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リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】満月動物園「ツキノヒカリ」

ども。イマイです。

一つの劇団さんを好きになると,継続して見続けることがあります。今年は,自分が気になっていた劇団さんで,1年の中で連続して公演を行うところが複数あり,足を運ぶことが叶いました。1年に1回だけでも大変なのでしょうが,短期間の間にいくつもの作品を作り上げていくというのは,私の想像が及ばないところで大変なのだと思います。私としては,思う存分楽しませてもらってログを書くことで少しでもお返しできればと思います。

さて昨年の年末,12月26日(金)という時期に「こんな年末に公演を打つなんて面白そう」という軽い気持ちから観に行った満月動物園さんでしたが,

librarius-theater.hatenablog.com

 気がつけば観覧車シリーズの5話のうち,4話*1を目撃することができました。(続きは「続きを読む」ボタンをどうぞ)

www.fmz1999.com

大阪は日本橋,シアトリカル應典院。入り口の片開き扉を手前に引くと,待合所のスペースとロビーが現れます。

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受付を済ませて,待合所の椅子に座っていると机の上に,こんなアイテムが。物販の宣伝ですが,こういう細かい所まで配慮されていることがとても嬉しいです。

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開演30分前になり,会場,2階ホールへ向かいます。舞台上は恒例の白幕で周りが囲われていて,舞台上には木板で組まれた箱が数個置かれています。これまでの作品では客演の役者さんが出てきて前説を行っていましたが,今回はスタッフの方が注意事項と上演時間の目安を説明して,そのまま舞台が始まりました。始まり方から私が観てきたこれまでの3作とは異なる始まり方です。

観覧車シリーズの最終話。連続シリーズなので,これまでの作品を観た方も楽しめるようになっていますし,もちろんこの作品だけを観ても楽しめるように作られています。過去4作は再演なのですが,この作品だけ完全新作とのこと。 

旅行中に未曽有の大事故・観覧車倒壊事故に遭遇し、奇跡的に一命を取り留めた澳(おき)。 その後、事故現場となった関西に近づくことはなかったが、 転勤によって10年ぶりに関西を訪れることになった。 逡巡しつつも事故跡地に足を運ぶ。ようやく整備計画がまとまり、跡地はやがて祈念公園となる予定だが、 その前のむき出しの跡地は、フェンスで覆われ外からは詳しく窺うことができない。 設けられた祭壇に積まれた花束や千羽鶴の山。空を見上げても、そこには何もない。 澳は、事故によって様々に人生に影響を受けた人たちと出会うことになる。 事故の際に取り憑いた死神も一緒に。 ( http://www.fmz1999.com/26th/story.html より引用)

では,恒例のネタバレよけ改行連打をします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良かった。目撃できて,本当に良かった。

マチネのアフタートークで應典院寺町倶楽部会長の西島宏さんと,baghdad cafe'の泉寛介さんが同様に仰っていましたが,こんな感じの作品かな?と思わせておきながら,途中から作品の重さが変わり,そして予想もしない所へ,期待した着地の仕方で着地していったという感じの舞台でした。

目の前でそれまでのシリーズの情報を補完しながら,バラバラに見えていた物語が1つの線につながっていきました。 満月動物園さんの観覧車シリーズでは,ほぼ毎回,涙を流しているのですが,今回は中盤からずっと涙を流していました。それこそボロボロ涙がこぼれてくるレベルです。架空の事故である観覧車倒壊事故が,まるで現実に起こった事故であるかのような錯覚を覚えるほどのディティールの細かさ。物語のディティールが細かく分かることで,こんなにも心が揺さぶられるのかと驚きました。

あの日,その場所では何が起きていたのか,瓦礫と土煙の中で見えた満月は何を照らしていたのか。そして避難所となった高校の体育館に運び込まれる遺体,加害者となった観覧車制御室の職員とその家族の辿った物語。10年の時を経てようやく事故の話を語り,お互いを思いやりながらも,取り戻すことのできない時間や人に思いを馳せて,やっと悲しむことの出来た人たちの言葉に,涙を止めることが出来ませんでした。

「悲しむために資格はいらない」

フィクションのお芝居の台詞なのに,現実に迫ってくる,むしろフィクションだからこそ現実にここまで迫ってくるのかもしれません。自分の周りの色々なものにそれを重ねてしまいます。

