リブラリウスと趣味の記録

観劇とかパフォーマンスとかの鑑賞記録を淡々と。本務の仕事とか研究にご興味ある方は本家ブログまで( http://librarius.hatenablog.com/ )

【観劇ログ】満月動物園「ツキノオト」

ども。イマイです。

昨日に引き続き,大阪遠征の観劇中です。今日拝見したのは,満月動物園さんの「ツキノオト」です。

おそらくこのポストが投稿される頃には千穐楽が開演している頃なので,ネタバレを恐れずに投稿いたします。なので将来の再演とかの前にネタバレしたくない方は,続きボタンを押さないようにしておくと良いかもです。

予想を遙かに超えて,長文になっていますが,それだけ私はこの作品が好きなのです。「伝われ,私の気持ち」(劇中台詞からの引用)。

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本年5回連続で「観覧車シリーズ」として開催されている本公演の第3弾で,色々スケジュール的に難しいかなと思っていたのですが,色々な事情が重なりまして,今回も無事観劇することができました。

【観劇ログ】満月動物園「ツキカゲノモリ」 - リブラリウスと趣味の記録

【観劇ログ】満月動物園「ツキノウタ」 - リブラリウスと趣味の記録

満月動物園さんは,前回,前々回の公演を拝見しただけでしかないのですが,すっかり気に入ってしまったので,今回も気合いを入れて大阪は日本橋のシアトリカル應典院さんへ向かったのでした。

ちょうど今日は,観劇保育というサービスをやっていらっしゃっていたためか,子連れの方がちらほら見られました。このサービスの面白いところは,単に観劇中に子どもを預かってくださるだけでないところ。

www.fmz1999.com

保育にあたっては、上演作を分かりやすく描いた紙芝居の読み語りを実施。 帰り道は、お子さまと共通の話題を楽しみながらお帰り下さい。 

個人的にはとても面白いアイディアだと思いますし,もっといろんなところが真似しても良いのにと思っていたりします。

その後,物販コーナーを眺めつつ,本公演の台本やCDなどを購入してみたり,應典院さんのフライヤーコーナーで配布されている色々なパフォーマンスのフライヤーを眺めてみたり,そんなことをしている間に開場時間がやってきました。

場内には弦楽器の音色が小さく流れていて,暗幕ではなく白い布が舞台全体に張られています。今回は予約をしていたので,最前列の席に着席。開演時間を待ちます。

前説は月曜劇団の上原日呂さん。すかした,一見すると脱力しきっている感じの進行で,上演前の注意喚起*1。しかし,会場に時報が鳴ってから手元の白い粉を顔につけてから「椅子男爵」として,台詞を話し始めたとたん,舞台がキッと引き締まり,今回起こる悲劇を予感させます。西原希蓉美さん演じる朱鷺は,後で人見知りの役として出てきて,ひたすらおどおどしているのですが,ここでは,物語の展開を予測させるような迫ってくる台詞を紡いでいきます。

場面は変わり,舞台に登場するのは,ここまで死神役として全二作に登場した河上由佳さん演じる彩子。交通事故に巻き込まれ,体が宙に浮いているシーンをマイムと人の動きだけで表現されています。そして,その場に登場するのは丹下真寿美さん演じる,サンタではなく,死神の「鈍(にび)」。死神役の独特の台詞回しで登場するも,あり得ない凡ミスで,本来死ぬべき所でないところで彩子を死なせてしまい,シリーズ第三回目にして,政府回しがプライベートモードへ移行する緊急事態(要するに普通の口調に戻り)。このギャップで,場内の緊張した空気が一気に和らぎ,笑いを交えながら世界へと入り込めるようになっています*2

誤って死んでも本人の同意がなければ生き返らせることは出来ないという,これだけでも一本のお話が書けそうなくらいの大事件発生。でも,彩子はあっさり生き返ることを選択し,ここで一件落着かと思いきや,鈍はうっかり「観覧車が倒壊して彩子が死ぬ」ことを漏らしてしまいます。でも,ここでもあっさり彩子はそのことを受け入れます。そして,交通事故で飛び込んだ先のボロアパートで,朱鷺に助けられ,物語は徐々に動き出していきます。

再び,舞台には上原さん登場。ここからは瑠璃という彩子の婚約者として,登場。これまでのシリーズでは,死神の存在を信じない「物わかり」の良くない登場人物ばかりが出てきますが,ここも瑠璃は観覧車が倒壊することでさえ,あっさりと事態を受け入れています。朱鷺も瑠璃が物わかりが良いので,単に大ざっぱな人なのかなと錯覚しますが,これは自分の考えをきちんと口に出来ないことの裏返しなのだなと気がつくと,色々な応答の意味が変わってしまって,それはそれで面白いところだなと思いました。

そして,物語は徐々に登場人物が増えてきます。

瑠璃の会社が作る組紐を扱う和服問屋の事務員は,諏訪いつみさん演じる菖蒲。登場時から,単に商品の納品に来ただけの瑠璃を気にかけ,ちょっとした相談事にも応じてあげています*3。「ビシッとしなければあかんよ」という態度は最初から最後まで一貫しているので,まさに姐さんという表現が適切でしょうね。

彩子の仕事先のイベント会社のシーンでは,信平エステべスさん演じる琥珀が登場,いきなり浮気して別居していることがバレるあたり,嘘がつけない,物語上では悪人になれないタイプのキャラ。あちこち転職しているというのが,物事を1つに決められない(=覚悟が決められない)性格とピッタリかなと思います。

