リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】劇団ショウダウン「パイドパイパー」

ども。イマイです。
1月から楽しみに待ちわびていて,ついにこの日が来ました。

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劇団ショウダウンさんの「パイドパイパー」。昨年の池袋演劇祭大賞によって実現した,あうるすぽっとでの公演。「マナナンマクリルの羅針盤」の再演ではなく,敢えて新作で臨むチャレンジャー。1月の公演直後に観劇を決めた私も相当盛り上がっていました。DVDを見返すだけでなく,公演前のブログで発信される情報にワクワクし,池袋演劇祭のCM大会もチェック済みと,ハードルはガンガン上げていて,もしかしたら拍子抜けするかもとうっかり考えるほどの盛り上がりでした。

CM大会の映像はこちら。www.youtube.com

結果,劇団ショウダウンさんはそのハードルを遙かに超えるどころか,単なるご祝儀的な舞台ではなく,本気も本気,本格ファンタジーをこの公演にぶつけてきました。ハードルなんて予防線を張っていた自分が恥ずかしくなります。ただただカッコイイ,この空間をまだまだ眺めていたい。こんな凄いものを見せてもらったこと,この時間に立ち会えたことがただただ嬉しい。世界にはまだこんなに綺麗で見事なパフォーマンスが存在しているのだと,認識できて幸せです。

先に結論を思わず書いてしまうくらい伝えたくて,そしてこの少ない公演期間の中で,もっともっと多くの人に見てもらいたくて,記録を書きます。これから見るのでネタバレが怖くて見ない方,今からでも土日両方の公演を押さえた方がよいです。一回だけでなく二回見た方が楽しめます。

stage.corich.jp

先を読みたい方は続きを読むをどうぞ。









では,ネタバレ防止のために改行を重ねます。










パイドパイパー」はハーメルンの笛吹という有名なお話がモチーフになっています。舞台は中世を思わせる城の外壁が構築されています。

開演すると,林遊眠さん演じる「老婆」が真壁愛さん演じるメリアにお話を語って聞かせています。少しずつゆっくり物語が進行するのかと思った刹那,突如物語は剣術のシーンへ。まだ名前も分からないキャラクターが叫び,立ち上がり,飛び回りながら重要な台詞を立て続けに紡いでいきます。

そう,必要な言葉はすべて尽くされ,物語は語られていきます。その饒舌さはマナナン・マクリルの羅針盤,はたまた講談を思わせるほど。しかし,この饒舌さに流れている言葉一つ一つが散りばめられた伏線なのです。

老婆の昔話は,中世の世界での剣術を経て,ヒース,パイドパイパーという2人の登場人物が明らかになります。場面は変わり,いつかの時代の学校へ。そこで歴史の教員イグリッドから児童*1に語られるのはハーメルンの笛吹の物語。ある街でネズミが大量に発生し,追い出すことが出来ずに困っていたとき,ある笛吹きが笛を吹くことで,ネズミを追い出す。でも,キチンと報酬を街の住民が支払わず,怒った笛吹きは再度笛を吹いて,街から子ども達を追い出してしまった。その荒唐無稽に見えるおとぎ話が,実に丁寧に舞台上で再現されていきます。

イグリッドはメリアに語りかけます。「でも,本当は何が起こったかをご存じですか?」「わかりません」。当然昔のおとぎ話。子どもであるメリアにそのようなことがわかるはずもありません。しかし,「あなたなら分かるはずです」とイグリッドが語りかける,もうこの段階から1回見ると,実に伏線に忠実にそれぞれのキャラクターが動いているのです。メリアはイグリッドと別れ,自宅に戻ろうとします。

シーンは変わって喧噪の中,飛行機の音,ユンカースという名称,このことからこの世界が20世紀,1945年であることが分かります。諜報の目的で訪れている男女3人組,なんと狙っていたのはミリアの命。そう,あの学校のシーンも1945年だったのです。ミリアが諜報員に襲われ,その生涯を閉じようとしたその瞬間,あり得ない人物が舞台上に躍り出てきます。ヒースその人でした。ピンチを危うく逃れ,自宅に帰り着き,父親に助けを求めるミリア。しかし,ここにも諜報機関の人間が現れ,父親が負傷,ヒースも負傷します。しかし,そこで登場したのはまさかの笛吹き,パイドパイパー。この瞬間から13世紀と20世紀の時間軸が何度も交差し,そして同じ登場人物を従えながら,行きつ戻りつ物語が進んでいきます。