コミカルな場面も,シリアスな場面も全部が全部いとおしく思う最終話です。全ての登場人物がいとおしく思える最終話です。この5作品は「誰か」の物語ではなく「全員」の物語でした。 温かい雰囲気として展開されながらも,「死」が前提として作られている「生」の物語でした。

ラストシーンの白幕から暗幕へと切り替わる瞬間は,このシリーズ初めての暗幕使用ということもあって,非常に印象的なシーンでした。取り戻すことの出来ない絶望から,例え暗闇であっても前へ進もうとする登場人物の心の切り替わりが明らかになっていました。第一話の澳がなぜ天寿を全うできたかがハッキリと分かりました。

役者さんの熱演も素晴らしいものがありました。後で詳しく触れますが,新米神様の「お父さん」という台詞は,もう一度聞いても泣いてしまいそうです。

照明の効果も大変美しく,手に持ったライトで人物を照らす演出,暗闇の中の舞踊,薄明かりの中の独白,そのどれもが記憶に残るシーンでした。特に澳の眼前を死神が遮るシーンで,背景に映った死神の影は,凜々しく象徴的で,見届けて良かったと感じる場面でした。

終演後のアフタートークも午前,午後と実施され,今回の公演の背景がより理解する助けとなりました。一言一句メモを取っていたわけではないので,あくまでも記憶の糸をたぐっての記録ですが,覚えている限りのログを書いておきます。

  • 通常暗幕は「何もない」というメッセージを伝えるものだが,應典院はもともと白い空間なので,暗幕を使うと「ない」ではなく「黒い布」があるという認識になってしまう。だからこそ,白い幕を使っていたが,今回は暗闇を表現したくて暗幕を使用した。
  • ドキュメンタリーは自分にはできないと思っていたが,観覧車事故という架空の話を通じてならフィクションとしてのドキュメンタリーを作れると考えた。

あとソワレのアフタートークで應典院主幹の山口洋典さんが仰っていた「満月動物園の物語は筋が通っている。最初はそれが明らかでなかったかもしれないけれど,空にある星をつなげて星座になったように,作品を発表する中でそのつながりが明らかになっていった」というのは,作品を表すのに素敵な表現で,自分でもどこかで使ってみたいと思う表現でした。

その他メモしておきたいこととしては,アフタートークで,2015年1月の下記のイベントに満月動物園の方が出演されたことが今回の話につながっているということでした。

www.outenin.com

この話を聞いて,そうか,この物語は加害者家族の話でもあるのだ,と改めて認識しました。やはり「全員」の物語だったのです。

「全員」という話を出したので,役者さんごとへのコメントを全員分書きます。テンションが上がっていて,変なことを書くかもしれませんが,それくらい凄かったと思ってください。