そして,竜崎だいちさん(竜とドラコ)演じる珊瑚が登場。今回は「あやまちはおそれずに」というフレーズが出てきたので,登場シーンもわかりやすく。でも,あれ最初から後ろに隠れてたんかい。中村ゆりさん(魚クラブ)演じる杏は,出とちった設定で,ずいぶん後から出てきますが,菖蒲と琥珀の関係をややこしくした修復させる重要な役を果たしています。そもそも物語上は,珊瑚も杏も自分の子孫を知らなかったという設定になってますが,特に杏が物語の後半にあまり出てこないのは,朱鷺が子孫だって知ってたから気になって見に行ってたんじゃないのだろうかと勘ぐるぐらい,二人ともドタバタしているようで,相当したたかなのではないかと思います。

古田里美さん演じる東雲は,彩子の「母親として」登場します。娘と同じくらい,というかもっとひどいザックリした性格。物語の途中で何度も親だったら泣き出したり,怒り出したりするだろうという場面をことごとく笑いに変えていくのですが,ザックリしているようで,たくさん辛い思いを抱えていたのだろうなということは物語の後半でようやく分かってきて,このお母さんも強いなあと感嘆するのです。

加藤光穂さん(劇団てんてこまい)演じる常盤は,おそらく最後に登場するのですが,これもこれで良いキャラクターかつ重要人物で,朱鷺と瑠璃の関係,そして彩子と瑠璃の最後まで語られなかった,最初から分かっていればこうはならなかったと思うくらい,優しくて切ないあの事実をつなげる大切な役目を担っています。

と,ここまで書いてきて気がつくのは,一人としてこの物語には無駄なキャラクターが存在しないこと。そして,終演後に台本を開きながら分かることは,一見すると無駄話や世間話かと思うようなネタであっても,きちんと次へつなげていく大切なパーツなのです*4

もちろん,この緻密なストーリーを成り立たせるのは,台本だけではなく,役者さん皆さんの演技があってのことであって,2時間30分という比較的長めの時間の公演にもかかわらず,そして小道具やセットがほとんど無い中で,あの世界を成り立たせるのは,熱演なのだと考えます*5

光や音というのも,この舞台には必須でして,特に青色の照明に照らされた役者さんを見ていると,いつまでもこのシーンを切り取って残しておきたいと考えるほどに,美しい絵がそこにはありました。西原さんの歌も舞台の中で,重要な役割を果たしつつ,それ自体でも楽しめるような力を持っています*6

後半の物語の盛り上がり方は,ここまで見た三部作の中で,一番私にとっては感情揺さぶられるものでして,終わるまでの間,周りを気にせずボロッボロ涙を溢していました。瑠璃の以下の台詞は,今,台本で見返しても感情が高ぶってしまうほどです。

もう一回,会わせろや。言うことあんねん。

この台詞がどうしてグッとくるのかは,今後販売されるDVDとかで是非ご覧になって頂ければ幸いです。台本の後書きでで戒田さんが「なくす」ことを極度に怖がっていると仰っていました。確かに失うことを怖がっているからこそ,あの登場人物はあそこまで物わかりがよさそうで,でもきちんと自分の思いを伝えられないのかなあと,あの世界を思い出しながら,登場人物達のことを思い出しています。

そういえば,演出の戒田さんが,「京都の演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫」でちょうど本公演のことについてインタビューを受けています。恐らく私の妄想よりも百倍参考になるかと思いますので,ご興味のある方は是非ご覧ください。

www.intvw.net

2日間にわたった大阪遠征もこれで終わり。私の期待以上に,この空間にいつまでも留まっていたいと感じる瞬間が多く,またこういう瞬間を楽しみにして,明日からもちゃんと生きていこうと思います。

次回,9月公演はどうしても伺えないのですが,12月はなんとしても日程調整をして伺いたいです。というわけでおしまい。

追伸:もしかして,「愛しさと切なさと心強さと」が本作品のテーマだから,途中に登場するのかという,まさかの仮説が思いつきましたが,この場で却下。そんなシャレが…あるかもしれませんね(^_^;)

*1:といっても,このシーンもきっちり台本が決まっていて,ほとんどアドリブなしになっています。

*2:でも後から考えると,自分の一族の最後の子どもに初めて会ったのだから,色々話したくもなってしまって,あのミスもただドジでやらかしたのではないと考えると,またぐっとくるものがありますが。

*3:後から考えると実は菖蒲の方が最初から瑠璃のことを気にしていたのかもしれないのですが。

*4:自分の今の仕事でも重要なことなので,教訓にしたいなあと思います。

*5:アンケートにも思わず書いてしまいましたが,特に上原日路さんの演技が凄かったなと思います。どちらつかずだけれど一途で不器用な男性をそのまま体現してましたもの。ぐにゃぐにゃでフラフラな婚約者を演じつつ,そしていざ重要なところでは必要なことをきちんと伝える,オンオフの切り替えの凄さは流石だと思います。あと,アンケートには書き忘れてましたが,河上由佳さんが涙を流しているシーンは一緒になって私も泣いてしまいました。素晴らしいシーンでした。

*6:というわけで,CDをお買い上げして,この後,しばらくヘビロテします。