この行きつ戻りつは一見すると,しつこく描かれているように見えますが,物語を全て理解した上で眺めると,一人一人のキャラクターの背景を明確にし,そして誰しもがそれぞれの理由で生きて,動いて,そして立ち向かっていることが分かります。名前のついているキャラクターそれぞれに物語があるのです。2回目に見たとき,舞台がきらきらと輝いて見えるのは,照明のすばらしさもありますが,そうしたキャラクターの魅力もその輝きの一つだったと思います。

終盤につれて明かされていく伏線は,時に心揺さぶります。12年間の輪廻を脱せないミリアムと,それを守り続けなければいけないヒースとパイドパイパー。CM大会のあの台詞が舞台から聞こえてきたとき,胸がグッと締め付けられるような感情の動きが確かに私の中にありました。そして,メリアが物語を終わらせようとするとき,この1000年間の苦しみとか悲しみとかが押し寄せてきて,眼が熱くなったのは本当です。2時間30分の壮大な物語は,劇団ショウダウンさんが仰る「次回作こそ最高傑作」という言葉を,そのまま表しているような素晴らしい傑作でした。

あの場に立ち会えたことを誇れるような舞台を観られたことは何よりの幸運です。

さて,まだまだ語り足りません。とにかく演じる方達が素晴らしいのです。ええい,もうこうなったら,無茶だと思いますし,こんなの初めてなんですが,どのキャラも魅力的なので,キャスト表の全員分書きます。キャラの横の丸括弧が役者さんの名前です。

  • なんと言ってもこの物語の中心人物であるパイドパイパー(林遊眠さん)。どこにそこまでのエネルギーが蓄積されているのかと驚くほど,動と静,あどけなさと達観しているようなそぶりのコントラストが凄く,1000年以上の時を生きるしかなかったパイドパイパーの複雑さが凝縮されていました。
  • ミリアムとメリア(真壁愛さん)は,真壁さんはミジンコターボの解散公演で拝見して以来なのですが,物語の核心を強く,でも儚く演じていたのが強く印象に残っています。
  • ヒース(飯嶋松之助さん)は,未来を切り開いていく強い役,まさに物語のヒーロー的立場で,とにかく台詞使いから立ち居振る舞い,アクションのどれもが魅力的です。カッコよいのに,繊細でそんなところがどこまでも魅力的な演技でした。
  • ヒースの従者であるマルヴォそしてジャック(為房大輔さん)は,ストーリーテラー的な役割で台詞がかなりの量だったと思うのですが,まさに楽器を奏でるがごとく,雄弁にかつ明瞭に語っていらっしゃいました*2
  • ギョーム(三好健太さん)は,物語の悪役。でも独特の雰囲気でただの悪役ではなく,何か信念を持っていたことを感じさせる迫力がありました。
  • アシュラフとクロウラー(伊藤駿九郎さん),今まで拝見しなかったことを後悔するくらいカッコいい役者さんでした。思わず帰りの物販でKING&HEAVYのDVDを購入する勢いだったくらいでした。大切に拝見します。
  • アイシャとジーナを演じた(小野村優さん),美しかったです…。あれだったら騙されても良いです(駄。でもあの母親の顔を見せるシーンはちょっとグッとくるものがありました。
  • イグリッド(山口敦司さん)は,物語上ではストーリーテラーとして,そしてもう一つの重要な役を担当されているのですが,ストーリーテラーとして台詞回しの一つ一つが明瞭かつ名調子であり,そして終盤にその名調子に狂気が混じって何とも言えない魅力がありました。
  • アーシェ(根本沙織さん)は,一見,道化回しのような位置づけかと思いきや,あんなに大切な役割を持っていたとは…。あんな姐さんがいたら,リックやミハイでなくても言い寄るのは分かる気がします(分かるのか
  • ミハイとアズール(佐竹仁さん),ひょうきんな部分もシリアスな部分もこのキャラクターがいないと魅力半減だなと思うくらい,暑苦しいけど憎めない大切なキャラでした。でもあれを憎めないように演じるのは難しいんだろうなあ…と素人考えでも思うのです。
  • リック(今井つづるさん),えっ本役はこの役だけだったのですか,と思うくらい,舞台のなかであちこちに印象に残るモブキャストとして登場していました。礼儀正しい所から戦闘マシンなガチムチ(笑)まで幅の広いのが印象的でした。
  • ヨハンとルートヴィヒ(中川律さん),ルートヴィヒの皮肉たっぷりな感じが本当に存在していた王侯貴族みたいで,思わずにやついてしまいました。でも,1945年にはちゃんとメリアを守っている優しいお父さんです。
  • ボイドとモハメド(流石鉄平さん),ボイドのとぼけながらもちゃんと全部分かっていてとぼけている感じが記憶に残っています。モハメドは以外と早く退場するのですが,その原因となるシーンでの怯えた顔もまた記憶に残る感じです。
  • アルブレヒトとジャン(仲井大和さん),アルブレヒトの皮肉合戦が思い出されます。いやあ幾ら道理が通っているとは言え,嫌な奴だというのが雰囲気からも伝わるのは凄いと思います。後半ジャンが勇ましく登場したのにザックリ切られてしまったところは,あそこは笑って良いところなのですよね…たぶん。
  • ミンデン(尾崎秀明さん),教会の神父として,様々な策略を講じながらも結局は老いを恐れるという人間というのが,嫌な奴なんだけれど凄くリアリティを感じさせていました。フードをかぶって声色を変えているだけなのに,すっかり老いている感じが出ている所は,役者さんって凄いなあと思うのです。
  • レスタト(上杉逸平さん)は,もうこの物語には必須の役どころで,この役が出てくると物語が展開していく重要なアクセント。明らかに他のキャラと違うことが立ち居振る舞いからも伝わってきました。命令を忠実に守ろうとしながらもどこか孤独さを感じさせるあたりの複雑さは,レスタトだけの物語を別に作れるのではないかと思うほどでした。
  • エスター(宮島めぐみさん)は,小型キャラでちょこまか動き回る役。割と残忍な役ながら,子どもっぽい感じが出ていて,むしろそのピュアさが残忍さを強調している感じでした。モブキャラでもあちこちに登場して,実は大切な台詞をたくさん語っています。
  • キリア(青山莉緒さん)は,中盤から終盤のみが本役ですが,奔放なエジプト軍の「お頭」「子分」関係を成り立たせるやりとりをになっています。でも実は子どもっぽそうで仕事が出来そうな感じ(予想
  • オーランドとストラド(小出太一さん),相関図を見ても何か印象が薄いなあ…と思って台本見たら,ああぁとなる記憶に強く残っている中間管理職と,アンジューの山犬。実は美味しい役なのかもしれません。