  • 河上由佳さん…死神
    死神は本作では見送るだけの存在で,神ではあるのですが,本作では等身大の人間に近い感じの印象でした。澳たちのピンチに仲間の死神に声をかけて何とかしようとしたり,疫病神たちの「卒業」をけしかけたり…。特に今回は神様特有の言い回しと滴としての言い回しの違いが,物語全体に対する「どうすることもできない」切なさと一途さにあふれていて,心揺さぶられました。あと,澳の眼前を遮っていたシーンの立ち居振る舞いは,後ろのスクリーンに映っていた影も含めて,何かカッコいいなあと思うのでありました。
  • 片岡百萬両さん…
    第1作に続いて2回目。片岡さんはコメディをよく作られる方(ミジンコターボでもその役割でした)なのですが,思い詰めた顔や,怖い顔が今回の舞台では印象に残りました。考えてみれば澳は10年過ぎたとは言え,最後のシーンまではまだ過去を乗り越えられていないわけで,ずっーと何かを思い詰めたような,弱い部分を抱え,心から笑うことがなかったのだろうなと思うと,あの思い詰めた顔も納得なのです。
  • 西原希蓉美さん…葛城
    カレンダー規程予約数突破おめでとうございます!…もとい,マチネの公演で,観覧車倒壊の日から体育館で遺体が運び込まれてきた日々,鹿太郎の遺体と向き合っていた場面を,号泣されながら演じられていて,その場でもらい泣きしてしまいました。西原さんといえば,歌の魅力に加えて,笑顔や天真爛漫なシーンをよく拝見するのですが,今回の作品ではまた違った色が観られて,凄い方なんだなあと小並感たっぷりの感想を抱いた次第です。
  • 丹下真寿美さん…あすか
    客演ながら,全作品コンプリート。今回は,姉を理解しようとする,でも実はよく分かっていない葛城しのぶの妹を,まるで本人がそこにいるかのように自然に演じていらっしゃったのだと思います。本当はあそこで語られている数倍,実家としのぶさん,あすかさんの間で何かをやり合っているはずなのでしょうが,それを淡々と語っていくことで,その数倍の世界がよりリアルに感じられました(本当に大変なことは大変そうには話さないですものね…)
  • 戎屋海老さん…潮見
    満月動物園さんは男の役者さんが,魅力的に見える作品が多いのですが,今回潮見役の戎屋さんは特にそう思いました。実は戎屋さんの演技は初めて拝見したのですが,潮見という人物が本人役で舞台上に立っているのではと錯覚するほど,最後は観ている私が感情移入をしていました。自分の立場をわきまえて,被害者には謝罪の言葉を心から言えるのにもかかわらず,本当は大声で泣き出したいくらいの喪失感にとらわれ続けている,考えてみれば辛すぎる立場ですよね…。
  • 横田江美さん…明海
    一番泣き出したいくらい辛い立場の明海という役を,サバサバした感じで演じていらっしゃっていたのが印象的でした。確かにお店の店長をやるくらいだから,これくらい切り替えてないとやれないだろうな,あー既に乗り越えていたのかなと思わせておきながら,実はまだ乗り越えきれていなかったというのが終盤判明するのですが,前半の方で大丈夫だと思わせておいた分,そのギャップが凄く,「加害者家族」の抱える立場の難しさが伝わってきました。
  • 諏訪いつみさん…夏海
    台詞量は一番少ないのですが,一番難しい,亡霊となった潮見の妻。でも立ち居振る舞いだけで,潮見を引っ張っていっていたんだろうなーと伝わるほど,凜々しい方です。しのぶが潮見に「一緒の部屋に泊まっても良かったんですよ」と言った時の表情の激変っぷりは,終盤の重めのシーンを和らげてくれる清涼剤でした。
  • みずさん…
    第1作でも思いましたが,澳は早く気づいてやれよと思うくらいの優しさ,そしてそれを押しつけないおしとやかさ。ふわっとした感じの中に,品の良さが伝わってくる感じは,この物語がもつ優しさの一つの表れなのかもしれません。潮見としのぶを探すシーンでの走り出すときの腕の振り方が,何かカワイイ感じで記憶に残っています。
  • 川端優紀さん…神さま(先輩)
    おそらくミジンコターボの最終公演以来,初めて拝見したのですが,内部に持っているエネルギーとか,それの出し入れの緩急が達者な方なのだなあと改めて感じました。純真な少年(今回は特にそうですが)の,何も考えていない感じながら,実はちゃんと考えていて悩んでいる様子が,台詞や演技の中にちりばめられていました。片岡さんとの掛け合いのテンポの良さをみながら,また拝見できて良かったと感じました。
  • 加藤光穂さん…神さま(後輩)
    ツキノオト以来2回目に拝見する方ですが,凄く魅力的な方です。なりたての疫病神が,目の前で展開される「悲しみ」に戸惑うさまのフレッシュさとか,色々素晴らしい箇所があるのですが,何よりも後半の
    「お父さん」の台詞は,今聞いても,たぶんDVDで観ても目頭が熱くなるはずです。そして,終盤の死神との契約シーンも約束された出来事は,何も後悔することはないはずなのに,加藤さん演じる娘の純粋さがかえってその出来事の残酷さを克明に描き,とにかく哀しく映ってこれまた涙が止まらないのです。 学生時代最後の舞台とのことですが,今後も機会を伺って拝見したい役者さんです。

とにもかくにも,新幹線で駆けつけて全く後悔しない素晴らしい舞台でした。満月動物園の皆様には,深く感謝申し上げます。リアルタイムでこの観覧車の物語を目撃できたことは,間違いなく今年私が経験した幸せの中で,忘れたくない幸せの一つです。

本日,12月20日(日)が千穐楽ですが,最後まで皆さんが無事駆け抜けられますように,祈っております。また来年秋予定の舞台も楽しみにしています。

*1:本当に1話分観に行けなかったのが残念でなりません…