾けるのかという企画で進んでいたことが明かされつつ,演奏が始まりました。自信が無いと仰っていましたが,きちんと成立する優しい優しい歌でした(難易度という話ではなく)。

そして,最後の演目が演劇「あしから花が生えた話」です。舞台にはちゃぶ台が運び込まれ,ノートと原稿用紙が山口さんの手によって広げられ,根本さんの手によって閉まっていた目の前のガラス戸が左右に開かれ,お話しが始まりました。

ストーリーは小説家の夫とその妻の間のやりとりで進んでいきます。小説家の夫が言うには,「私には見えないものが妻には見える」ようになり,ある日,「あしから花が生えた」という話を始めます。二人の関係を壊さないように,話を合わせているうちに,時間が過ぎていきます。夫は小説によって生計を立てていましたが,アイディアが思いつかず,締め切りが少し過ぎてから,妻の見えているものをそのまま原稿用紙に表現していきました。それが好評を博し,連載へと繋がったことで,ピンチに陥っていた二人の家計は何とか改善へと向かいます。しかし,妻のことを切り売りすることでお金を稼ぐことに,また妻に対して「普通」でないことを切り出せないことに,夫は苦悩します。薄氷を踏むかのように進んでいた,今にも壊れそうな二人の関係はある日突然,破局を迎えます。

淡々とやりとりが進み,それまでのパフォーマンスであった分かりやすい楽しさのようなものは最後の演目では抑えられていますが,私はこの最後の演目がとても好きです。

 

何よりもそれまでパフォーマンスをする場所として使っていた「しあん」のスペースが,まるごと舞台のセットになっていたことがとても新鮮で驚きでした。言うなれば,前半は山口さんと根本さんの表現力に魅せられ,二人のやりとりにフォーカスが当たっていたのに対して,後半は会場と一体となった二人のやりとりに見とれていました。

かつてテレビドラマは,生放送で始まったら1度求めることなく,演じられ続けたと言います。私はそのような場に立ち会ったことはないのですが,その時,もし観客として眺めることができたのであれば,目前でこのような光景が繰り広げられたのでしょう。

いや,テレビドラマという表現も適切ではないかもしれません。ラストに向かって,部屋の中だけでなく,ついさっき入場してきた玄関や廊下の電話,そして先ほど開場待ちで並んでいた道路にまで,舞台の範囲が拡張していった所は,普段の劇場では決して体験することができない新鮮な驚きがありました。

見えないユニコーンを追いかけて出て行く妻の姿が,ガラス戸,そして庭の向こうにある石垣の隙間からチラリと見える瞬間は,この物語のクライマックスですが,このシーンは,Gallery & Space しあんでしか実現できないシーンで,強く強く記憶に残りました。

わずか1時間ほどのパフォーマンスでしたが,ふと昭和の時代に迷い込んで夢を見ていたかのような幸せで楽しめる時間でした。次回公演はまだ未定とのことですが,もし叶うならば,場所を活かしたパフォーマンスの第二回公演を目撃したいと願いながら,先ほど脱いだ靴を履いて,会場をあとにしました。

tottoto.wix.com

*1:古い民家なので思いっきり揺れました。山口さんが落ち着いた頃にすっと現れて,大丈夫でしょうか,もし気分が悪ければ空気を吸ってきてくださいと本番前にもかかわらず声がけに来てくださっていました。