と,語彙のなさが最後のあたりで露呈してますが,全員分コメントが出来るくらい,どのキャラもきちんと語れるだけの背景を持ち合わせているのです。これってやっぱり凄いお話ですよ。

さて,まだまだ続きます。照明や音響,セットもこの舞台を語る上では外してはなりません。照明はそれぞれのキャラの心理状態を反映し,そして合戦を魅力的にし,時には役者の顔を隠して群衆を表現します。音響はオリジナルサウンドトラックを当たり前のように購入するくらい,効果的にカットアウトが使われています。自分も真似して,あんな感じで大見得を切ってみたいです(無理)。セットはじつは一回も転換しないなのですが,屋敷になったり砦になったり,街並みになったりと変幻自在。

それから,この引っ込み思案の私が,終演後に演出のナツメクニオさんと,林遊眠さん,宮島めぐみさんにそれぞれ声をかけて,「素晴らしい舞台をありがとうございました!」ということを申し上げてしまうくらい,それくらいの力を持った舞台ですし,それを許容してくださるだけのとても温かい劇団さんでした。

2016年の1月21日(木)から1月24日(日),池袋シアターグリーンBASE THEATERにて劇団ショウダウンさんの公演があります。今度も是非都合を合わせて駆けつけたいと強く思います。こういう劇団さんに出会えて私は幸せです。

さてさて,気がつくと過去最大級の文字数になって,もう誰かが読むことよりも,あふれ出る表現欲をぶつけるだけの場になっていますが,それだけ良い舞台だったのでした。ここまで読んでくださった方でまだ駆けつけられる方は是非駆けつけてみてください。ではでは。

追記:実は歴史の研究をしている身としては,イグリッドの「歴史学は積み重ねだけど,その全てが記録と仮定と推測の積み重ねなの」という台詞にグッときました。どこかで機会があれば使いたいと思います。

*1:ここでは12歳以下なので,あえて児童と書きます。

*2:大阪バンガー帝国の大塚 宣幸さんがよぎったのは内緒です。